第125話 開店!アース健康増進軒!

孤児院閉鎖事件の解決から数日が立ち、顔役の突然の失脚にざわついていた貧民街も、一応の落ち着きを取り戻し始めていた。


その間俺がやったことと言えば、借りた物件の内装を準備したり、関係者にレベル上げを強要したり、孤児院の子供たちと遊んだり訓練したり、金策に新たなエンチャントアイテムを作ったり、次の職業に向けて下準備をしたりである。


一番伸びているのは、タリアと共に先に経験値稼ぎを始めていたリタさん。治癒師が40レベル半ばまで育っている。

とばりの杖は使えないが、錬金術師アルケミストのスキルで捕獲した弱い魔物を、現金注入して強化し、封魔弾で倒すことで急激にレベルを上げた。

これまでは弱い魔物でも安全に捕獲する良い手段が無かったが、変成トランスミュートによって思い通りの金属枷を作れるようになったことで、捕獲し、そいつを穴に放り込み、強化して撃破、の一連の流れが可能になったのだ。


さすがに1000G金貨までしか使っていないから、50レベルまでは遠い。


エイダール孤児院のグットマンさんは、村人をカンストさせたので一般職である薬師に転職した。村人はカンストまでの必要経験値が少ないな。成長が早い。51レベルへの挑戦は止めて置くとのことだったので、今は薬師の20台半ばだ。村人の良い所は、一般職なら転職してもほとんどのスキルが使えるところだな。転職してもこれまでの仕事に支障がない。


ちなみに、獣人の薬師は珍しい。

主には薬草の栽培や下処理など、内職をメインにするつもりのようだ。需要があるからそれなりに稼げるだろう。頑張ってほしいね。


成人していた子供たちも、皆1次職中盤だ。とはいえ3人だけだけど。

3人共すぐに一般職のギルドに所属しなかった口なので、戦闘職を取って冒険者ギルドに登録している。

ステータスは上がって綺麗るので、これからは実践を中心として地道な訓練の日々だ。とりあえず走り込みからやらせている。


そんなこんなで順調に数日を過ごし、今日は食事処件診療所の開業日である。


「さて、そんなわけで今日から開業です」


パチパチパチ。拍手はまばらだ。

手伝いに来ている子供たちは元気だが、いい大人組の覇気がない。


「まず食事の提供、これはタリアがまとめ、13、14歳組がサポートでお願いします。スープとパンで1食4G。ステータスを確認して、未成人と病人にはそれぞれ条件に応じて無料で提供してください」


未成年は無条件で、病人は診療を受けることを条件に食事を提供することに成る。

今日のタリアは料理人だ。すでに調理は終えているけど、子供たちの指示を出しながらうまく回してくれることを期待。

1食4Gは貧民街だとちょっとお高め。でも王都の物価を考えると休め


「100食売って400G。用意した材料全部売っても1000Gちょっと?……赤字がきついわね」


次の仕込みの材料を見ながら金勘定をしていて、接客に意識を割く気は無いらしい。

大丈夫だろうか。


「診療はリタさんと俺が担当します。いきなり込み合うことは無いと思いますので、私は最初は別の仕事をして、必要に応じて合流します。リタさん、大丈夫ですか?」


「……話しかけないでください。覚えた臓器を忘れていきます」


別に試験じゃないんだから暗記しなくてもいいのに。

彼女はまじめな性格で、やると決めたら手を抜かないタイプらしい。コーウェンさんの治療もあるし、まじめに取り組んでくれることは良きかな。

とばりの杖を使って2次職に成ってもらっちゃうかな。タリアには信用しすぎと言われそうだけど、大丈夫な気もする。そうすれば再生治癒が使えるヒーラーが確保できる。


とりあえず今日の仕事としては、失職中の病人に職業訓練の案内書を手渡すのを忘れないでくれればよいのだが……まあ、なるようにしかならんか。


「バーバラさんは13歳以下組と一緒に、2階で文字と数字のお勉強教室の監督をお願いしますね」


街のいくつかにオープンの案内を出したが、貧民街は特に識字率が低いので子供たちは読めない可能性がある。

孤児院の子たちは年長者が下の子に簡単な読み書き計算を教えるが、両親が居てもそこまで至っていない子も居るのだ。

ご飯を食べに来た子供に、ついでに文字や計算も覚えて行ってもらおうという事で、2階は勉強部屋にした。エイダールやグレイビアードの子供たちも、何人かはこちらに来て過ごしている。

玩具もあるぞ。リバーシとかジェンガだけどな。


「……はぁ、なぜ私はこんな……はぁ」


「小さい子が多いですからね。安全を考えて、武闘派のバーバラさんがお目付け役をするのが良いです」


何かとても言いたそうな視線をこちらに向けているが、口にはしないらしい。


「アルバイトの皆さんは、混雑時の人の整理や、文字が読めない人への案内をお願いしますね」


1日100Gで雇った若手の冒険者たちだ。

ワタル・リターナーの名前で求人を出したら、昼飯付きの条件もあって非番の冒険者の応募がそれなりにあった。

その中から比較的若くてやる気のありそうなものを5人程雇っている。


「それでは張り切って働いていきましょう」


時計塔が10時を指し示したところでオープンだ。

店の前は既に暇な野次馬が何人か集まってきている。


「アース健康増進軒、本日オープンです~」


ちなみに、呼子が叫んでいる怪しげなのが店名。わかりやすくて良かろう。

関係者全員から不評だったが、面倒くさいので命名を放り投げた結果、妙案が出ずにそのままになった。

そもそも、これは何屋だ、という問いに誰も答えられなかったので名前が決まらないのも致し方ない。


「それじゃあ、俺は他の広場で芸をしてきます。アンナ、メアリー、よろしく」


「まかせろ!がんがん盛り上げてやる!」


「わたしも、頑張って声をだしますね!」


グレイビアードのアンナ、それにエイダールからメアリーが俺の方の興行を手伝ってくれる。

クロノス健康増進店は話題には昇っちゃいるが、興味を持たれているかというと微妙なところ。そもそも何屋か分からんのと、ドーレさんが捕まったので怪しげな店扱いされているところもある。


なので今日はこれから、宣伝を兼ねて別の広場で大道芸だ。

二人に手伝ってもらいながら、孤児院の子供たちに大人気だったアクロバット芸で人を集める作戦だ。


「さぁさぁ、皆様お立合い!御用とお急ぎでない方は、ちょいと見て行ってくれやしませんか!見ていくくだけなら誰の懐も痛まない!そちらのお姉さまがた、遠くで見てるお兄さんも!もうちょい近づいてさぁどうぞ!」


市の日には小さいながらも出店の出る広場の真ん中で、腹から声をひねり出す。


「わたくし普段はしがない冒険者をしておりますが、普段は野山を駆け回る荒仕事!落ち者拾いの実入りはあれど、人目を浴びることは無し!しかして、目立ちたいのも歳の性!いかようにすればモテるのか、考え考え考えて、思い至るは一つの答え!野山で鍛えたこの技を、皆に広めればよいのだと!」


コーウェンさんに力を借りて考えて、この数日練習し続けた口上を、想起リメンバーを使って一字一句間違えない様に、けれどテンポを落とさない様に紡いでいく。


「さぁ、まずは一回転。この場から立ち昇りて、くるッと回って着地する。それだけの芸にございます。なに、時間は一瞬、その足を止めて、こちらを向いていてくだせぇ」


二人に目線で合図を送る。周りは問題ない。

今回はステータスをブーストしてある。膝を半分まげて大きく地面を蹴る。初手は伸身の2回宙返り1回ひねり。

くるくる宙を回って、余裕をもって着地!よし、きまった!


「なんだ!すげぇ飛んだぞ!?」


「え!なに、ちょっと見てみましょうよ!」


よし、人の注目が集まってきた。さか、サクサクやって行こう。

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