真夜中に踊る冒険者

第372話 頼れぬ伝手を頼ってみた

 ホクレンでの戦いから半月ほどが経ち、クーロンでは初夏を迎える5月の後半になって、俺達はようやく戦いの事後処理から解放された。


 先の戦いでのホクレンの被害は、周辺の村落も含めて死者行方不明者がおよそ3000人。

 被害のほとんどは流動人口に分類される冒険者や軍人たちであったが、周辺村落の調査はまだまだ進んでおらず、被害者がさらに増えることも予想されるが、それでもいったんは一区切り。

 破壊された城壁や門は修復され、難民たちの住居整備や、近場の村では帰還も始まっている。


 俺たちがこの半月でやらなければならなかった事後処理は大きく3つ。


 一つ目は戦利品の分配と褒章周りの手続きで、これが一番労力はかからなかった。

 ドロップ品の中でも希少なものはごくわずかであり、そういったものは受送陣を使ってコクーンへナイナイしてしまったので、足がつくこともない。


 プリニウス戦では、軍の指揮官が伝説級スキルの反射によって根こそぎ帰らぬ人となっている。

 悲しい事件だったが、俺たちとしては幸いなことにこっちにかまっている暇がない。このままうやむやにしてしまえるはずだ。



 二つ目は無人だったのを良いことに拠点化した石切り村と、飛行船がらみ。

 やはり勝手に復旧したのは問題があったらしく、手が回るようになった段階で明け渡すように要請が来た。

 此方としても村を管理するつもりはないので不要なのだが、実は村自体はアース狂信兵団が護衛していたホクサンの住人たちが拠点にし始めていてすでに俺の手を離れている。

 ホクサンの難民の中にはホクサン領主の実弟が居て、領主が行方不明の現在、石切り村はホクサンの狩り拠点になっている。実弟も職業は領主である。



 石切り村は一度放棄されているので、ほかの領主が奪還した場合領地として主張してもクーロンの国内法上は問題はない。

 しかもホクレン領主はホクサン難民の受け入れを拒否している。これには思惑があって、ホクサン奪還の際にホクサンの民を領地奪還にかかわらせないことで、奪還後の領地をホクレン領の物と主張しようと考えたのだと思われる。

 なのでホクサン側も遠慮なく自領であると主張しているわけだ。


 それじゃあ石切り村はホクサンの住人たちが解放したのかというとまた違う。

 解放したのは俺たちで、クランが護衛していたホクサンの住人を受け入れたという形。つまりホクサンの住人は奪還にかかわってないだろというのがホクレンの言い分。俺には石切り村所有権はもともと発生しないから、ホクレン拠点の有志冒険者が奪還したのだからホクレンの領地なのは変わらないと。


 んで、ホクレンはアース狂信兵団に護衛と拠点の確保を依頼していて、そのオーナーは俺。だから俺が確保した拠点で、俺が許可を出せばホクサンが奪還したことになると。言い分はわかるし、主張としても問題ない。何せ村長を受け入れてるしね。

 ホクサンの難民は万単位なのに、精々百数十人も済めばキャパオーバーの石切り村なんぞ1つ確保したところでどうなるものでもないのだが、周囲の村落と合わせていくつか確保したうえで、さらに西のサホク領に援助を頼むらしい。ホクサンが奪還された暁には、石切り村周辺はサホクに譲渡するのだとか。


 はい、くっそめんどくさいですね。

 俺の采配でどっちに寄るか決まってしまうんで、奪還分の報酬は放棄して中央から裁定官を呼べと丸投げ。裁定官が来る前にはホクレンを脱出したい。


 これのついでとばかりに、飛行船についても問い合わせが来た。

 想像の範疇ではあったものの、ホクレン軍にも千里眼が可能な巫女がいて、タリアたちが到着したときの様子は盗み見ていたらしい。

 精霊魔術で周囲の魔素を平定したときに一時観測できなくなったが、突然飛行船が消えたため余計に注目を集めた。

 いやぁ、めんどくさい。


 魔物の攻撃を避けるための秘匿機能と言ってごまかしてあるが、暇ができて動き出す前にはホクレンを脱出する必要がある。


 そんな出立の理由だけが積み重なっていく中で、半月もここに居座っていた理由が3つ目。

 教会づてで蘇生の依頼を受けた亡者たちの対処である。死人の数が多い分希望者が多い。


 まずは『最後の言葉』を交わすという触れ込みで蘇生。

 人は欲深い者なので、そこから亡者としての活動を勧め、同意を得られた者が活動できるようにサポートを行う。


 軍の関係者の勧誘は除外したが、それでも亡者の人数は500人を超えた。一大勢力だ。

 亡者の特性の説明、魔物と戦うための装備品の提供、MPが確保できる魔術師系のレベル上げなど、やることは整理できている者の、さすがに人数が多すぎて俺一人ではどうにもならない。

 クランと他の先輩亡者たち引率してもらって、石切り村から北のエリアの魔物を滅ぼすつもりで、経験値稼ぎを兼ねた殲滅戦が始まっている。それでも活動時間が24時間を超えるだけのMPまで稼げるのは一部だろう。


 更に問題として生まれたのが、未成年の亡者の存在である。不運にも戦闘に巻き込まれて亡くなった子供たちが居て、彼ら彼女らの蘇生を強く望む親御さんは多い。

 しかしレベルの上がらない未成年は、俺のスキルで仮初の命を適用してもMPが低すぎて自立して活動は難しい。

 亡者となった後でも加齢によって成人を迎えるかは未知数。検証している余裕はないし、収納空間インベントリの中では年は取らないだろうから、検証するだけのMPはさすがに俺にもない。


「ってわけで、今は人造獣使いキメラ・マイスターに転職してみたんですけどね」


 人造獣使いキメラ・マイスターは死霊術師から派生する魔術師系3次職。

 死霊術師は死体を弄るのに特化した死体再構築デッドマン・リ・ビルドを有するが、人造獣使いキメラ・マイスターが複数の生物を合成した人造獣・キメラを生成するスキルを有する……らしい。

 マイナー3次職ともなると流石に情報が少なく、集合知では伝聞系のあやふやな情報しか得られなかった。


 更に言うなら、デルバイコクーンのエルダーたちも情報を持っていない。

 彼らの中で、エルダーになる前の職位が最も近かったのは、魔装機兵という機工兵ゴーレムソルジャーから派生した3次職。この系は人形遣い系と兵士系か鍛冶師の複合2次職で、ゴーレムを着こんで戦うタイプの戦闘職だ。


 ニンサルが定めた分類に従うなら物理系の職業であり、生物系だの神力系だのに分類される人造獣使いキメラ・マイスターとは類似点が無い。

 他のコクーンに問い合わせはお願いしたが、情報が出て来るかは微妙なところである。


「そんなわけで、魔物側そちらがわで情報持っていませんかね」


「……なぜ儂に聞く」


 デルバイからコクーンへとつながるダンジョンの6階層を久々に訪れた俺は、悪霊王ワイトキングが居座る――と言うか奴はこの部屋から出られないが――幽霊部屋にテーブルを置いて、優雅な尋問に精を出していた。


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予定より遅くなりましたが、本日から4章開始となります。

仕事はぼちぼち落ち着いて来ました。当面は1日おきに1話更新くらいのペースで進めようと思いますが、引き続き応援よろしくお願いします。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!


アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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