第373話 魔物の生態を調べてみた

 デルバイ・ダンジョンに戻って悪霊王ワイトキングにウザ絡みしているのは、何も経験値稼ぎの合間の一休み、というだけの話ではない。

 ホクレンの戦いで感じたのは、俺達はまだまだ魔物の事を知らないという事実。

 こいつらが疑似的な不死の存在である事は判明しているが、ふんわりとしか分かっていない特性も多い。

 そこで知ってる魔物の中で唯一『交渉』が可能で、かつ人語を解するこいつの元を訪ねてきたわけだ。


「まともに会話が成立する知能の在る魔物なんて、お前さんかロンリ-しか知らんしな」


 そしてロンリーは発声器官が無いのか会話が出来ない。

 人間側と念話チャットで会話するスキルも有していないようで、亡者が以前コミュニケーションを取ろうとしたら筆談からになった。しかも文字を教えるところからだ。やってられない。


「ダンジョン・コアを人質に取られてる以上、儂も協力せぬわけには行かぬが……だからと言ってテーブルを並べられるのは納得いかん」


 ダンジョンマスターが滅びた現在、このダンジョンを管理維持しているのはエルダーと捕まっていた元奴隷たちである。


「形式何て気にするなよ。さんざん殺し合った仲だろう?」


「儂が一方的にられとるだけなんじゃが」


「俺は1度死んだら終わりだからな」


「死んでも蘇って来る亡者の長が何を言うか」


 あ、悪霊王ワイトキングの中でも俺ってそう言う存在なのね。


「実際の所、魔物のシステムってどうなってるのよ」


 集合知の情報と、地球のゲームの知識なんかから推測すると、魔物は恐らく人格を記録した記録領域アーカイブが存在して、そこから地上の仮の肉体を操作していると考えている。

 悪霊王ワイトキングが前回の戦いをちゃんとすべて覚えていた事から、コピーやバックアップ方式とは違うはずだ。そしてそれは、亡者たちと同じシステムの可能性もある。


「自分の事だからと言ってすべてわかっているわけでは無いぞ。そもそも、こちらに顕現しておらぬ間は、人類で言うところの半分眠っているような状態じゃ。出来る事と言えば、スキル変成を組み替えるくらい……これも実際、顕現する直前に行っていると考えれば、実質的にあちらに居る間は何もしておらん」


「やっぱりスキルは変えられるのか」


「選択肢は少ないが、少なくとも儂らダンジョンの魔物は出来る。顕現する場所の情報も大まかにわかるので、それに合わせて編成をするのじゃが……これは我ら特有かも知れんな」


「知識の共有は?」


「……何を期待しているか知らぬが、ここで経験した知識以外は、生まれ落ちた時にもともとあった物以外に持ち合わせておらぬぞ」


「そのもともと有ったってのがポイントよ。湧く時生まれた時から知識を有しているなら、それはつまり、魔物がどこかに共有知識を有していて、そいつを参照してるって事だろ。さらに言うなら今知らない知識を得られないなら、更新できるのはポップのタイミングだけと考えられる」


 スキルの取捨選択と同じように、知識の取捨選択が可能な可能性がある。


「それを確認するために儂に死んで来いと?」


「いつものことだろう?報酬は支払うさ」


 差し出したのは1000Gに相当する金貨。だぶついているクーロン皇国発行の物だ。


「……儂が真実を話すとは限らぬのでは?」


「適当な嘘ならじきに分る。俺の見立てが外れてたならそれでも問題無い。もともとダメ元で来ているからな」


 有益な情報が得られないなら交渉する必要が無い。


「……ただで殺されてやる気はないぞ」


「いつもタダみたいなもんじゃないか」


「この1000Gでキサマを冥途に送ってくれる」


 金貨を取り込んで多少パワーアップした悪霊王ワイトキングを、いつものようにボコす。

 最近、やられるのが目に見えているからなのか、浮遊霊レイスたちは遠巻きに観戦しているだけで絡んでこない。

 そんな状態で魔剣士の踏み出す者アドバンスとなった俺と、高々1000G程度のパワーアップで対抗できるはずもなく。

 悪霊王ワイトキングはあっさり座に還って行ったのだった。


 ………………。


 …………。


 ……。


「確かに、スキルと同じようにコストの分配で知識を得ることができる様じゃの」


 戻ってきた悪霊王ワイトキングは、そう言ってテーブルの前に腰を下ろした。

 お茶を勧めたがいらないそうだ。


「儂が初めに持って折った知識は『魔物生体基礎』『人類生態基礎』『人類常識基礎』『中級人類戦術』『ダンジョン魔物基礎』の様に分類される。儂がこのダンジョンを守っておるのは、『魔物生体基礎』と『ダンジョン魔物基礎』から形成された人格によるところが大きいようじゃの」


 ほう。そんな感じに体系立てられているとすると、職業で覚える知識系と似たような感じかな?


「お前さんの1000Gで差し当たって『剣士スキル知識』『魔術師スキル知識』『ダンジョン魔物応用』の3つを持ってきた。答え合わせをするとしよう」


「答え合わせ?」


「うむ。スキルと同様に選べるこの知識は、いわば辞書の様なものらしい。剣士スキル知識には、剣士がどのようなスキルを有しているか、消費はどのくらいか、などと言ったものが知識として記されている。しかし『剣士スキル知識』に何が含まれているかは実のところわからん。名前から推測した通り、剣士のスキルに関する知識を儂は有しているが、これが元から持っておった物なのか、今回の選択で得た物なのかの区別がつかんし、また何処まで知っているかもわからんのだ」


「……つまり、どんな知識を持っているかは分からなくて、状況に応じて引き出せると」


「察しが良くて助かるわい」


 ……集合知がちょうどそんな感じだからな。


「それなら……やみくもに検証してもらちが明かないから、整理しながら検証してみるか」


 まずは剣士の覚えるスキルをレベル順に上げてもらう。50レベル分問題無く答えることが出来た。

 次に各スキルの効果と発動条件、それにMPなどの必用リソース。これも集合知と比較してほぼ正解。ただ、剣術知識などの情報については若干の齟齬がある模様。

 同じことを魔術師の知識でも確認して、同様の知識を有している事が確認できた。


「剣士でよく使われるスキルは斬撃、飛翔斬、強打、受け流し……」


 更に各職が良く使うスキルの情報や、その理由も知識に入っているらしい。よく使われるスキル10種をその順番順に上げて貰ったら回答が返ってきた。

 試しに持ってきていない槍兵ランサーの情報を聞いてみたところ、代表スキル3つは上がったがそれ以上の細かい所は分からないとの話。

 つまり一部は元から持っている『人類常識基礎』『中級人類戦術』辺りに含まれていて、さらにプラスαで各職知識がある物と考えられる。


「ちなみに『ダンジョン魔物応用』は」


「お前さんをいてこますのに使えるかと思ったのじゃが、難しいのう」


 これはダンジョン内に生息する魔物の能力や、ダンジョンそのものについての情報だったらしい。


 例えば、ダンジョン内の魔物は能力に制限がある程に能力が上がるらしい。この能力というのは価値に対する力、つまり魔物強度と呼ばれる100Gでどれくらいの強さかというお話。

 ダンジョン内で確認されている、『魔物は階層を移動できない』などの制限は、この能力制限故に発生するらしい。


 さらにダンジョン内には俗にセーフティーエリアとかゾーンとか言われる安全地帯があるが、これはダンジョンそのものの能力を上げるための施策らしい。人間側に有利である程、ほかの能力の価値が相対的に下がってリソースが増えるのだとか。


「儂も初めて知ったし、基礎だと理由の説明は無いようじゃな。おそらくダンジョンマスター向けの知識じゃろうが、コストが重めで最初に取る理由が思い当たらん。再臨できるか分からんのじゃから、死ぬのを前提にコストを定めることは無いと思うのじゃがな。俗にいう死にスキルの類似品か」


「ダンジョンの魔物に取得させて、ダンジョンマスターは俺みたいにそいつから伝聞系で聞けばいいのでは」


「……なるほど。確かにダンジョンマスターはコアを通じて呼び出す魔物やそのスキルをコントロールできるな。ふむ……ダンジョンコアは生まれた時にはほとんど知識を持たぬのか。本能に従ってダンジョンを形成し、取り込んだものに応じて成長すると。なかなかに興味深い……」


 後半は俺への投げかけでは無く独り言のようだ。どうやら会話からうまく知識を引き出せたらしい。


 暫く検証を続けて、新たな“気づき”も無くなった所で次に進む。


「今回持ってきた知識の解放、つまり選択しないことでリソースが空くかと、得た知識が消えるかの調査かな」


「……そのために儂はまた死ぬのか」


「死ぬ前提とは魔物らしくないな」


「ぐぬぬ……負け犬根性では勝つモノも勝てぬな。良いじゃろう、儂の恐ろしさ見せてくれる!」


 悪霊王ワイトキングは自爆技でさっそうと還って行った。

 付喪神化した鎧やよいでなければちょっとマズイ攻撃だった。やはり油断は良くないな。


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開始早々でなんですが、ダンジョン引きこもりの悪霊王ワイトキングとのやり取りが続きます。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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