第300話 試想結界と実力把握
開始の合図と同時に二刀による飛翔斬で牽制。どうせ避けられるので先は見ずに
相手は開始即座に高速移動で回避。速度に乗られるのとインファイトに持ち込まれるのどっちが厄介だろうな。
視線の通らない所に
進路を予測して
ステップで距離を取りながら、通り過ぎ様の斬撃は太刀でさばく。
疾風斬りは間に合わない。死霊術師だと近接戦は不利だな。
地面に向けて
そう思ったが、彼女が剣を凪ぐと到達前の術が発動してはじける。アレは、
「ずいぶん強くなってっ!お兄さん嬉しいよっ!」
「へへっ!そいつはどうも!」
甲高い音と共に武器が打ち合わさり火花が散る。気を抜いている暇は無い。
今のアーニャは俺より早い。
音速斬りを盾を使って妨害し、疾風斬り。こっちはサブの短剣で簡単にいなされた。武器の性能差は現時点でほぼ無い。
疾風斬りを使わないと速度で勝てない。でも受け流されるから……他に打てる手はあるか?
相手の方が短い剣なのに速度で押し込まれる。霞斬りのおかげで
やはり1次職だけで前衛の真似事をやるには無理があるな。
念動力で動きを妨害しつつバックステップ。、魔術メインで立て直そうとすると、着地しようとした足場が消えて浮遊感に包まれて……。っ!
その瞬間、展開した盾を易々切り裂いて、アーニャの突き出した剣が俺の胸に突き刺さり、注ぎ込まれた魔術で身体がはじけた。
………………。
…………。
……。
「ちくしょう、負けたー」
「よっしゃ、勝ったぜ!」
ここは
俺達は長の申し出で、ちょっと特殊な模擬戦をさせて貰っていた。
その呪法の名は試想結界。現実世界を模擬した仮想空間を作り、そこで様々な訓練を行う秘術である。
元々は神化の呪法など、始めたら後戻りできない術を試すように開発された術であるが、現実の能力や装備を反映した仮想空間は全力での模擬戦にもってこいであった。
デメリットも仮想空間の時間経過が現実の三分倍――つまり仮想空間で10分過ごすと現実で30分経つ――程度の速度であるくらいで、非常に便利な呪法。覚えたいのだが、残念なことに長をはじめとするかなり熟練のエルダー数人にしか使いこなせないらしい。
そんな良い術があるのが分かったので、全員フル装備での模擬戦をしていたのだが……死霊術師で挑んでアーニャにあっさり負けたところだった。
魔術師系職だと、高速移動スキルを習得した2次職以上と一対一で戦うのは辛い。
遠距離から一方的に砲撃できれば手はあるが、俺の封魔弾を併せられるとちょっと対処法が思い浮かばない。高速移動も相性が悪いな。縮地やロールなら常時超速度で動き回られるなんてことも無いから、近接攻撃の対処も出来ると思うのだけど。
「しかしほんとに強くなった」
スキルもそうだけど、近接攻撃をさばききれなかったのが大きい。
そして回避に合わせて
「どうやって勝とうか考えていて、結局速度を乗せて動き回るしかないかなって。剣術だけだと勝てないしな。逆に初手から足止めされると多分キツイ」
「あ~……はじめっから壁で囲む、
念動力は俺の応答速度じゃ障害にもならなかった。
もう少し戦闘中に思いつくレパートリーを増やさなきゃダメか。
「あ~、もう、負けたわ」
「な、なんとか」
振り返りをしているとタリアとバーバラさんが戻ってきた。どうやらバーバラさんが買ったようだ。
コゴロウを呼び戻し、組み合わせを変えて再戦。今日は全員で総当たりで戦う。
VSタリア戦。
遠距離から魔術の応酬。念動力が厄介だったが、霞斬りで無力化しつつ距離を詰めて一刀。
霞斬りは魔術に恐ろしく相性が良い。
VSバーバラ戦。
近接戦は手数で負ける物の、太刀のリーチがある分こちらが有利。中級スキルが無詠唱に成っていないので、スピード差で勝利。遠距離魔術は互いに無効化するので、結局殴り合いになるな。
VSコゴロウ戦。
逃げ回りながらひたすら魔術で応戦するものの、速度で負けて最後はバッサリ。手の内が知れている状態で、こっちだけ物理限界を突破していない状態じゃ無理がある。
「ん~……思いのほか辛い。制限ありだと勝ち目があるけど、それは幻想か」
真面目に2次職スキルを使い始めると、純前衛の二人と戦うのはかなりきつい。
コゴロウの攻撃はアーニャと違って何回か受けても平気だけど、こっちの攻撃は当たらないから意味がない。
「ふっふっふ、年長者の面目躍如である!」
全勝だったコゴロウの期限が良い。
アーニャVSコゴロウは、高速移動で切りかかるアーニャをコゴロウがさばききり、最後は見事にカウンターを入れた。経験の差が如実に出た形。
バーバラさんはステータス差でアーニャに負けた。全敗はタリアだ。
「……もう一回やりましょう」
珍しくやる気である。
「結構時間使ってるし……長、大丈夫ですか?」
「うむ。かまわんよ。術の維持も儂の訓練になるのでの」
そういうなら、甘えさせてもらおう。
「今度は全力でやるわ」
「……ほう、前回は全力ではなかったであるか?」
「……見てなさい」
と、言うことで第一戦目はタリアとコゴロウ。並行してアーニャ対バーバラさん。
互いに対策を考えているだろうし、2戦目はどうなるか……。
そう思っていたら、3分とせず最初の二人が戻ってきた。
「……あんまりなのである」
「ふふん。油断してるからよ」
どうやらタリアが勝ったらしい。それにしても早すぎないか?
「次は私とワタルね」
「オッケー。俺は油断しないぜ?」
「そういうレベルじゃないって事を教えてあげるわ」
術式に触れて仮想世界へダイブ。
広さは直径100メートル程、地面は土、互いの距離は30メートル程離れた状態からスタートだ。
スタートの合図は長がしてくれる。……ようい……はじめ!
スタートと同時に
タリアはこれを縮地で割ける。予想通りの動き。
不用意に
「……神降ろし」
その瞬間、タリアの周囲に膨大な魔力が渦巻く。あ、あかん、これいけない……。
ヤバいと思った瞬間には体が動きを止め、手足が変な方向にねじ曲がる。
あががががが……ぶちゅっ!
一呼吸する前にひき肉にされていた。
………………。
…………。
……。
「……ひでぇ」
「ふふ~ん。あっちならノーリスクだからね。いくらでも使えるわ」
タリアの上級スキル『神降ろし』。強力な神をその身に宿すスキルは、継続時間が絶望的に短いのと、代償が必要でなかなか使えないのだが……このルールだと誓約なくいくらでも使える。アレはどうにもならない。
俺が出会った中で一番魔力が多く強かったのがエリュマントスだが、それと比較しても格上だ。まともに向かい合ったら時間を稼ぐのも無理。現時点では正直お手上げだ。
「さて、次はどっちかしら~」
この後、タリアは残り二人も瞬殺で肉片に変えていた。
その間に俺は自爆まがいの戦法でコゴロウに勝つことが出来たが、アーニャには魔力の流れを読み切られ負けた。
現時点でパーティーメンバーのタイマン強さは、神降ろしタリア>コゴロウ≧アーニャ≧俺>バーバラさん>タリア、の順で決定。
瞬間火力はタリア>俺>アーニャ>バーバラさん≧コゴロウ。こう考えると、俺の立ち位置は器用貧乏だなぁ。魔剣士の方で高速移動スキルを覚えたらまたお願いしよう。
2戦目が全員終わるころには、結構いい時間に成っていた。
さて、明日は6階層攻略挑戦だ。
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仕事が立て込んでいるため、今週は火曜・木曜にお休みをいただきたいと思います。
次回更新は11/23(水)の夜になります。よろしくお願いいたします。
現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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