第301話 6階層攻略戦・孤独な竜戦士
霞斬りとバーバラさん作の悪霊殺しの短刀を抜いて、一人幽霊部屋に入る。
ここに来るのは何度目だろうか。相変わらず多量のレイス達の奥に、
「……来たか」
「お邪魔するぜ」
流石に連日狩られ過ぎて、レイス達すらいきなり襲い掛かって来る事は無くなった。
むしろ
「……先に進ませぬぞ」
「さんざん経験値を貢いでもらって申し訳ないけど、今日はさっくり倒させてもらうよ」
今日は当初定めたダンジョン攻略。各自がそれぞれ得意とするボスに向かってる。
俺はこの幽霊部屋。職業は魔剣士、レベルは28。陰刀霞斬りを用いれば、そう苦も無く悪霊王を屠る事が出来る。
タリア、アーニャ、バーバラさん、アルタイルさんの4人は大ゴーレム部屋。
レベルが上がったこの4人なら、問題無くゴーレムを圧殺出来る。アルタイルさんは実質保険だ。
普通のボス部屋には25名の亡者たちが挑んでいる。さすがに2次職が5倍の人数であれば問題無く処理できる。武器破壊を使ってくるリザードマンの対処を、武器破壊の効果を弱められる
コボルト地獄には封魔弾を持ったタラゼドさんがいる。
ストーム系封魔弾を打ち込めば部屋のどこでも光球を処理できるので、どこかの部屋が制圧完了したら部屋全体を浄化してもらう。
そして唯一
コゴロウが
『それでは始めるのである!』
コゴロウが
「さて、それじゃあ、始めようか」
「……キサマらの思い通りにはさせぬ!」
気合入りまくった悪霊王と対峙。……こっちが悪者みたいな雰囲気だな。
……まぁ、ボス乱獲をしてるし相手から見たらそんなもんか。
悠長にしていないで、さっさと終わらせよう。
………………。
…………。
……。
【6階層ボス部屋・孤独な竜戦士】
部屋に入ると今までと変わらず、寡黙な竜戦士が盾前に構えを取る。
コゴロウはすらりと大鬼斬りを抜くと、正眼の構えを取る。
「……来ぬか」
コゴロウがこの部屋に挑んだ回数は二桁を数えている。
始めは堅牢な守りを抜くことが出来ず、消耗して撤退を繰り返していた。
最初に倒し切れたのは二日ほど前。レベルが上がって当たらなスキルを取得し、さらに幾度となく打ち合う事で癖を掴み何とか勝利をつかみ取ることが出来るようになっていた。
しかし、経験を積むのは相手も同じらしい。
1回目の勝利で使った戦法は2回目には通じなかった。2回目に倒した時の技も、同じ攻めでは対処されるようになった。
攻撃力はコゴロウが、守備力は竜戦士が上。何度か勝利を収めた後は、積極的に攻めて来ることも無くなり、さらにスキを突きづらい。
それでも勝てぬ事は無いと、コゴロウはスキルを発動する。
……音速、二連斬り!
コゴロウの中でも最も早い突きの一撃を、竜戦士は盾でいなす。
それを想定して、重ねた二連斬りで足を狙うが、その一太刀も剣で防御された。
縮地斬。
斬撃と縮地を同時に発動する上級スキルで相手の背後に飛ぶ。
斬撃は当たると思っていない。いっぱいに腕を伸ばして剣を振るえば、互いに壁際でも攻撃が届きかねない狭小な部屋。反撃を想定して次のスキルを発動させる。
縮天。
高速移動系の上級スキル。空中への発動、空中での発動が可能であり、かつ出と入りで向きの変更も可能。ただし縮地と違い発動地点と着地点の間にある程度の物体があると使えず、さらに転移距離も短い。
コゴロウはこれを使い、宙返り状態で天井に張り付いた。
その瞬間、それまでコゴロウが居た場所をスキルの乗った斬撃が通り抜けていく。
地面に落ちながら振り下ろした太刀が、顎下の死角からえぐるように頭を狙う。それを竜戦士は緊急回避で割けると、空中で無防備なコゴロウに突きを放つ。しかしその一撃は縮天によって空を切った。
横凪と袈裟切りがぶつかり合い火花が散る。
手数を増やして攻めるコゴロウに対し、竜戦士は一撃一撃を丁寧にさばいていく。使いやすい連撃系や同時攻撃が可能なスキルは大体が二連まで。盾と剣を両方とも防御に回されると、容易く攻撃を当てることはできない。
剣での防御タイミングを狙って、コゴロウは中級スキルを発動。防御を弾き飛ばされた竜戦士に一太刀を加えるが……これは浅い。逆に竜戦士は
「ぐっ!」
ダメージは大きくないが、それでも息は詰まる。しかし止まってはいられない。二歩踏み込めば確実に攻撃が届く距離。追撃は目の前に迫っていた。
血華斬!
斬撃と共に相手の背後に回り込む。初撃は盾で受けられた。無防備と思われる背中への斬撃。しかしそれも敵の
幾度かの交錯。コゴロウがこれまで勝利を収めた戦術はことごとく見破られた。
フェイントを織り交ぜた斬撃は有効だが、防御に徹底されるとダメージには成らない。付喪神化したと言われている大鬼斬りも、現在のところ大きな変化は見られない。盾や剣を破壊できれば一気に攻められるが、それも難しそうだった。
上級スキル、高威力の技はわずかにだが時間がかかる。防御に徹している相手にそれを当てるのは、例え狙いが盾だとしても至難の業だ。
……今日の目的は、腕を磨く事ではないのである。
だから正攻法での戦いを諦めた。
攻撃を剣で流された直後、相手が盾を構えるに合わせて片手を突き出す。それはまだ竜戦士に見せていない戦法。
解放済みの封魔弾が死角から盾に当たると、
「貫通螺旋撃!」
そのまま上級スキルを発動。その一撃は盾を貫いてさらにその先の肉へと食いこむと、周囲に発生した斬撃の乱流が竜戦士の身体を切り裂いた。
「ギャッ!」
大きなダメージを受けた敵から叫びが上がる。しかし、その一撃は魔物を倒し切ることは出来なかった。
突き刺さった大鬼斬りはすぐには抜けない。武器の手を放して攻撃を避ければ、攻撃手段の多くを失うことになる。
しかしコゴロウはそれを選んだ。
「天明流・無刀背負い!」
振り下ろされた剣の根元、竜戦士の腕を受け止める同時に身体をかがめた上での背負い投げ。
咄嗟の動きに対処が出来ず、竜戦士はきれいに投げ飛ばされると背中から地面にたたきつけられた。
「
地面に投げ出され、背後に逃げ場のない竜戦士の頭に封魔弾が触れる。
その瞬間発動した
「……ふぅ。あまり好みの戦い方ではないのであるが、やはりワタル殿の戦法は強力無比であるな」
コゴロウはそう呟くと、地面に突き刺さった大鬼斬りを鞘に納め。
『……終わったのである!』
全体
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次回更新は11/25(金)の夜になります。よろしくお願いいたします。
現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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