第302話 ダンジョンマスター

『……終わったのである!』


コゴロウからのメッセージが届いた瞬間、皆が一斉に動き出す。

大ゴーレム部屋のアーニャは、重力子の檻アノイン・グラビトンによって捕らえられたゴーレムに2本の剣を突き立てると、魔操法技クラフトによる魔槍マジック・ランスを発動してその身体を吹き飛ばした。

その傷口を広げるようにタリアの念動力がゴーレムを砕き、そこにバーバラの蹴りが決まる。

上級スキルの連撃によって、ゴーレムは30秒ほどで煙となって消える。


普通のボス部屋にいた亡者たちも、一斉にスキルを発動して魔物たちを仕留めていく。

彼らは皆、何かしらの踏み出す者アドバンスであり、付与魔術師か錬金術師の極めし者マスターである。通常の2次職後半よりステータスの高く、それが1体につき5人。

一体一体は1000Gサウザント級後半の能力しかない魔物たちに耐えるすべは無かった。


ワタルは覚えて間もない縮地で一気に距離を詰めると、スキルを乗せた二刀を振りぬく。

霞斬りにより防御魔術を破壊され、石斬りが悪霊王ワイトキングの身体を両断した。それでも力を失わない不死者は、自爆まがいにスキルを発動するが、霞斬り触れてあえなく不発。

両断されたことによるHP減衰で力尽きた。


『ゴーレム終わりました!』


『ボス部屋、5体完了です!』


『幽霊部屋終わった!』


各部屋の報告を受けて、タラゼドはゴブリン地獄に封魔弾を頬り込む。

発動までの時間は5秒。魔物に当たらなくても勝手に発動するそれに巻き込まれるのを防ぐため、スキルを使って部屋から退避。

次の瞬間にはワタルの影の暴風シャドウ・ストームが部屋の中のコボルトと光球を根こそぎ薙ぎ払った。


そうしてダンジョンが動き出す。


………………。


…………。


……。


『ワタル殿!階段が現れたのである!』


コゴロウからの念話チャットを受けて、思わず一人で悪態をついた。


「このレベルのボス部屋で更に下があるとかどういうことだよ」


俺達も亡者いくつかの職の極めし者マスターであり、ステータスは3次職と比較して遜色ない。

それが実働だけで30人以上。孤独な竜戦士は一対一での戦闘を強いられる。職以上に、ソロでの戦闘経験の豊富なメンバーが必要であり3次職であっても容易に勝てる相手ではない。

この階層だけでかなりのコストのはずだ。


『タラゼドさんを除いて、亡者の皆さんは中央ホールに集まってください。タラゼドさんはコボルト地獄がリポップしないかを確認お願いします。コゴロウはその場でリポップに備えて。後、階段以外に分るものはある?』


『下る階段の壁に時計のようなものが見えるのである』


時計……開いてる時間の目安かな?


中央広場で亡者のパーティーを再編して、先行組10人と共に孤独な竜戦士の部屋に。

今のところリポップの報告はない。


部屋に到達すると、確かに通路の奥に下りの階段が現れており、壁には丸い壁掛け時計ののようなものが見えた。針は……1本だけ。5時くらいの位置を指しているな。


「はじめは0時を指していたのであるが、結構な速度で進んでいるのである」


「0時に戻ると扉が閉じる感じかな?とりあえず、進んでみましょう。先行組、お願いします」


階段を下りていく亡者たち。

下までたどり着いて問題が無ければ追いかけよう。途中で壁を掘るか……それは後で良いか。


「この階層で終わりじゃなかったの?」


「難易度が高すぎるからそう妥当と思ってたけど、俺にもわからない」


「コアの価値が高いのではないか?」


「それだったら、上に沸く魔物の強さがもっと強くても良いはずなんだ」


このダンジョンの能力は10万G級準ミリオンズと呼ばれる魔物と同等だと思われる。

タリアが倒した山陸亀マウンテン・タートルより強い。しかしその価値を見積もっても難易度が高すぎる。ここは6階層だ。5階層には陸竜もいたし、ショートカットを使わなければダンジョンの道のりも長い。普通に考えれば攻略不能くらいになってもおかしくない。


『ワタル殿、下層につきました』


『了解です。タラゼドさん、合流してください』


7階層までの距離は警戒しながら下って1~2分、罠も無いようだ。

時計の時刻は8時ほどに変わっている。警戒しすぎても仕方ない。セオリーを信じておりてみよう。


穴掘りが可能な亡者たちには、5階層からのショートカットルートから、この7階層への穴掘りをお願いする。コボルト地獄が復活すればMPは足りるはずだ。

俺達生者5人に、アルタイルさん、タラゼドさんを加えた7人で階段を下る。


7階層の階段を下った先は、やはり教室ほどの小ホールに成っている。

進める道は一つ。雰囲気は2階層や5階層のホールに近い標準的な物だ。


「壁は魔物のダンジョンみたいですね。この先普通にダンジョンが続いているようなら、ショートカットを作って一回引き上げです」


残念なことに目を凝らしてもダンジョンの先は見えない。今は影渡しシャドウ・デリヴァーが使えないから、普通に探索するのはちょっと不安だ。

タラゼドさんが先に行きたいというので、11人を6、5に分けて先行してもらう。


「ねえ、ワタル。この先は広い部屋があって、そこに光る宝玉が置かれた台座と、何人か人がいるみたい。宝玉の前に居るのは……魔物かしら」


タリアは天眼通を使って先の様子を確認していたらしい。

サーチを発動させると、確かに奥に魔物の反応が2つ。一つはコア、もう一つは別の魔物のようだ。しかし……。


「ひと?」


サーチだと先のホールまでの様子しか分からない。


「ええ、奥の部屋のさらに奥、みんなこれぞ牢獄って感じの所に入れられて痩せているけど、生きているみたい。……獣人っぽいわね」


「……ダンジョンの供物にされた奴隷たちかな」


魔物は物作りが出来ない。ダンジョン産の装備を作る際には、どこかで操られた人類が関わって居る。見かけないと思っていたが、最奥に捕まっていたか。

光る宝玉はコアのはず。でも一緒にいる魔物が気になるな。コアを割られたら終わりなんだから、ダンジョンの分身がむき出しのコアの前にいる、なんてことはないと思うのだけど。


『ワタル殿、先の部屋につきました』


『魔物らしき男が居ります』


『なんかよく来たなウジ虫どもめ、みたいな事を語りだしました』


『迷宮の壁をぶち壊したり、ショートカットを作ったり、6階層をレベル上げに使ったことにブチ切れているようです』


「……あ~……なんか申し訳ないことしたかな?」


きっとそいつはダンジョンマスターだろう。

魔物ダンジョンはコアだけでも勝手に育つが、その成長をコントロールしてコアを育てるのがダンジョンマスターと呼ばれる魔物が居る。

戦闘が得意なわけでは無いので、普通は表立って出て来ることもない。攻め込まれてコアが破壊されても、自分はさっさと逃げてまた別の所でダンジョン育成を始めるような魔物なはずだが……。


余りに理不尽な攻略のされ方をしたことにキレて待ち構えていたのか。

そして当事者じゃない亡者の皆様に、ムービーイベントを発生させてると。


「どうしよう、今からでも話を聞きに行ったほうがいいかな」


「いや、魔物に気を使ってどうするのよ」


……それもそうか。


『コアを破壊しない様に倒せるなら倒しちゃって。タラゼドさん、同期します』


『了解だ!』


タラゼドさんと感覚を共有すると、思った通りダンジョンマスター(仮)がわめいていた。

短髪オールバックの悪魔タイプ。服装はクーロンの士官服に近い。どうも東群島の出ではなさそうだ。


「御託はいらねぇ。さっさと始めようぜ」


タラゼドさんが皆を代表して武器を抜く。周囲に漂う緊張感が薄い。


「……ふふふ、良いでしょう。あんたたちのおかげで、一つだけ良い事がありました」


ダンジョンマスター(仮)がコアに触れると、その指が伸びてコアを包み込む。


「魔物でありなが、ダンジョンコアが大きな価値を持った!この力!キサマらを蹴散らすのに余りある!」


そう言ってダンジョンマスター(仮)自らの身体にコアを取り込む。

変則的な共食いイーターか。ちょっとめんどくさい。


……真っ向から相手をしてやる必要は無いのだけれど、状況的に人質に成ってる人たちに被害が及ぶのは避けたいな。とりあえず様子見。タイミングを見て救助。(仮)を倒すのはその後で良い。


『バーバラさん、後ろに退避路の作成をアルタイルさんと二人で行ってください。タリア、アーニャ、コゴロウ、状況を見てタラゼドさん達の援護に入る!』


コア以外の魔物が居たのは想定外だけど、やることは変わらない。

サクっとぶちのめしてコアを回収しよう。

---------------------------------------------------------------------------------------------

現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る