第303話 亡者たちのボス戦
コアを取り込んだ元ダンジョンマスター(仮)の大きさは5メートルを超えた。
デカけりゃ強いというのは半分事実なので否定はしないが、代わりにこちらの攻撃も当てやすくなるから都合がいい。
「さぁ、地獄の始まりですよ!」
魔物の姿は全身が滑らかな岩のような質感のゴーレムタイプな変わった。ゴーレムの頭とは別に、胸から元の顔が生えて居る。
その姿が一瞬掻き消えたかと思うと、亡者たちパーティーの目の前に現れた。
「っ!!」
アル・シャインさんが咄嗟に盾を構えて防御に割り込む。
「無駄ですねぇ!」
腕が振るわれると、中級防御スキルを貫いて盾ごと彼を吹き飛ばした。
高速移動スキルは縮地。今の攻撃でアルさんのHPは3割削られたし、骨折によるスリップダメージも発生。中々に強力だ。
しかしこっちも一方的にやられるほど弱くない。
高速移動する相手には波状攻撃が基本。まず前衛、後衛が1人づつ仕掛けるとともに、
剣による攻撃は腕で防御。魔術は直撃したが……そうダメージにはなってないか。
息つく間もなく2巡目が仕掛けた攻撃が当たる直前、再度敵の姿が消える。
「上だ!」
その瞬間、空から降ってきた巨大に後衛の魔術師1人が潰された。
……後、後衛の防御意識が薄い。もっと注意しないと、生身なら死んでるぞ。
「こいつ、早いぞ!」
「あなた達が遅いのですよう!」
そう言っている間に数発の攻撃を打ち込まれ、それを物ともわせず次の標的に向かって飛ぶ。
「そう何度も!」
高速移動を使って踊りかかったのは騎士のスコットさんか。
着地点に走り込むと擦り抜けざまに一撃、折り返して一撃、踊るように相手の周りを回りながら攻撃を加えていくが……。
「
敵のスキルが周囲5メートル程に居た物達を吹き飛ばした。
近距離範囲攻撃。近づかれ過ぎた時のリセット用か。アレは空中に居ても受けるな。ダメージは……スコットさんでHPの1割ちょっと。それなりだ。
「俺も見学してるだけじゃないぜ!
タラゼドさんの罠スキルが発動し、地面が石壁となって敵を挟み込む。
ダンジョン内で地面干渉が可能?……あいつがコアを取り込んだことでダンジョンが力を失っているな。先の部屋でもいくつかの支柱と天井以外は魔物判定されてない。あのサイズの部屋内なら
『タリア、大地の精霊使える』
『おっけー。……手伝わなくていいの?』
『もうちょっと様子見。彼らもいっぱしの冒険者としての意地が有ろう』
全員が1次職
俺が戦った中で最も強い魔物はいまだにタリアが核だったエリュマントスだが、彼らならそれともいい勝負が出来るはず。そうそう簡単に負けるパーティーではない。
「まだまだ行くぜ!
冒険家のスキルは一風変わった物が多い。
「無駄な事を」
「そっくりそのまま変えずぜ!
光の鞭を敵の腕が掴んだ瞬間、タラゼドさんが起爆して熱と衝撃をまき散らす。
あれは伸びたり縮んだり絡みついたりが自在な上、叩いて良し、爆破させて良しとなかなかに使い勝手のいいスキルなんだ。
「無駄だと言っているんです!」
飛び掛かる武者の攻撃を縮地で避け、スコットさんを蹴りの一撃で吹き飛ばす。
そこに
今戦闘に出ているのは、冒険家のタラゼドさん、騎士のスコットさん、守護戦士のアル・シャインさんが元々の2次職組。それに、武者1名、魔弓兵1名、士官2名、騎士1名、土の魔術師1名、対魔の魔導師1名、強襲兵1名の11人。
魔弓兵と対魔の魔術師は火力が足りないかな?タラゼドさんと強襲兵も同じだけど、行動妨害系のスキルは多少効果がありそうだ。
「命知らずですねぇ!」
無理に攻撃を仕掛けた士官の一人が薙ぎ払われる。ああ、首が変な方に曲がった。今のは防御を考えてれば躱せただろうに。やっぱりちょっと手助けしないとダメかな。
復帰したスコットさん、アル・シャインが前線に復帰し、武者や騎士と連携して敵にダメージを与えていく。タラゼドさんは近接しなくても良いと思うのだが……一応傷はついてるか。
「ええい、うっとおしい!」
その瞬間、高速移動をしていたスコットさんの動きが遅くなる。
おっと、高速移動の妨害スキル。これがあると致死率が上がるので生身なら厄介。ただ発動中は相手も縮地は使えないだろう。
敵は
「ぐぁぁぁぁぁ!」
「いい悲鳴ですねぇ!全身の骨が砕ける感触が心地いい!」
「ボーマン!?」
彼を助けようと皆が一斉にスキルを放つが、敵が発動した防御スキルに阻まれて大したダメージには成らない。
「痛い!痛いぞぉぉぉぉぉぉ!」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。でも、いくら足掻いても無駄ですよ。キサマらも、奥から出てこないサポーターたちも、上の階で怪しげな動きをしている奴らも、みんなまとめてひねりつぶしてあげます。こんなふうにね」
叫びをあげて身もだえるボーマンさんを、敵はぐちゃりと握りつぶした。
ああ、俺達には気づいているけど、こっちが本体だとは分かってないのか。
……6層攻略して、7層の一番乗りだもんな。一番主力なパーティーが来ると思うか。残念だ。
「痛い!痛いぞぉぉぉぉぉぉ!」
潰されたボーマンさんがさらに叫びをあげる。
「……は?」
手の中のボーマンさんは、おそらく人間の形をしていない程度には潰れているだろう。
しかしその雄たけびは留まるところを知らない。
その様子に、余裕だった敵が初めて戸惑いの声をこぼす。
「痛い!この痛みが!苦痛が!今俺が生きていると教えてくれる!」
生きていないって、何度言えば理解してくれるのだろう。
彼は錬金術師の
「おかしいですねぇ。確かにつぶれて……え?」
「
その戸惑いの隙を逃すほど、うちの亡者たちは甘くない。
警戒していなかった方向から、上級スキルが叩き込まれた敵は思わずバランスを崩し膝をつく。
「バカナ!キサマら、さっき確実に殺したはず!?」
元ダンマス(仮)は、最初の縮天で潰された土の魔術師と、うっかり首をぽっきりやられた士官の二人を警戒していなかった。彼らがモリモリ復活しているのも、当然気づいていなかった。
やっぱり保険はかけて置いて正解だったな。
魔剣士に転職すると、
これは亡者が活動するにはちょっとリスクが大きい。基本的にうちの方針は同等以上を相手にする。ある程度ダメージを受けるのが前提であり、回復が出来ない状態で戦うのは消耗が大きい。
……そう、彼らが使うには。
『……悪い顔してるわねぇ』
『元からだよ』
全員分の
受けた肉体の損傷は即座に癒え、HPは即座に全壊する。仮初の命が切れる事は無い。
「またバーバラ殿に作ってもらった装備を潰してしまった!これは腹を切って詫びるしかない!出るのは腸だけだが!」
『それを直すのは俺の仕事なので止めてくれ』
「むぅ。主殿に止められてしまった!ではキサマの首で代わりにしよう!剛力!いでよ、
気をされた元ダンマス(仮)の頭に、ボーマンさんのスキルが突き刺さり、ぱっくりと割れた。
剛剣一閃は一太刀系のスキルの効果を高める上級スキル。
「ぐぉぉぉっ!おのれ、おのれ、おのれぇ!!」
キレた魔物が巨体を振り回して暴れるが、復帰したアル・シャインさんが的確にそれをさばき、タラゼドさんが動きを妨害する。
高速移動スキルは敵の周囲では使えない。定期的に
「簡単に死なないなら、貼り付けにしてゆっくり料理するまでですよ!」
その瞬間、滑らかだった敵の体表面に無数の刺が生まれる。
『タリア、土壁』
「
「
無数の石刺を飛ばす全方位攻撃。
これを避けるのは中々に難しいが、後衛組はタリアの土壁によって防御。避けられなかったのは高速移動中だったスコットさんと、妨害スキルの範囲内だった士官の一人か。
範囲の広い全方位攻撃だが、味方を巻き込むので使ってくるのは珍しいタイプのスキル。
とは言え想像はしやすい。ダメージは即座に回復できるし、身体を貫いた刺は退魔の魔術師が打ち消せる。対処できるな。
「
元ダンマス(仮)のスキル、ステータスはおそらく近接戦向きなのだろうが、中級の遠距離攻撃スキルを防ぎきる程の防御力は無い。
遠距離攻撃の手段は
物理限界突破のパッシブスキルも使っているだろうが、高速移動スキルを封じると的になる。
「おのれおのれおのれ!」
それを理解したのか、スキルを解いて縮天で再度後衛を狙う。
狙いは退魔の魔術師。しかしコレはワープが間に合って回避成功。空を切った攻撃に遅れて、こちらの攻撃が突き刺さる。
「バカナ!これだけの力があって、なぜ!?」
そりゃ、経験不足だからだろう。
ステータスは高く、動きも早い。けれどそれはこちらも同じだ。強い力を振り回すだけで勝てる様なら苦労しないさ。共食い野郎はそれをわかっちゃいない。
最初は有効だった攻撃も、みんな二度目は対処できるようになっている。逆に手数で圧倒的に劣る相手は、確実にダメージを受け、HPを削られていく。
「ぐぉぉぉ!こうなれば!
叫びと共に元ダンマス(仮)が高速回転をはじめ、遠距離攻撃を吹き飛ばしながら突進してくる。
シンプルだが強力なスキル。あれに触れればひき肉よりひどいことになりそうだ。
「
それをアル・シャインさんが上級スキルを使って受け止める。一瞬の停止時間。
決めたのはスコットさんだった。
「
強化された上級スキルが、ボロボロの魔物の身体に食い込むと、その身を真っ二つに切り裂いた。
うめくような小さな叫びをあげながら、魔物が光の粒となって消えていく。
様子見をしていた俺たちが出る間もなく、待ち構えていたダンジョンマスター(仮)は打倒されたのだった。
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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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