第50話 前哨戦
「
開戦一番、端の一体に向けて衝撃弾を放つ
予測はしていなかったのだろう。まともに受けて跳ね飛ばされた。これで1匹は動きが遅れる!
相手は1000G級の魔物だ。同時に相手にするのは避けたい。
「
雑なタイミングでスキル名を叫ぶ。
バキンッ!!
一瞬遅れて魔術が発動、向かってくる1体の動きが止まる。
リザードマンはその外見通りトカゲのような特性を持っていて、寒さや氷の魔術に弱い。
当たったのは足だから致命傷には程遠いだろうけど、これであの一体も動きが遅れる。
ガンッ!
これで集中すべきは目の前の一体。
しかし封魔弾を放った後に突きだした剣は、リザードマンの盾で受け止められた。そしてそいつは流れるような動きで攻撃モーションに入っている。
ガギンッ!!
ぐぅっ!重い!
盾と剣がこすれあう音が響く。バックステップで力を逃しながら距離を稼ぐ。
「
距離を取った2匹にそれぞれ
『キシャ!キシェ!!』
連続で繰り出される剣撃を盾と剣を使って何とか捌く。
速いし重い!それに隙も無い!
1000Gのリザードマン、STRを始めとする近接戦闘にかかわるステータスは、俺と劇的な差は無いだろう。魔術でブートしている分こっちのほうが少し高だろうが、それを補うだけの十分な経験も兼ね備えている。
魔物のずるい所は、生まれた瞬間に経験を積んだ熟練度の高い動きをしてくることだ。
もちろん、コアになったものがそれ相応の価値がなければならないが、高々1000Gでこの能力はずるいだろう。
「
下がりながらの
「このっ!」
こっちが攻撃できるのは3回に1回って所か。
見せた
相手の攻撃に合わせて指弾を打ち込めば当てることは出来る。でも倒し切れないし、不自然な感じになる。エリュマントスの前でそれは避けたい。しかし詠唱をしてる余裕はさらさらない。
なのでちょっと無茶をする!
「こいつ!」
数度の打ち合いの後、袈裟懸けに振り下ろした剣が空を切る。フェイントを交えて作った見え見えの隙。
そして予想通りに打ち込まれる横凪を盾で受けて……。
『キシャ!』
……トカゲも笑うんだな。
ガギンッ!
リザードマンが発動させたスキル・二段切りの一撃をさらに剣で受け止めた。
二段切り。文字通り2段に分けた斬撃を放つスキル。そして1撃目を防がれても、まるでもう一本腕があるかのように、そのままもう一回斬撃を放つスキルである。
防いだと思ったらもう一撃来ると言う特性はなかなかに厄介だが、知っていれば今のようにどうにかなる。
そもそもこのスキル、2段なので横凪の斬撃しか放てない。同じ側からから2発か、左右から1発づつか。
俺のヒーターシールドなら片側からの2段は動かさずに防げるサイズだから、来るなら反対から。分かっていれば止めることは出来る。
他のスキルを使われる可能性もあるが、横凪で始まった時点で選択肢から消えた。
このクラスのスキルでもう一つ代表的な
ならば集合知で対策できないわけはない。
そしてこの後どう動くかも予想がつく。だから小さく
『キシャァ!!』
目と鼻の先ほどの距離で、リザードマンが大口を開ける。斬撃からの噛みつき。受けただけじゃどうにもできないコンボ。こいつに頭突きで対処はしたくない。
なので口の中に
そしてそれは大口開けたトカゲ野郎の口の中に吸い込まれていく。
「
バシュンっ!
雷撃が走り、リザードマンは動きを止める。
その瞬間を逃さず、最少の動きで首元へと剣を突き立てた。
頭部が宙を舞う。まず一匹!
『キシェェェェ!』
身体が崩壊して金貨へと姿を変えていくリザードマンの向こうから、1匹が空高く飛び上がるのが見えた。
さらにもう一匹も盾を構えて突っ込んでくる。
「近接戦で飛び上がるのは馬鹿のすることっ!」
空中じゃ高いステータスも生かせない!
AGIを生かしてトカゲの着地位置よりさらに前に踏み込むとともに縦切りを放つ。
それは空中に居たヤツ足に当り、その肉を切り割いた。
そして目の前にはもう一匹!最初に
ガンッ!
互いに盾を構えたままぶつかり合うと、身体をひねって衝撃を避ける。
しかし次の瞬間、さらに強い衝撃が加わってたたらを踏む。
相手はそのまま押し込んでくるつもり。もう一体もすぐに復活する。やってらんねぇな!
「この!」
甲高い金属音を盾ながら剣と剣がぶつかる。打つ手は……もう一本っ!
剣の視覚から横凪に盾を突き出す。殴る?いやいや、体格に勝る相手、それも人と違う肉体構造しているリザードマンに、そんなんじゃ大したダメージにならないのは重々承知。
だからスキルを使うのだ。
「
左手に発生した炎の剣がリザードマンを貫いて焼く。
『ギェェェェ!』
ダメージが入ったことによる大きな隙。けれど追撃をあきらめてそいつを蹴飛ばすと、身体をひねって飛ぶ。
宙ぶらりんになった盾に剣の切っ先がかすめた。飛び込んできたもう一匹がこちらを狙ってきたのだ。
「ちくしょう!やっぱ持ち手が逝った!」
そしてそれを気にしている時間をリザードマンは与えてくれなかった。
壊れた盾じゃ攻撃を受けきれない!
そう思った瞬間、足元に強い衝撃を受けてバランスを崩した。しっぽ!?
「くそったれ!」
地面に倒れた瞬間、
そして力任せに飛び起きるが、追撃の斬撃が肩をかすめた。
「っ!!!」
リザードマンの剣は
痛い!畜生!だが構っている余裕がない。
口の中にヒールナッツを取り出すと同時に封印解除してかみ砕き、傷とHPを回復する。
HPがある間は肉体へのダメージを軽減してくれるし、クリティカルを受けなきゃ即死しないけどそれでも痛い!
そしてそれをやってる間にリザードマンは追撃態勢だ。
「このやろ!盾が無くなったから不利と思うなよ!」
相手の攻撃を剣で捌くと、身体の影で隠した左手の中に杖を取り出す。
魔術は杖を持って使ったほうが強いのだ。
「
狙いは相手の剣。
杖の補正によって威力と精度を強化された
「キシェ!?」
続けて抄いげるような斬撃で盾をはじく。あとは少しだけで出来た隙間に……
「
杖を媒体にして発生させた炎の剣が相手を貫く。
叫びを上げるトカゲの頭に、古びた魔法剣を突き立てた。これで残り1!
視線を送ると先ほど仕留め損ねたリザードマンの最後の一体が振りかぶっているのが見えた。
「うぉっと!あぶねぇ!」
投擲された剣をギリギリのところで避ける。
魔物お得意、お馴染みの遠距離攻撃手法だな、おい!
「堅牢不動なる大地の神の命にて、その身をこの地につなぎ留める!
大地から隆起した土腕がリザードマンの動きを封じる。
INTがあってもそう長くは封じられないが、今の状況なら十分だ。
「
もともとダメージを受けていたリザードマンは、避けることも受けることも出来ない
『レベルが4上がった!HPが15上がった。MPが17上がった。VITが1上がった。INTが13上がった。AGIが1上がった。スキル、MP回復上昇、
……どうやらレベルが上がったらしい。
流石1000G。3体で4レベルも上がるとは景気がいい。
「さて、お気に召したかな?」
ブタ野郎に目を向けると、不遜にニヤリ笑うのが見えた。
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