第25話 新たな魔術をそろえてみた

「偉大なる炎の神の力もて、紅蓮の閃光にて敵を射る!炎矢ファイア・アロー!」


 翌日。早い時間からバノッサさんに魔術を教わる。

 今の俺のMPなら結構な種類の魔術を一度に習得することが可能だ。


「すべての根源たる大いなる魔素マナの、その力の一かけ持ちて、ここに理の盾となれシールド!」


 覚えなければならない魔術は複数ある。

 火力の増強、防御力の強化はもとより、特殊な環境への対策や快適性の向上も考えなけりゃならない。


「炎とカラの加護を得て、凍てつく風からその身を守れ。暖房着ウォームウェア


 ……しかし、詠唱魔術の連打は……何と言うか恥ずかしいな。

 効果があることはわかってるんだけど、こう、意味が分かる言葉でさらに微妙に中二病っぽいのがね。

 いや、よくわからない音の羅列とかよりましなんだけどさ。


「ソラを統べるカラの神の名の下に、水の陰りを打ち払わん!除湿クリア・ミスト


 霧を除去する空間魔術、ぶっちゃけ最近は除湿による快適性向上にばかり使われてるのに、この仰々しい詠唱はちょっとねぇ。

 いや、すごいありがたい魔術なのよ。ただ……ねぇ。


「……そろそろMPが減ってきましたね」


 1時間ほどでMPが半分を切る。やはり一つ一つの消費が結構大きいな。


「やっぱMP消費低下やMP回復上昇のスキルが無いと早いな。少し覚えるのを絞ったほうがいいかもな」


「そうですね。休憩がてら整理しようかと思います」


 集合知があるからいくら覚えても詠唱を忘れることは無いけど、丁度いいので何を覚えるかまとめておこう。


「属性賢者だと、火属性が伝説級、それ以外の5属性が上級。時や空間など裏属性とか呼ばれている6つが中級。召喚、付与、錬金が初級ですかね?」


「ああ。……よく知ってるな」


「そりゃまあ。いまさらでしょう?」


「……それもそうだな」


 さて、スキルの補助が無い俺が覚えられるのは初級魔術のみ。

 その内、触媒が必要な錬金と、対象との契約が必要な召喚はすぐに覚えることができるものが無い。

 更に重力魔術、時魔術には覚えたい初級魔術が無い。……ってか、重力の初級は軽量化ライトウェイト重量化ヘヴィウェイト2種類しかなく、時魔術に至っては想起リメンバーのみだ。


 重量化ヘヴィウェイト……詠唱じゃ使い道無いんだよね。


 そうなると覚える魔術は残りの11種から。

 火力の高い攻撃系、状態異常系、拘束系、索敵系の4種類から選んでいくのが良いかな。


 攻撃系は……射程が短いが初級の中は一番威力のあるランス系統から、火属性から炎槍ファイア・ランス、水属性から凍槍フリーズ・ランス、雷属性から雷槍サンダー・ランスの3種類。

 状態異常系は……麻痺は雷魔術でよいので闇の毒霧ポイズン・ミスト

 拘束系は無属性から束縛糸バインドと土属性から土縛手アース・ハンド

 索敵系は空間魔術から鷹の目ホークアイと、無属性から魔力探信マナ・サーチ

 ……ああ、隠遁系ってのがあったな。風魔術で忍び足スニーク。音関連は風扱いなんだよな。


 後は生活が豊かになる系統と、付与を少し先取りさせてもらうか。


「って感じだと思いますが、どうですかね?」


「よくもまぁそれだけ覚えてるな。……概ね問題ないと思うが、一通りこなせるようになるつもりなら重量化ヘヴィウェイト照明弾フレアも取っておくべきだな」


「使い道有ります?」


重量化ヘヴィウェイトは籠城戦するときなんかには便利な魔術だ。照明弾フレアは夜戦向けだな」


「……なる程」


 籠るような戦い方する機会あるかなぁ?無いとは言えないか。そして夜は寝ていたい。


「それと、錬金の魔術は覚えて置け。触媒が必要だが、初級ならそう高価なものじゃない。MPが無くなったら休憩がてら買いに行けばいい」


「……わかりました。一日付き合わせちゃうことになりますけど」


「それくらいは問題ねぇよ」


「ありがとうございます」


 休憩を挟みながら、ひたすら復唱法で新しい魔術を覚えていく。

 それは昼食休憩を挟んで、教会での仕事時間まで延々と続いたのだった。


□聖教会・治療院□


「こっちもだいぶ形になってきましたね」


 パーティションで区切られた治療スペースでは、教会所属の治療師たちが問診や診察を行っていた。


「ワタル殿のおかげですよ」


 一緒に様子を見て回っているルドルフさんは終始ニコニコだ。


「いえ、皆さん俺みたいな流れの若輩者の話をちゃんと聞いてくれて助かります」


「それはまあ……高い講習料を払っておりますからな。経過を観察する、アンケートなるものを書いてもらう、というアイデアも役に立っておりますよ」


 カルテの効果は既に見え始めている。

 診察を受けた印象のアンケートも取ったりしており、治療師がより良い治療をできるよう、振り返りの材料としている。


「ほんとは投薬治療も合わせてやりたかったのですが、何分教科書知識程度しかないので。教本には記載してありますから、それはゆっくり検証してくださいね」


「ええ、ええ。すでに冒険者ギルドや薬剤店と調整を進めております。それと訪問診療、本日も朝から予約が入っておりまして好評です」


「入信者も増えましたか?」


「そりゃあもう……いえいえ、そういう事ではございません。すべての人々に神のご加護を行き渡らせ、健やかなる安寧を紡ぐことこそ我らが使命」


「……家庭用女神像の普及率は?」


「……ワタル殿は商売が上手でございますね」


「……勧誘ノルマを課したり、無理なお布施を要求したりして評判を落とさなけりゃ順調に成長すると思いますよ」


「重々承知でございます」


 まあ、順調そうで何より。


 訪問診療は王都などでは専門の医者が貴族たちを相手にやっている手法だ。

 貧しい市民相手には一般的ではないが、布教活動の一環として行うことで普及できそうな見込み。


 もともと体調が悪すぎて動けない人、足が悪いなどで教会に来れない人などには需要がありそうだった。

 ただ、そう言う人たちは慢性疾患が多く、教会で治療を受けても良くならず諦めていた人も多い。

 それを訪問診療と局所回復の技術で治療できれば、教会の評判は大きく伸びる。信者獲得も容易になるだろう。


 まぁ、精々献身的に治療にあたって人助けをしてくれ。

 教会が助けた人たちが、巡り巡って俺の魔王討伐の助けになる可能性があるのだから。

 ……一応、創始者は俺のアース式医療術って名前で患者に売り込んであるしね。


「そろそろ顔を出すのも1日おきとかにして良いころですかね?」


「……ふむ。回り始めておりますが……良いのですか?流石に来られないと報酬はお支払いできませんが」


「金が無ければ首が回りませんが、報酬が目的と言うわけでもないので」


「そうでしたな」


「急患や困りごとがあれば天啓経由で連絡してもらえれば良いです」


 試してみたから使えるのは知ってる。


「神を伝言役に使うのはどうかと思うのですがね……」


 それは言いっこなしだ。どうせ使える相手は限られる。


「ワタルさん、希望の患者さんが来ていますがどうされます?」


 そんなことを話していると、シスターに呼び止められた・


「あ~……MPも戻ってますし行きます。誰か一人治療師を付けてください。その内引き取ってもらわないといけないので」


「はい。すぐに当てておきます」


 患者が途切れるまで治療を行い、その後は治療師からの報告をうけてカルテを見ながら不足部分をレクチャー。

 なんだかんだ日が暮れた後も作業が続き、遅くまで働くことに成る。


 ……ん~……なんかこの異世界ブラックじゃね?俺まだ学生だったんだけどなぁ……。

 さくっと魔王倒して地球に帰りたいわ。

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