第113話 子供たちと触れ合った
手始めに、薪割をしている少年たちに斧を借りて、斧に切れ味強化、台に耐久力向上を一時付与した。
一振りじゃ切れなかった薪が、スパスパと豆腐を切る様に切れるようになって、4人がそろって驚いていた。
「切れすぎるのも危ないから、ちゃんと斧を手入れしたほうが良いね」
欠けてる斧を使うのはよろしくない。
そもそも薪は割るものであって切るものじゃない。子供たちは喜んで、やらせてやらせてと集まってきたけど、ついうっかりで腕とか首とかすっ飛ぶのでちょっと怖い。
「せっかく外に居るんだから、ちょっと皆をきれいにしちゃおうか」
申し訳ないのだけれど、微妙ににおいが気になるんだよね。
貧民街全体に言えることなのだが、風呂が普及して居ない世界なので衛生的にちょっと……。ああ、風呂に入りたい。できれば足を延ばせる風呂が良い。温泉だと尚いいな。
……いかん、現実逃避をしている場合じゃない。
騒ぎが大きくなって、外に出てきた子供たちに
「すごい!髪がサラサラ!」
「手が黒くない!それになんか服も臭くない!」
ああ、大はしゃぎだ。
「
ラッツくんが興奮して素が出ている。
「ん、無理に敬語を使わなくても良いけど、練習も兼ねてならガンバレ。あと、呪文を声に出してるだろ。これは
そう言うとラッツは首をかしげる。
「そう言えば、他の子どもたちは?」
出てきた子供たちは12人。人間だと5歳から10歳ちょっとくらいに見える子がほとんどだ。
一人リザードマンの女の子らしき子供がいるが、小さいという事以外、年齢が分からん。
「10を超えたら、外の仕事を手伝ったり、街の外で小銭を稼いだりしてるぜ。今日は俺とアニーが中の面倒を見る日で残ってたんだ」
孤児院に暮らす子供の内、十数人は院の外に働きに行っているとのこと。
中に居たのが16人。4人は料理中で、残りはほんとに小さい子供と、身体が弱くて出てこれない子らしい。
「おにいしゃんは教会の人なの?」
小さな女の子が俺を見てそう聞いてきた。アインス教会のタバードは王都の物とは違うが、それでもそれっぽくは見えるらしい。
「いや、ただの冒険者だよ。この服も、ここじゃない街でもらったから着てるだけだね」
「……ふ~ん」
なんだろう、教会に嫌な思い出でもあるのかな?
「薪割が終わったら、斧を元に戻すから貸してね」
『えー』と不満の声が上がるが、危ないので仕方ない。
「冒険者って、強いの?」
「そりゃ強いぜ!だってみんな神様の声聞いたろ!その人だぜ!」
「すげぇ!」
「どれくらい強いのかな?」
「兵隊さんより強い?」
うんうん。興味を持ってくれるのは良いことだ。
子供は素直だし、こんな胡散臭い男でも心を開いてくれるのはありがたい。
「そうだなぁ、王都の兵隊さんがどれくらい強いか分からないけど、例えばね、こんなことができるよ。ちょっと離れていて」
鎧とタバードを
ステータスを駆使して逆立ち、そのまま腕の力で飛び上がると、膝を抱えて後方二回宙返りをして着地。高さは二メートルくらい出ていたかな。この処は曲芸の練習もしていたのだ。
「すげぇ!なにそれ!」
「助走をつければこんなこともできる」
両足で地面を蹴って、伸身二回宙返り一回捻り。子供たちに分かりやすいよう、高さを出して回転は抑える。
もっと高く飛べるかと聞かれたから、錬金術で作った鉄棒を使って棒高跳びの要領で飛ぶ。
これは2階を優に越す高さまで飛び上がって、実はちょっと怖かった。いや、ステータス的には余裕だけどさ。それでも落ちるのって怖いよね。
思いのほか盛り上がった。
やっぱりこの世界の人、ステータスは高くなるけど日常的に超人的な動きが出来ることには注目してないな。
娯楽のメインは歌。王都には劇場があるけど、庶民の文化としては根付いていない。
「いったい何の騒ぎです?今はお勉強の時間のはずですよ、ほら、解散解散」
騒ぎが大きくなって、グットマン女史がやって来てしまった。
「視察だけだったのでは?」
「さて、手を動かさないと言った覚えは無いですね」
ペテン師の手口だと言うなかれ。
「院長先生!聞いて!部屋がね、すごい綺麗になったの!」
アニーさんがさっそくグットマン女史の手を取って、男子の寝室に引っ張っていく。
あれは女子部屋の掃除もすることに成る流れだな。そのつもりだったから良いのだけど。
「それじゃあ皆は勉強部屋に戻ろうか。ラッツ君、出てこられなかった子たちについて教えてもらえる?」
話を聞くと、あまり元気ではない子が6人いるらしい。男の子が2人と、女の子が4人。ただ、ほんとに重い子は二人で、他の子は体調がいいときは普通だとか。今日も二人は外に出ているらしい。
「その子たちは2階に?」
「うん。夜は院長が看病することも多いから」
グットマン女史は村人らしい。
村人は一般職の色々なスキルをつまみ食いで覚えるため、生活をする上では便利な職業だ。
そして器用貧乏でもある。何せ村人の覚えるスキルは、練習したり少し時間を掛ければスキル無しでもできることが多い。
「教会で治療は受けてないの?」
「受けてたけど良くならないから、薬師の先生に薬をもらってる」
ふむ、治療があってないかな。もしくは再生でなければ治らない症状か。
見せてもらうように頼んでみよう。
戻ってきたグットマン女史は、アニーに説得されて仕方なく二階へ案内してくれた。
……女子部屋、なんかいけない響きがある。ひみつの花園的な。……まあ、暮らしているのは子供ばかりなので興味はないですよ。
「小さい男の子もこっちで過ごしていますので、男子禁制と言うわけでもないのですけどね」
7歳くらいまでは上で過ごすらしい。
男子の人数が19人で、1階が二部屋しか使ってないので約10人が1階。二人は病人だとすると7歳以下の男の子が七~八人居ることに成る。結構大変だな。
「子供たちの寝室はそちらです。ちょっと体調の悪い子がいて、寝ていますがお気になさらずに」
「ふむ。それなら少し診察もしましょう」
「リターナーさんは治癒師ではないのでは?」
「伊達で教会のタバードを着ているわけじゃ無いですよ」
物置に成っている部屋も含めて、
さて、体調が悪いと休んでいる子はその子かな?
「……大丈夫よ。ほっといてちょうだい」
12~3歳くらいの少女、あまり顔色が良くないが、熱があるとかそう言う雰囲気ではない。
「ステータスを見せてもらえない?」
「……やだ」
「……グットマンさん?」
「ちょっと調子が悪いだけです。普段は元気なのですから、わざわざお手数おかけすることも無いですよ」
ふむ。……なんか、この雰囲気心当たりあるな。
こういう反応の時、大体の症例はソレだと集合知さんも言っている。
「仲間からは、私はデリカシーが無いと言われていましてね」
問答無用で布団を引っぺがすと、頭を押さえつけて寝かせたまま下腹部に手を当てる。
この間2秒。口を挟む隙など与えはしない。
「大いなる光の神の聖名において、汝の傷を癒さん。
「リターナーさん!?」
グットマン女史が声を荒げた時には、治癒の効果は発動している。
「子供とは言え、いきなり女性の布団を引っぺがすなんて何を考えて!」
「……あれ?痛く……ない」
驚いて目を丸くしていた少女が身体を起こす。ふむ、予想通りだったか。
不思議そうに首をかしげる少女に名前を聞くと、メアリーと帰ってきた。
「メアリーさん、よく聞いてね。月のモノが重いのは、別に恥ずかし事では無いよ。今は傷を癒しただけだけど、寝込まなきゃいけないようなら、ちゃんと教会で治療を受けたほうが良い」
タリアと一緒になってから、この手の話は集合知で一通り調べた。
余り気持ちのいい情報じゃない物が多かったが、知っていれば役に立つ。
「グットマンさん、獣人と違って、人間族の生理不順や不調は時に命にかかわります。種族の壁があって分からないこともあるかも知れませんが、ちゃんと教会を頼ってくださいね」
獣人は年1~2回の排卵期が一般的で、この手の症状に知識が無いのは仕方ない。
しかも15歳に成れば強制的に健康体になるのだ。種族の差もあるし、そう言うものだと思ってしまえば、どうにかしようと思わないのも仕方ないのかも知れない。
それでも大人が一歩踏み出さないとダメな時がある。この手の治療は貴族や裕福な商人の間では一般的だし、庶民でも伝手で情報をもらって、15歳まで定期的に治療を受ける人もいる。
「……失礼しました。しかし、それはそれとして強引過ぎでは?」
「私の人生に押し問答している時間は無いのですよ。さて、次の子に行きましょう」
そろそろ日が傾き始める頃だ。もう一つの孤児院も今日伺っておこうと思っているのだから、悠長にしている余裕はない。
「……あの、おにいちゃん」
部屋を出ようとすると、少女がタバードの端を引っ張る。
「……ありがとう」
「……どういたしまして。応急手当みたいなものだから、また体調が悪くなったら今度はステータスを見せてね。それから、今度来た時には自分で治療できるように、魔術を教えてあげる」
「……ほんと?」
「ああ、約束だ」
「うん!」
よし、元気な笑顔を見られたし、次も頑張ろう。
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