第112話 孤児院を訪ねてみた
「先ほどはお世話になりました。しばらくしたらこの広場で、少し仕事をさせていただくことに成りそうです。こちら、お近づきの印に、そちらのお二方もいかがです?プレゼントにしても喜ばれると思いますよ」
「……あんたまた奇特な兄ちゃんだな」
水くみ屋の兄さん方に挨拶してから、商店周りの店舗を回る。
「ここは貧乏人の住む地区だぜ。ここで金になりそうなもんなんてありゃしないさ」
「金にはならなくても、価値のあるモノもあるんですよ」
雑貨屋のおっちゃんは何とも言えない。
「ドーレさんには挨拶に行ったのか。良いというなら良いのだろう。わざわざ挨拶に来るとは殊勝だな」
「いえいえ、今後ともよろしくお願いいたします」
宿屋のおっちゃんは不愛想だ。が、ドーレさんの名前を出したら少し安堵したように息をついた。
「……帰っとくれ。客じゃないなら要は無いよ。施しを受けるいわれも無いさ」
「そうでもないのですが……」
パン屋のおばちゃんは、ドーレさんの名前を出すと明らかに不機嫌になった。
一番割食いそうなのは食料品店なのだがな。……ふむ、パンはここで仕入れるか。
「最後はさんざんでしたね」
「ん、でもなんとなーく関係が見えてこない?」
余計なことを聞いて嗅ぎつけられるのも面倒なので、探りを入れるのは少しづつ。
大通りを外れて、一つ目の孤児院へ向かう。
煉瓦造りの壁に囲われた建物は、教会を思わせるものがある。小さな庭には薪置き場があり、その前で10歳ちょっとと思われる男の子二人が薪割をしている。一人は獣人っぽい。
「申し訳ないんだけど、院長さんに取り次いでもらえるかな?」
声を掛けると、少年たちは慌てたように孤児院の中へと入っていく。
奥の方で「変な兄ちゃんが来たー!」と子供の叫びが聞こえた。……変な兄ちゃんってな。
「……どったの?」
「いえ、なんでもありません」
バーバラさんが何かを言いたそうにしていた気がする。何だろう。
しばらくすると、犬頭の女性がやってきた。服装からして院長さんらしいが、完全獣タイプの獣人は年齢が分からん。
「おやまぁ、貴族様の使いの方がこんなところ頃までどのようなご用件でしょう。と、立ち話をさせるわけにもいきませんね、どうぞこちらへ」
そう言って門を開けてくれる。
別に鍵がかかって居る分けでもないのだけれど、勝手に入るのがはばかられるのは日本人的かな?
クロノスの文化的には、家の扉をたたく所まで入るのは普通。ただ、扉が遠すぎて気後れするのよね。広さ的にはお屋敷くらいの面積あるし。
応接間に通されたので、自己紹介をするととても驚かれた。
全世界一斉アナウンスはこういう時にありがたい。
「才能の有る若者を探しています。むろん、これから成人を迎える子供たちもです」
「……ご支援いただけるのはありがたいですが、急な話でどう受け取ればよいか」
院長であるララバイ・グットマン女史は困った顔をする。彼女は数年前に叔母からこの孤児院の実務を引き継いだらしい。クロノスの孤児院は国の管理なので、国との交渉はまだその叔母様がやっているとか。
「なに、とりあえずはありがとうございますと受け取ってもらえれば良いのです。これの代価に何かを求めることはありませんから。あ、でもそうですね、孤児院内の視察と、あと子供たちと少し話をさせてもらえるとありがたいですね」
とりあえずの支援品として渡したのが、パンや卵、それに鶏肉10キロを始めとする食料品。
調理の手間は多少あるが、必需品であり転売しづらい物を選んである。
「なんなら、食事の準備も手伝いましょう。まだ日は高いですが、仕込みは大変でしょう」
「いえ、そこまでして貰う分けには」
「なに、親切の押し売りです。小間使いが一人増えたとおもって貰えばいい」
そう言ってバーバラさんを見る。
「……え?手伝うのもしかして私ですか?」
「だって俺は子供たちと話すという仕事があるし。なんなら、一人二人案内に付けていただけるとありがたいです」
いや、ぶっちゃけ俺が料理したほうが良いと思うんだけどね。
「……はぁ。わかりました。少しお待ちください」
しばらくして、グットマンさんは少年少女を連れ立って戻ってきた。
「こっちがラッツ。ふた月ほど前に15歳になり、今はレベル上げをしながら孤児院を手伝ってくれています。こっちはアニー、14歳です。二人とも、リターナーさんに院内を案内してあげて。それからトビー、食べ物を寄付してもらったから、料理当番の子と、食材を調理場に運んでちょうだい。こちらのお姉さんが手伝ってくれるそうだから」
ラッツと呼ばれた少年は人族、アニーと呼ばれた少女はハーフドワーフかな?
「ワタル・リターナーです。よろしく」
そう言って手を差し出すと、子供たちは驚いたような顔をして、恐る恐ると言った雰囲気で握手を交わした。
食材の方はバーバラさんに任せて、領内を案内してもらう。
「ラッツ君は
「はい。もうすぐ10レベルに成るので」
「その後は職人?」
「……兵士になれればと思っているので、槍兵になるつもりです。しばらくは冒険者でしょうが。……リターナーさんって、あのワタル・リターナーさんですか?」
「ん?たぶんそうだよ。ステータス見る?」
ウィンドウを開いて
「アニーさんは、もう働き先を決めた?」
このくらいの年齢だと、すでに素質からどんな職業を目指そうか決めている子も多いはず。
「わたしは……職人に成ろうと思ってるけど、何をするかは決めてない」
「じゃあ、職人ギルドで斡旋を受ける形かな」
代表的なのは鍛冶、木工、服飾の三つ。さらに細分化するなら、製鉄だの家具だの紡績や染物だのに分かれていく。
あまり細かい分野の『職業』は無いので、どう言った職人になるかは当人次第だ。
「こっちが男子用の部屋。階段あがると女児用の部屋で、男子は昇っちゃいけないことに成ってる。部屋は5人で一部屋。今は男子が19人、女子が22人居るよ。ちっちゃい子はみんな上だから、男子で使ってるのは二部屋かな」
廊下は狭くて採光も悪い。昼間なのに
「覗いても?」
「良いけど、今は誰も居ないよ」
部屋は6畳ほどで、その大半をベッドと呼ぶには大きすぎる台が占めている。窓は跳ね上げ式の物がちょろっとついているだけで、部屋自体は暗い。
小さいながら暖炉があるのは北国ならではだな。
「しかし……ちょっとかび臭いな。
部屋全体に魔術を掛けると、かび臭さがかなり和らいだ。高INTの恩恵がこんなところにも出たか。
「!すげぇ!兄ちゃん何したんだ!?」
突然部屋の中が綺麗になって、二人は目を丸くする。
「他の部屋もこんな感じ?」
「どの部屋もそんなに変わらないよ」
「んじゃ、ちょっと綺麗にしちゃおうか」
寝室に成っている部屋はすべて
アニーさんがうらやましそうにしていたので、後でグットマンさんに聞いてみて、許可が出ればきれいにすると約束する。
「そっちが調理場でその奥にご飯を食べるところがある。ぐるっと廊下が繋がってるんだ。んで、そこががトイレ。こっから先が勉強部屋」
勉強部屋を中をのぞくと、何人かの子供たちがテーブルを囲んでいた。
簡単な文字や数字を勉強したり、計算を学んだりしているらしい。ステータスを理解しなければいならないので、この世界の識字率は比較的高い。それでも簡単な文字や数字が読めるだけで、ちゃんとした文章の読み書きができるのは50%に届かないくらいらしい。
とりあえず、トイレは
「勝手口から出ると、裏庭だよ。井戸と畑、洗濯場、それに肥溜めがある」
……北国で比較的乾燥しているクロノスで肥えは発酵するのかね?
裏庭から表に回ると、少年たちはまだ薪割をしていた。なかなか大変そうだ。
しかし、何とか生活できてはいるけれど、全体的にぼろっちいって感じだな。
あまりお金が無いという集合知の情報は、三年経っても変わらずだったか。
今日は様子見だけのつもりだったし、
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