第114話 食事も治療も利己的支援
掃除と診察を終えて、応接間で状況を確認する。
「喘息の子は
喘息は免疫系の過剰反応が原因だと思うけど、俺の知識じゃ良く分からない。この手の内容は集合知は当てにならん。様子を見るしか無いだろう。
寄生虫感染症の子は
ダメージを受けた臓器の修復はされないから、そこは
「腎疾患のシノは
低下した内臓機能を癒すには
それで俺は血反吐を吐いたがな。
「問題は心疾患のテッドですね。先天性なので、
これに対し、
本人の情報に基づかず、生命体としての正常な状態に治癒させる。先天性の疾患にも効果がある。おそらく人類、またはその種族の平均を見て、修復を行っていると考えられる。
顔面の怪我をこれで治すと顔つきが変わる、とかわけのわからない副作用もあったりする。多様性クソくらえ的な回復のさせ方だな。
「詳しい症状は私では分かりませんが、幸い激しい運動をしなければ病状は落ち着いているようなので、
ステータスの表示は『先天性心疾患:軽症』となっていた。当人やグットマンさんには『心臓病:軽症』としか出ていないらしい。
俺も地球の医学に詳しいわけじゃ無いから、これ以上のことは分からない。
……この病状表示を見た時、俺がエリュマントス戦で軽傷になっていた時の体内がどうなってたのか、とても気になった。
部位ごとの症状が表示できるなら、あの時はそう言う表示でも良かったはずだ。
そうならなかったって事はつまり……全部潰れてた?
怖いから考えるのを止めよう。
「……リターナーさんは、どうしてそこまでしてくださるのでしょう」
力業で館をきれいにし、病を癒していく俺のやり方に疑問を感じたらしい。
「なんで……むしろなんでグットマンさんはしないんですかね?」
彼女の疑問に、俺は質問で返した。
それはこの世界に来てから、ずっと疑問に思っている事でもある。
「素質なんかなくても、適当に戦闘職に転職してレベルを上げれば、ステータスは勝手に生長するでしょう?皆さん
魔物と戦う事は、別にこの世界では異常な事じゃない。
こっちに来たばかりの俺でも、そこらのデカいハエや藁人形をブチ倒せたのだから、出来ない話じゃない。
「……質問の意図が分かりかねます」
「ひと月も街の外で魔物を狩り続ければ、一次職でもいいレベルに成りますよね。実入りだって良い。腹も満たせますし、治療は受けさせられる。教会の治療費が高くてもたかが知れてますよね」
王都は物価が高いけど、それでもアインスと比べて法外な値段と言うわけではない。
「それに、治癒師や神聖魔術師を選べば、
「それは……」
「他にも、稼ぎを考えるなら
俺が街を中心に活動しているのは、自分の精神がこの世界の人間に比べてへなちょこだと理解しているからだ。
美味い飯は食いたし、夜は柔らかいベッドで寝たい。毎日風呂に入りたいし、野ぐそは嫌じゃ。
そういう事に対する精神的な耐性は、こっちの人は比べ物にならないほど高いのだ。
実際に著名な冒険者を出した孤児院の中には、その支援を受けて平民家庭とは比べ物にならない水準を経て、寄宿学校のような施設に格上げされたところが史実上いくつもある。
善意の好循環が回れば、その効果は地球の比じゃない。
「……と、まぁ、それ自体は絵に描いた餅。机上の空論です。でも、俺の欲しいものはちょっといくらお金を積んでも手に入らないので、運よく稼いだお金の一部と労力をを、別の何かに変換している最中なわけです」
「……貴方が欲しい物とは?」
「力ですよ。魔王を滅ぼすだけの」
そう言うと、犬頭の彼女を見てわかるほどの、そう、鳩が豆鉄砲くらったかのように目を瞬かせた。
「はぁ、それでうちの子たちが力になると?」
魔王なんて、庶民にはもはや雲の上以上の存在過ぎて良く分からないのだろう。
「まさか。彼らが冒険者になったとして、中央で戦えるようになるまで10年。そんなに待つ気は無いですよ。でもね、後に続く者も必要になるかも思いまして。それは個人の力でどうなるものでもないんです。クロノスで活躍する冒険者が増えれば魔物が減り、それが他の地域もそうなるかもしれない。いや、もっとシンプルでもいいですね。ワタル・リターナーは良い奴だ、凄い奴だ。そうやって名前が売れれば、ちょっとだけ協力してやろうって人が増えてくれるかもしれないじゃあないですか」
金では買えない
「それ、話してしまってはダメな内容では?」
「そんなこと無いですよ。別に善意の支援だなんて言った覚えもないですし、俺のことを『うまい事使ってやろう』的なことを考える人が一人二人いた所で、どうにかなるモノでもないでしょう」
嘘を見抜ける真偽官なんて職業がある世界で、きれいごとを述べても仕方ない。
「……取り繕わないのですね」
そう言ってため息をつくグットマン女史。
「ええ。のんびり腹の探り合いをするつもりはないですからね」
「食料の支援も、子供たちの治療も感謝しております。でも、私たちに出来ることはほとんどないですし、子供にあまり危険な真似をさせるのはいただけません。それでよろしければ、ありがたく支援を受けさせていただきたいと思います」
「結構結構。むしろ乗り気だったら引きますよ」
ようやく彼女の肩の力が抜けた気がする。
「外に出ている子供たちが戻るのはいつごろですかね?この地区にあるもう一軒の孤児院も伺おうと思っていましたので、遅くなるようでしたら残りの子供たちの診察は後日に出来ればいいのですけど」
そう言うと、グットマンさんはちょっと困った顔をして。
「あら、御存じありませんか?あちらの孤児院は数か月前に院長さんが無くなられまして、今は閉鎖されているんですよ」
そう教えてくれたくれたのだった。
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