第115話 閉鎖孤児院と元顔役
貧民街にある2つ目の孤児院、グレイビアード孤児院には鉄の鎖がまかれた南京錠で封鎖されており、建物の扉には居たが打ち付けられていた。
建物と敷地の大きさはエイダール孤児院よりも少し小さい。もともと院長が高齢だったこともあり、孤児の人数も多くなかったらしい。
「しかし、子供たちがエイダールに引き取られていないのも気になるな」
院長が亡くなったのは3か月ほど前らしい。
当時10人ちょっとの孤児が居たはずだが、エイダールに引き取られた子はいないとのこと。
むしろ院長が無くなったという話も、グットマンさんは人づてに後から聞いたらしい。
「門が閉じているって事は管理されている?……エイダールは一人で管理するには人数が溢れぎみだけど、連絡が行かないってのも気になるな」
向かって左横が雑木林。薪確保用の緑地で、裏まで続いている。右横は農地。広くは無い十数メートル四方はありそう。奥にため池も見える。
正面側は民家だが、ここは空き屋っぽいな。平屋のアパートメントタイプ。
魔物に攻められて物流が止まった時を考えてか、城壁内にも多少の農地や緑地が存在している。今も秋から冬への作付けが行われているようなので、手は入っているようだ。
街中だから人の反応が多くてうっとおしいが……中には6人。地下に居る?ほかに気になる点は……こっちに近づいてくる人が居るな。
「あんた、どこの人だい?この孤児院は少し前から閉鎖中だよ」
話しかけてきたのは20台後半から30台くらいの女性。
偶然通りかかったわけじゃ無い。
「ご親切にありがとうございます。わたくし、リターナーと申します。アインス男爵の使いのようなものなのですが、少しお話を伺っても?」
「……なおさら貴族様のお使いが、何の用だい?」
まさか逆に質問されるとは思っていなかったのだろう。女性は驚いた風だったが、記章を目にとめて、警戒しながらもそう訊いてきた。
「実はアインス男爵のご厚意もあって、孤児院の支援を提案に回っているのです。エイダール孤児院の方に伺っていたのですが、グレイビアードが閉鎖されたと聞いて様子を見に来た次第です」
「……へぇ。支援ねぇ」
胡散臭い人間を見るような目つきだな。
まぁ、胡散臭いが服着て歩いているようなものだから仕方なし。
「ここが閉まった時、エイダールに移った子供はいなかったと聞いているのですが、子供たちがどこに行ったかご存じありませんか?」
「……さあね。あたしも近くに住んでるだけだから、聞かれても知らないよ」
「そうですか。ちなみに知って居そうな人は心当りありませんか?ああ、顔役のドーレさん以外で」
「どういう意味だい?」
「そのままの意味ですよ。私は今日初めてこの地区に来たんですが、ドーレさんにはすでに挨拶させていただきました。またお時間取らせるのも申し訳ないので、今日は他の方の話を聞こうかと」
ちなみに、すでにグットマンさんから話を聞いて当りは付けてある。
以前の顔役であるコーウェンさんは、まだこの地区にいるらしい。体調を崩されて引退したらしいが、話くらいは聞けるだろうとのこと。住所も聞いてある。
「前の顔役のコーウェンさんなら、何か知ってるかもねぇ」
ふむ。やはりそちらの名前が出てくるのか。
「ありがとうございます。ちょうとエイダールでもお名前を聞いたので、伺ってみようと思います」
何か言いたそうな雰囲気だったので、また会うことが有れば聞いてみよう。
先代の顔役であるコーウェンさんの家は、地区の東側にあるアパートの2階一室だった。
キッチンとトイレが共用の1Dタイプで、二部屋で10畳ほどの小さな部屋だ。このような建物は昔、まだここが貧民街では無かった時代ころに、地方の村から出てきた単身者が暮らすように数多く作られた。
ここもそんな建物の一室だ。
「ごめん下さい。コーウェンさんのお宅はこちらでよろしいでしょうか?」
暗くかび臭い廊下の奥の部屋、飾り気の少ない扉をノックする。
反応は無い。
「コーウェンさん?いらっしゃいますよね?」
再度トントンと扉をたたく。……借金取りのムーブだなコレ。
「……どちら様でしょうか?」
しばらくすると、中から若い女性の声が聞こえた。
「わたくし、ワタル・リターナーと申します。アインス男爵の使いのようなものです」
……消火器でも売りそうな言い回しになるな。
「こちらに以前、この地区の顔役を務めていたコーウェンさんがいらっしゃると聞いて伺いました。少しお話を伺いたいのですが、お時間いただけませんでしょうか」
「……申し訳ありません。父は体調が悪く臥せっております。何かお話しできる状態ではございませんので……」
「ああ、それでしたら回復魔術も使えますので、治療も行いましょう。元気になってからお話をお伺いした方がよいでしょう。もちろんお代は頂きませんよ。真偽官に誓ってもいい」
「……お引き取り下さい」
「そう言わずに、ああ、よくわからない男が訪ねてきて不安と言うなら、どなたかお知り合いを呼んでいただいても構いませんよ」
「…………お引き取り下さい」
「申し訳ありません。引き取るつもりはないです。何なら貴族権限を盾に扉ぶち破る位はしますが、出来れば穏便にお話を聞かせていただけると助かります」
「っ!……憲兵を呼びますよ!?」
「貴方が
「……脅迫ですか!?」
「治療して話をするのが脅迫になるんです?」
「人を呼びますよ!?」
「はい、その方が賢明かと思いますが」
中から反応が無くなる。ん~……どうした物かな?
ほんとにぶち破っても良いのだけれど、後処理がめんどくさいからできればやりたくない。
バーバラさんが一緒だったら、もう少しましだったかもしれないけれど、孤児院の手伝いに残してきてしまったからなぁ。
そう思っていると、外から誰かが上がって来る。
「……おう、兄ちゃん。何の用だ?」
180センチを優に超えるいかついおっちゃんが上がってきた。
腕太っと!雰囲気から言って大工とか建築関係の人かな?
「初めまして。わたくしワタル・リターナーと申します。コーウェンさんにお話を聞きたくて伺ったのですが、門前払いに会っていまして。少し説得をお手伝いいただけますか?あ、ちなみにステータスです」
「…………ひぃ!?」
低く偽装されているステータス値を見て、それでも目を泳がせる。
「レベ……レベル99って、最近神の言葉を流した、あのワタル・リターナー……さんですか?」
「はい。そのワタル・リターナーです」
「……あ~……リタ?……少しくらい話を聞いても良いんじゃないでしょうか」
しばらくすると、恐る恐る扉が開かれる。
顔をのぞかせたのは、俺より少し上と思われる若い女性だった。
「……何の御用でしょうか?」
リタと呼ばれたその女性は、隣で居場所無さげにしている巨漢をぎろりとにらんだ後、こちらに視線を向けてそう聞いた。
「はい。もう一度自己紹介を。ワタル・リターナーです。ステータスはこちら。コーウェンさんにお話を聞きたくて伺ったのですが、まずは治療ですかね。お邪魔しても?」
「……はぁ。お金はありませんし、何かあったら憲兵に突き出しますよ」
「なにも無いのでどうぞどうぞ。あ、バルバスさんでしたっけ?帰らないでくださいね」
「……なんでぇ」
巻き込まれた巨漢の男は、眉を八の字にして嘆いた。
残念。出会った時点で縁が出来た。あきらめてくれ。
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