第394話 鉱山都市エーデとクロノスの王子
クロノス王国から旧ザース王国へ向かうルートは少なく、大人数が進軍できるような道は1つに限られる。
それはアインスよりはるか南、ウォールからは北北西に位置する山脈の切れ目。大陸の中央に南北に横たわる大山脈の、わずかに低くなった谷間を抜けるルートである。
王国南部では日差しが厳しくなり、本格的な夏に突入した7月の初旬。
俺達はクロノス王国軍が終結する山間の都市エーデへとたどり着いていた。
開拓村から飛行船で時間迷宮近くの村へ降り立ち、そこで飛行船を
そこから最新型の装軌車両メルカバーMk-3で北西に向けて街道を進む。途中でハオラン達と追いかけっこに興じていた大街道を抜け、ウォールを先発していた狂信兵団の選抜隊3車輛20名と合流し、エーデまでおよそ一週間の旅路である。
「夏だというのに、ずいぶんと涼しいのであるな」
「ここは標高が1500メートル近くありますからね」
エーデは山間に作られた鉱山都市であり、この世界でも非常に珍しい谷間に向かい合うように作られた街である。
こんな標高の高い場所にある鉱山都市はこの世界でも珍しい。さらに山の一部のエリアは石灰岩質で、西に行くと岩塩が取れるエリアもある。少し西の方では地震も多く、大陸を作るプレートが乗り上げた端っこではないかと思っているのだが、高校地学をちょっと触った程度の俺の知識では何とも言えない。
ただ、ぶっちゃけこんなところで働きたくないとは思う。
……ジェネ―ルさんが罪に問われていたら、ココに送り込まれてたのだろうか。
街に入るとすぐに王国騎士団がやってきて、バーバラさんを通じて面談の予定が組まれる。
予定期日まではまだ数日あるが、既に騎士団は到着しているらしい。
「こうして直接お会いするのは初めてですな。今回の戦の副総指揮官、ダニエル・ゴールドスタインですじゃ。以後お見知りおきを」
そう名乗ったのは、白髪交じりの虎頭の獣人。身の丈は2メートルを越え、その体躯からは歴戦の戦士であることが分かると同時に、毛並みや言葉遣いからそれなりに老齢である事もうかがえる。
獣人種は俺から見れば年齢が分かりづらい相手なのだが、それでも老兵の雰囲気を感じるって事はそれなりの御年齢だろう。
ダニエル・ゴールドスタイン……近年中央遠征で功績を上げて貴族になった者の中にゴールドスタインという名前があるな。詳細が分からないのは個人情報の範疇だからかな。
「ワタル・リターナーです。ご丁寧にありがとうございます。副総指揮官という事は、総指揮官は別に?」
「ええ、何ぶん準備に時間の掛かる御方でしてな。少しお待ちくだされ」
「もちろん。……その間に少しお話を伺ってもよろしいですか?閣下はゴールドスタイン男爵家の?」
「ほほ、しがない戦狂いの名を知っておられますか。男爵の地位は既に息子に譲りましたから、今はただの老兵ですじゃ」
……おおう、前ゴールドスタイン男爵当人?という事はこの人もしかして4次職の戦神か?
戦士直系の4次職で、あらゆる武器と戦況に精通した戦いのプロフェッショナル。普通だったら総指揮官に座っていておかしくない人物だ。
軍も騎士団も爵位より職位が優先されるのにこういう人が副指揮官って事は、総指揮官はさらに地位的に上の人物。おそらくだけど……4次職に引けを取らない特殊職。
その予想は当たっていて。
「こちら、本策戦の総指揮官を務められる第3王子のミハイル・G・クロノス閣下であらせられます」
予想通りの大物が出て来たよ。
「お初にお目にかかります。ワタル・リターナーです」
片膝付いて頭を垂れる。まさか王子が出て来るとは、ずいぶんと大きな話に成ったもんだ。
「よい、面を上げてくれ。総指揮官などと言っても、実績の無い若輩だ」
ミハイル王子は17歳。職業はそのまま
「王子の力は神に確約されております。ご謙遜なされることは無いかと」
「であればなおのこと、私の力ではあるまい。それが分からぬほど愚かと思ってくれるなよ」
「これは失礼いたしました。しかし……同じ大陸とは言え、殿下が出陣されるにはいささか危険では?」
「だからこそ価値もある。封魔弾の供給でレベルだけは上がった騎士団、新兵器である装軌車両の運用、それらの実力を怪しむものも多い。人目に触れず、かつ隣国で力を試せるこの機会は大きい。それに魔物はクーロンへの攻勢で手薄になっているという話もある。この国の魔将が、クーロンで目撃されたという話もあるのでな」
「四魔将の一角が?」
「貴殿が倒したので、今は三魔将であろう。装軌車両が活かせることが分かれば、このルートが魔物どもにとっても価値のある者に成る可能性は高い。手薄な今のうちに調べておいた方が良い。何より、オリジナルの転職モニュメントは必要だ。この大陸のコピーモニュメントは全て300年以上前のものだからな。更新されている可能性があるなら、何としても入手したい」
「クーロンや他国へのけん制も兼ねて、ですかね」
「もちろんだ。しかしそれだけでは無い。いくつかの職業は、専門の3次職以上が無く行き詰まりを見せている者もいる」
「……神職系ですか?」
「聡いな」
女性なら巫女、男性なら神主から始まる神職系は、タリアを見れば分かる通り1次職、2次職では破格の性能を発揮できる。
クロノスでは王城で管理しているコピーモニュメントのみで転職でき、その人数は限られているもものの、大きな作戦時には陰ながら随伴し力を振るっていると聞く。
「会わせる事は出来ぬが、今回も同行している者がいる。封魔弾の供給で人数の目共の立った。最低でも3次職への転職、可能であればコピーの再作成。モニュメントの移転や街の確保はその次だ」
俺が伝えた情報から、現実的なところに落とし込んでいるな。
「むろん、それも装軌車両の能力を活かせたらの話ではあるがな。何事も安全第一だ。貴公の働きにも期待している」
「お任せを。言い出しっぺの役割は果たさせていただきます」
もともとの予定はエーデから西に向かうためのルートを再開拓し、装軌車両でモニュメントの在る都市の跡地まで一気に攻め込む予定だった。
王国騎士団が参加するのは当初の予定外であるが、作戦に大きな変更は無い。
「詳しい作戦は後に成るが、貴公らには先陣を切ってもらいたいと考えているのだが……構わないか?」
「一番槍の栄誉、謹んでお受けいたしましょう」
「うむ。よろしく頼む。……ところで、貴公らは空飛ぶ船を有していると聞いたのだが?」
「殿下っ」
「良いではないか」
「ははは、確かにボラケで開発した試作機を有しておりますが、今回の作戦では目立つため信頼のおけるところに置いて来ました」
「むぅ、それは残念」
「機会があればお見せします。最も、ボホール伯爵の所にある新造艦が王都に届く方が先となるでしょうが」
「そちらもあったな。しかし言質は取ったぞ? 楽しみにさせて貰おう」
ゴールドスタイン男爵から作戦会議の予定を聞き、その日の短い会談はお開きとなった。
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ザースの転職モニュメント奪還作戦が始まります。
職業
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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