第393話 タリアの旅立ち
レベル上げは順調に進み、ウォールに滞在していた狂信兵団および亡者たちの一部が合流して、タリアが旅立つ準備が整った。
「お姉さまの安全は私たちに任せてください!この身に替えてもお守りします!」
開拓村の拠点、受送陣を設置した小部屋に入ってくるそう意気込んだのは、神聖魔術師のリンメイ・ミン嬢。
続いてきたアルタイルさんが、後ろで苦笑いを浮かべている。
「ご両親が発狂するから、あんまり気負わないようにね」
彼女はホクレンの戦い初期に亡くなった軍の予備兵で、俺があっちで最初に目覚めさせた亡者である。
亡者としては最初からダンジョンのレベル上げに参加し、石切り村の防衛戦に参加後、アルタイルさん達と共にクロノスへとやって来ていた。
「弟も居ますし、お父さんもお母さんも、成人した私が縛る事はしたくありません。死んだ身でホクレンにも居づらいですから、皆さんとご一緒させてください」
クーロンで戦う事を決めた亡者も居る中、彼女はそう言ってアルタイルさんと共にシガルタ山脈を越えるグループに入ってここまで旅をしてきた。中々に肝が据わっている。
「メイちゃんが気負っても仕方にじゃない」
「……私たちもいる」
そう言って二人の女性が彼女の肩を叩く。
狩人で没20歳のチャーミー姉さん。小さいけど3人の中では最年長、没22歳で戦斧兵のベルさん。二人はウォール防衛線で亡くなった亡者。
ウォール戦で亡者になった女性は二人だけだったので、うちの亡者組のアイドル的存在だ。
「ちゃ~んと無事に帰って来るからぁ、そうしたら期待してるわよ」
「体裁が悪いのでしなだれかかるの控えてもらえません?」
チャーミー姉さんがこんな感じだから、うちの女性陣――生きている方――がしばき倒すのであまり出番がない。
今、タリアは外で他の亡者たちから熱烈な見送りを受けている――彼女は相変わらず亡者から人気がある――し、アーニャとバーバラさんはそれぞれ持ち出す物品の最終確認を行っていて、部屋には止める人間が居ない。
「まぁ、それはそれとして、お二人が名乗りを上げるのは驚きでした」
タリアの南大陸遠征に同行する亡者は全員で5人。
いざという時必須となる質量軽減が使えるアルタイルさん。うちの守りの要に成っているアル・シャインさん。ちょっと
ここにバノッサさんが加わって、タリアをリーダーとした7人が南大陸探索班だ。
リンメイ嬢は
俺とタリアを神聖視している雰囲気があって少し危なっかしい所もあるのだが、本人の希望とチャーミー、ベルの推薦もあっての参加だ。
「そう?」
「いつもタリアをウザがっていると思ってました」
「正直ねぇ」
そう言ってちょっと可笑しそうに肩をすくめた。
特にチャーミー姉さんが
……世間体も大きいけど。この人、なぜか薄着なんだよ。
『……ほっとけば乾いて朽ちていくだけのこの身体に、少しでも血色がよく見えるように色つきの保湿クリームを塗ってくれたのは彼女よ』
『……ぱさぱさに乾いて二度と延びることが無い私の髪に、油をしみこませて整えてくれたのもタリア』
二人は俺だけに真剣な表情を見せた。
『彼女のやさしさを、あたしたちは知ってる。もちろん、リンメイもね。本人には言わないけど』
『それに、女の子じゃないと困ることもある』
『どっちかっていうとそっちが本命よねぇ』
ちらりと視線を送ったのは、アルタイルさんと話すバノッサさんの方。
「悪い虫が付かないように見張っとくから、安心しなさい」
「……あ~……まぁ、そっちは心配してないんですけどね」
『あまい、甘いわよ』という彼女らに苦笑いを返す。
バノッサさんは亡者組とつながりが薄いから、なんとなくいきなり現れた若い男、くらいに思われているのは分からんでもない。コゴロウは外見はイケメンだが妻子持ちで、その上喋ると雰囲気がぶち壊しになるタイプだし。
しかし行先が南大陸だとすると、バノッサさんは向こうでかつての仲間とあった後の方が大変だろう。
集合知が更新されて
『南大陸でもしバノッサさんの仲間に有ったら注意してくださいね』
『竜殺しの英雄たちねぇ。誰が居るの?』
『おそらくアイリス・E・ドリトル。彼女に会いに行くのも一つの目的でしょう』
『ああ、噂の昔の恋人』
そうなのだ。
『違う。バノッサ・ホーキンスの恋人はバーナード』
『……ベルは相変わらずねぇ』
彼女は名実ともに腐女子である。
『本人に感づかれないようにしてくださいね』
『……もち』
竜殺しの英雄譚は、基本的に相棒であったバーナードを失ったバノッサさんが一人旅に出るところで終わる。
……どうでもいい話だ。
「おまたせ~。皆そろってる?」
話がそれかけた所で、タリアがアーニャとバーバラさんを伴って入って来る。
見送りと準備が終わったらしい。受送陣の準備も終わっているので、いよいよ出発意だ。
必要な荷物が運び込まれ、リンメイさんと共に
「受送陣の準備は出来ています。タリアが持った物も
受送陣は
受送陣のプレートを失えばそれは技術の流出になるし、今の技術では送信されることを防げない為、そのまま残れば
また、領主のスキルで人の受送は感知されてしまうので、都市では使うべきではない。村長なら魔物の出入りくらいしか感知できないので地方村なら問題無いが、町長レベルに成ると不明。どちらにせよ人目がある場所で使うのはリスクが高い。
まして、行先はどうなってるか分からない未開の迷宮だ。
「わ~ってるって。いまさらだし、
南大陸出身であるバノッサさんだけは軽い。
何処に出るかは集合知でもわからないし、現在住人がいない
「ほれ、さっさと行こうぜ。知らんかもしれんが、時差っていうのがあるんだ。向うは今冬の季節だし、場所によっては夜かも知れん」
「ええ、そうですね。それでは、行ってまいりますよ」
バノッサさんに促されて、アルタイルさんが受送陣から
つづいてチャーミーさん達とアル・シャインさん。起動していたバノッサさんがアーニャに送られて、最後はタリアの番だ。
「……それじゃあ、行ってくるわね」
「ああ……気負付けて。生水飲むなよ。冬は大丈夫だと思うけど、毒虫とか毒蛇とか魔物以外に怖いのも居るから注意な。それから……」
「心配性ね」
「……性分だ」
集合知でいらんことも知ってるせいだな。
情報だけあっても南大陸がどうなってるかなんてわからないし、目の届かない所に行くのは不安も募る。
なにせ
この世界に来て1年足らずで都市防衛に3回参加するのも異常だしな。
「私はワタルたちの方が心配よ。できるだけ早く戻れるように頑張るけど……無茶はし過ぎないでね」
「ほどほどにしとくよ」
タリアの手が、一瞬だけ俺の頬に触れる。
別に今生の別れじゃないし、なりふり構わないならほぼ確実な安全が確保できている。これは感傷だな。
受送陣を起動して、手を振る彼女を見送った。
旅立ちはあっという間だ。
「……さて、俺達も出発しようか」
今日は飛行船でボホール行き。
ジェネ―ルさんを始めとした関係者を送り、ザース出立前最後の買い出し兼、関係各所へのあいさつ回り。
ここでの仕事も大詰めだ。
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亡者の女性陣の設定だけはあったのですが、余りに余談すぎて書くタイミングがありませんでしたので初登場。リンメイ嬢も石切り村でのシーンがカットされたので実質初登場ですね。
名前だけ出たバノッサさんの仲間に登場機会は与えられるかは、今後の気分次第です。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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