第395話 進軍開始
『諸君!時は来た!我々は300年の時をさかのぼり、この地より西へ!いざ、忌まわしき歴史の清算のために!進軍、開始するっ!』
ミハイル王子の号令と共に装軌車両が起動し、ザースへの遠征が始まった。
先頭を狩るのは我らがアース狂信兵団の命知らず2車輛。続いて今はアーニャが操縦する俺たちのメルカバーMK-3と、もう一機。
その後ろにはクロノス王国が誇るゴーレム騎兵10機、続いて王国の装軌車両半数が続き、またゴーレム騎兵、殿下の乗る車輛、騎兵、さらにしんがりの装軌車両とゴーレム騎兵隊といった具合で、2列一団が山の街道へと進んでいく。
王国騎士団の装軌車両はトータル20台。殿下が乗る1台を除くと、残りの車両には6人~8人が乗り込んでいる。
ゴーレム騎兵は50機。1機につき1名の騎士が跨り、即応態勢で周囲を警戒。
ここに俺達
『ずいぶん気合が入っているようであるが、クロノスはザースに何か因縁があるのであるか?』
殿下とその周りはずいぶん気合が入っているが、こちらはいつもの調子である。
『あ、あたしも思った。騎士の兄さんたちがずいぶん気合入れてたけど』
『……歴史の基礎』
『コゴロウはともかく、アーニャは孤児院で王国史のさわりくらいは寝物語でも聞かなかったのですか?』
『あたし、寝つきは良い方なんだ』
『まぁ……クロノス王国はザースからの流民が作った国だからね。エーデから西に向かうこのルートは、今の王家が使った経路と言われている。クロノスの民がザースから逃れてきた理由はいくつかの要因が重なってだけど、ザースは典型的な人間族の国だったから、そこが原因かな』
神が魔王討伐を掲げてから数百年経っているので、種族間の争いが表立って行われるような時代では無かったはずだが、それでも軋轢が無かったかと言えば嘘になるだろう。
ザースの崩壊は一朝一夕で起こったわけでは無い。魔物たちに的確に切り崩され、気づいたら後戻りできない状態になっていた。その中で最初に国を出たのが当時最下層民であった獣人たちであり、最後までしがみついたのが人間だったというだけだ。
『国を捨てたクロノスの民にも思うところが無かったわけじゃない。クロノス建国はザース崩壊より前だしね。自らの国を守らず逃げた民の生き残り、なんて言われてたから、歴史的に見てクロノスとクーロンは中が悪い。そして王家もいまだにそれを気にしているから、今回の作戦に出兵を決めたって所だろうね』
ザース崩壊とクロノスの建国、それにかかわるタリアの立ち位置は分からない事が多い。
なにせ300年前の戦乱期の話で記録が禄に残っていない。エルダーを始めとするん
雑談を交えながらも山道を進む。
この周囲は製鉄を行うため森を切り開いていて、周囲のほどんどは岩肌がむき出しになっている。
麓から山を抜けるまでのルートおよそ30キロ以上、整備していなければこうして装軌車両で進むことは出来なかっただろう。
『そう言えばバーバラさん、第三王子には会ったことあった?』
『いえ、先日ワタルさんの付き添いの時に初めてお目にかかりましたが……それが何か?』
『そっか。いや、それなら良いんだけど……俺が会ったの、ほんとに第三王子だったのかなぁと思って』
『……影ですか?』
『そう。王子のスキルは発動点中心を任意に設定できるから、本人が居る場所を始点にする意味は無いからね。あの王子が王子であったかはちょっと気になって』
何せ不用心じゃないか。
『それなら、ステータス見せてもらえばよかったんじゃね?』
『いくら何でも不敬なのよ。まぁ、彼自体が王子かはあんまり問題じゃないんだけどさ。ゴーレム騎兵の後ろに殿下の使用人たちが乗る装軌車両が1台あるだろ。目立つ殿下の車両とは結構離れていて、さらに言えばだれが乗ってるか不明。各車両の隊長は集会に参加してたんだけど、あの車両だけは居なかった』
『ふむ。なかなかに怪しいのであるな』
『俺も部隊の全容を聞いてるわけじゃないから何ともだけど、聞いていない守らなきゃならない相手がいると面倒だなぁってね。殿下が乗って無くても、真偽官とかの重要な非戦闘職は居そうなんだよね』
『ん~……でも王子って国の偉い人だろ?それなら後ろの守りの厚い所にいるんじゃないのか?』
『それも考え方次第なんだけど、今回みたいに行軍すると、敵は基本的に後ろから来る。後方の方に兵力やゴーレム騎兵が多いのはそのため』
ゴーレム騎兵は、搭乗者のMPを消費して動く騎乗兵器。見た目は石膏の大型馬であるが、馬と違ってMPが続く限り疲れなく動き、さらに防御力も高い。問題はMPの消費量の高さであり、移動速度を上げるほど消費が大きくなる。通常の行軍ではその能力を活かせないのだが、今回は交代要員がすべて装軌車両に随伴しているため、搭乗者のMPが減ったら後退すればよい。
この50機のゴーレム騎兵が奇襲に備えた即応戦力であり、5機から10機をひとまとまりとして集団の前後に重点的に配置されている。
『どうして後ろから?』
『前から攻めたら、私たちは戻って街に引きこもればいいからですね』
『そう言う事。単発の魔物ならともかく、まともにこの集団に喧嘩を売ろうって相手ならまず間違いなく後ろから突っつく。何せこっから先は逃げ込める人里が無い』
ついでにこの街道はわき道も無いので、進んで逃げたら隠れるところはまずない。
そんな攻め時のルートで、わざわざセオリーを外す意味は無いだろう。
『その上での完全包囲が魔物がとる作戦。俺達は進行方向の敵に突撃玉砕する露払い。包囲されなければ、2次職以上が占めるこの部隊は逃げるだけなら何とかなる』
前衛2次職ならひと二人担いでも
人類には
『あたしたちは突撃兵かよ』
『なに、全部倒してしまっても構わんのだよ』
『……それでやる気が出るのはワタルさんくらいですよ』
『失敬な。先を行ってるやつらの方が血の気が多いぞ』
狂信兵団のメンバーで今回の作戦に参加したのは、本気で命知らずの野郎どもだからなぁ。
死んだらしっかり死体も使ってくれと念を押してきた奴が少なからずいるのが怖い。怨念が籠ってそうだから死なないでほしい。
『まぁ、こういう一ルートの行軍は危険だから道を予め広げたし、それ以外の対策もしっかり打つから、俺達が心配する事じゃないかもしれないけどね。そろそろかな』
街から十分に離れ、エーデ伯爵のスキル範囲内から外れた所で王子のスキルが効果を発揮する。
『これ……スキル使ってないのに
『索敵スキルの感覚共有。この部隊を中心として、周囲1.5キロくらいの範囲が、全員手に取るようにわかる』
範囲が予想より少し早い。
3次職後半か、もしくは
『この範囲は見事であるな』
『ですね。それに
始めっから飛ばしているという気もするが、それだけ警戒してだろう。魔物に襲われるとしたら山を越えるまでだ。
『分かる範囲に強力な魔物の反応は無し。十数Gとかのは居るけど、これはゴーレム騎兵が問題無く処理するでしょう』
もう少し強いのも居るけど、頭が働くのは寄ってこない。
それなりに斜度の在る山道をゆっくり進む。ゆっくりと言っても人が歩くのより3倍以上速いから、このままのペースなら昼前には向こう側が見えるはずだけど……。
『
暫く進んだところで、先頭車両から念話が入る。
鷹の目で視界を共有しているから分かる。道の先、左側の切り立った山肌が欠け、上の方がせり出すような形状に成っている。何かあったら崩れそうだな。
『了解。こっちも見えてるから、対処しちゃう』
『吹き飛ばしますか?』
『そんな危ないことしないから』
やることは開拓村周辺の道を整備した時と同じ。高い所から取って、低い所を埋める。
「
ちょっと遠いが、すでに魔術の範囲内。
発動と同時に岩肌に人形が形成されて……おお!?
掴めなかった岩の塊が真っ逆さまに下へと落ちてはじけた。
『っ!何事ですか!?』
轟いた轟音に、今度は後ろから念話が飛ぶ。
『
こういう岩肌むき出しの山岳地帯で、岩に擬態して落ちてくる魔物。
索敵に対する隠密能力は高いが、能力はそこまで高くない。落ちた際の打ちどころが悪かったのか、すでにドロップ品に変わっている。
『……まぁ、みんな気を抜かずに行こうか』
『……了解』『了解です!』
アーニャの呆れたような回答と、前からの元気のよい返答が重なる。
他に敵も居ないし、結果オーライで良いじゃないか。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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