第135話 人材確保の悪だくみ
「と、いうわけで人手が足りてません。あてはありませんかね?」
コーウェンさんの治療をした翌日、経過の観察を兼ねて朝から人手不足を相談に来ていた。
「お前さんもまた難儀だな。俺は顔役の仕事を引き継がなきゃなんねぇし、パッと出る心当たりは多くねぇぞ」
「手伝いが増えるだけでもありがたいですよ。特に、グレイビアード孤児院の面倒を見るのと、診療所を掛け持ちしているリタさん、子供たちの相手をしているバーバラさんが過負荷なので、その二人を手助けできる信頼できる女性が2~3人。それから、俺の商会を面倒見てくれる商人が一人。最低これだけです」
孤児院はもともと年齢が上の子供たちが下の子供たちの面倒を見ることで回っていた。
今はグレイビアードは全員、エイダールは3割ほどが、アース健康増進軒の手伝いをしたり、2回で勉強や遊びに精を出したりしている。
グットマンさんのところは小さな子供もいて、そちらの面倒は彼女に任せきりだ。うちは小学校低学年くらいの子供の面倒を見る代わりに、高学年から成人までの数人を借りている状況。その小さいほうの子供たちの面倒を一手に引き受けているのがバーバラさんで、最近ストレスで顔色がよろしくない。
「もともと孤児院は予算不足で人手が足りなかったからなぁ。金があれば人では集められると思うが」
「俺がいる間は、金銭面ではそう問題は無いです。報奨金もありますし。日当70Gくらいで行けません?」
店の護衛のアルバイト冒険者よりちょっと休め。職業不問の一般職ならこんなもんだろう。
「それならパーンズのかみさんにまとめてもらうか」
「パーンズさんですか?」
「お前がやってる店の1軒隣、パン屋のかみさんだよ。あそこは旦那のパーンズがパンを焼いて、昼間かみさんが店番してる。子供は3人居たはずだが、今は家を出てるはずだ」
「ああ、パン屋の女将さん。それなら顔見知りですよ。うちの店のパンはあそこから買ってますし」
「なら話は早いな。今日にでも話に行ってみるか」
「店の仕事があるのでは?」
「外で働いて稼いだ金で若いのを雇えばいい。この辺のやつは、いい仕事があれば皆そうする」
「なるほど」
稼ぎは多い方に越したことは無い、という事だろう。長期雇用できるかは分からんが、その辺の判断は当人たちに任せよう。
「しかし商会の話は心当たりがないぞ。2年あれば人も動くし、俺がそんな期間くすぶってるやつに任せる話でもないだろう」
「そうですね。品数が多いので、それなりにヤリ手じゃないと厳しいと思います」
「そうなって来るとな……新人ならともかく、それなりに実績があるやつは自分の商売をしたがる。商品を扱うなら喜んで商談に応じるだろうが、やとわれの代理人に成ろう、なんて奴はそうそう居ないだろう」
俺が王都を離れた後はほぼ実権を握ることに成るのがだ、そんな話は信じられないだろうしなぁ。
・・・・・・ただ、実は一人いるんだよね。それなりに大きな商会を率いていた実績があって、現時点で働いてない輩がさ。
「……つかぬことを聞きますが、ドーレさんってどう思います?」
「どう思うって……いやまて正気か?」
「私はいつも狂ってるようなもんでしょう」
「いや、確かにそうだが……そうじゃねぇよ。ドーレ商会を潰したのはあんただろうに」
「別に商会を潰したかったわけじゃ無いですよ。勝手につぶれただけです」
ドーレさんは行政処分を受けてメインだった不動産取扱、貸金業の王都での営業許可をはく奪。それに罰金で首が回らなくなり、事実上商会は解散。自身の資産も没収されており、評判の悪い王都での再起は厳しい状態だ。
「ちょっと業種が違いますけど、今ならドーレ商会の人材もまとめて雇えるんじゃないかと思うんですよ。男爵に頼めば真偽官に渡りをつけてもらって事前聴取も出来ますし、ただで商会が丸ッと手に入ります」
「……お前は悪魔か何かか?」
「え、むしろ破産したドーレさんに再起の道を示すのだから天使的な何かでは?」
「……俺は知らん。確かにあそこの人材なら申し分ないが、しかしギルドはともかく、取引してくれる照会があるか?ここでの評判も悪いぞ」
「悪い犯罪組織に騙されていただけって事にして、慈善事業頑張ってもらいましょうか。商材はそれなりに価値があるはずですし。それに、俺の評判は?」
「金払いが良くて少々強引な面白い男、らしいな」
「悪くないですね。それでドーレさんの悪評を上書きすれば行けるんじゃないですかね。俺が商会立ち上げると、必然的にアインス男爵家が後援に成るので、後ろ盾もばっちり。彼が頭でないなら、彼自身に掛けられた行政処分も避けられるものが殆どなはず」
「……商人ギルドは商会の乗っ取りじゃないかとクレームを入れてきそうだが……根回しをすれば行けなくはないか。だが、一番は当人しだいだぞ」
「選択肢が無いので、どっちかって言うと回り次第だと思いますよ。自宅軟禁されている間に、男爵とギルドに話を通しますか。外堀埋められてても気が乗らないなら、別に人材を探せばいい」
「やっぱお前さん悪魔だろ。……まあ、そうだな。馬鹿な男に話を持って行くくらいはしてもいいだろう」
「して、彼の商人としての才は?」
「……才人というほどでも無いが、凡人でもない。基本的には安定志向だな。金貸しとしての評判は良い方だ。だから顔役をゆずった。善人じゃねぇが、大層な悪さをするタイプでもねない。よそ者に甘いと顔役としての評判は良くなかったが、ざっと引き継いだ限り、仕事はちゃんとしていた」
「自分の仕事はちゃんとやりつつ、ミラージュの活動に目をつぶっておいしい所だけいただこう、という魂胆だったんでしょうねぇ」
「バカな話だ。まぁ、そんな分けで、一通り仕事の出来る男ではある」
「それなら問題ありません。ちょっと男爵に相談してみます」
ドーレさんが使えるなら使おう。
アインス男爵は王都から追放を想定していたが、今回のケースで根拠となる法律は無いはずだ。単に雇うやつが居ないからそうなるだろう、という話してあって、俺が雇うなら何も問題は無い。
「それじゃあ、増進軒の人員増強の話を先に片付けましょう」
「ん、じゃあちょっくら支度すっからまっとれ。今日は私道の整備資材の買い付け商談があるから、ましなかっこせにゃならん」
「そう言えば、家はこのままなんですか?」
「余裕が出たら引っ越すさ。今はドーレの屋敷の仕事部屋をそのまま使ってる状態だが、あそこも売られるだろうからな」
「ドーレさん、自宅軟禁じゃなくて自室軟禁なんですね」
「人さらいとつるんでたなんざ、普通は縛り首でもおかしくねぇよ」
クロノスが法治国家でよかったよかった。
まあ、ミラージュはそう言うところも見越して計画を持ち掛けているんだろうけど。
その後、コーウェンさんを連れ立ってパン屋の女将さんこと、レジーナさんを訪ねた。
孤児院と増進軒の手伝いは快く引き受けてくれた。日当も良いので向いていそうな人に声をかけてくれるらしい。2~3日あれば十分とのこと。
これで料理は孤児院の14~13歳組とアルバイト、子供たちの面倒を見るのはレジーナさんを始めとした主婦組で回せる形になるだろう。
診療の方はリタさん任せだけれど、孤児院の仕事が減る分、多少負担軽減に成るだろう。
さて、次は商会の手続きだ。
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