第134話 3人目と約束
「それで態々連れてきたのね」
「タリア姉さん、すまねぇ」
アンナの願いを受けて、他称弟であるウェインを探すと決めた俺は、タリアと相談するため自宅にアンナを招いていた。
「ワタルが連れてきたって事は共犯にするつもりでしょ。私は特に口を挟むつもりは無いけど、とりあえず、夕飯は二人分しか準備してないわよ?」
「……ストック出そうか。大皿に盛って分けて食べよう」
「いや、夕飯の話とかじゃなくね!?」
ご飯は大事だぞ。腹が減っては何もできぬ。
「とりあえず食べながら話しましょう。解呪は?」
「お願い。その後にすぐサーチかける」
「了解」
タリアが家全体に
特に気に成る点が無ければ、部屋全体に小音化を掛けて密談ルームの完成。重要な話をする際は、人に聞かれないよういつもこうして警戒をしている。
これでも3次職のスキルを使われると対処が難しいが、今クロノスで俺にその人材を割くほど警戒されてはいないだろう。
「うめぇ!なんだこれ!地下でもらった飯も旨かったがこっちはもっとうめぇ!」
「あの頃はまだ料理を始めたばかりだったからなぁ」
今日の夕食はチキンクリームシチューとかき揚げ風野菜のフライ、タルタルソース添え。農家さんにお願いして、ようやく定期的にミルクが手に入るようになったのだ。
それに
・・・・・・と思ったけどワインを出す気配がないな。
「さすがに私もまじめな話をする時くらいは呑まないわよ」
どうやら思考は読まれたようだ。
とりあえずアンナが落ち着かないので、しばらくは食事を勧める。
うむ。美味しい。次はビーフシチューも作りたいが、デミグラスソースはどうやってつくるんだろう?
普通のウスターソースとかも欲しいんだよなぁ。似たようなものはこの世界にも在るけど、ちょっと違うっポイ。パッケージに書かれた絵は思い出せるのだが、製法が分からない。全部ぶち込んで煮れば行けるかな?
「……飯の話は良いんだよ」
「……ツッコミが口に出てるわよ。また思考が明後日の方に飛んでたのね」
タリアにあきれられてしまった。錬金術師のスキルを試行錯誤するようになってから独り言がさらに増えているらしい。気を付けないと。
「それで、アンナをわざわざ連れてきたって事は、共犯にしようって根端?」
「まあ、そういう事だね。アンナ、ステータス見せて」
「ん、ああ。ほい」
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名前:アンナ
状態:健康(14)
職業:-
レベル:-
HP:9
MP:9
STR:8
VIT:7
INT:9
DEX:18
AGI:13
素質:騎士適性、盗賊適正、商人適性、裁縫師適性、賭博師適性、軽業適性、目利き適性、観察眼適性、警戒適性、風魔術適正、無属性魔術適正
スキル:なし
魔術:なし
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「……なかなか変わった素質ね」
「素質の数と種類もだけど、まず素のDEXとAGIの高さがおかしい」
DEXは常人より8割高い。生産系一般職の中堅くらいはある。
AGIも13、これだけで普通の人よりだいぶ素早い。アンナがミラージュの手先に捕まらなかったのはこの辺のステータスが有効に働いたからだろう。
「加えて珍しい騎士適性と盗賊適正の合わせ持ちですよ」
「珍しいの?」
「
スッとアンナが目をそらす。
「と、いうわけさ」
「私たちは何も見てない、聞いてない。って事ね」
理解が早くて助かる。
「まぁ、そんなわけでこの際巻き込まれてもらおうとね」
ステータスを見るまでどうしようか迷っていたけど、この際がっつりかかわってもらおう。
「……なんだよ、共犯って」
「さすがに皆には話してなかったけど、俺の本当の目的はただ一つ。魔王を倒す事」
「は?」
「私の目的は、魔物にされた私の家族を取り戻す事」
「タリア姉さん?」
「俺たちは互いに、おいそれと人に伝えられない目的を達するために協力している」
俺の故郷、魔王の討伐とその影響、タリアの生まれ、隷属紋や今も魔物として捕まっている家族。
そう言ったもろもろの話を、かいつまんで話す。
「……つまり、タリアさんは家族を取り戻すためにワタルを頼っている。ワタルは魔王を倒して故郷に帰るために、皆の力を借りようとしているって事か」
「そういう事。物分かりが良くて助かるよ」
「……馬鹿にすんな」
「そこで選択肢は2つある。魔王討伐、タリアの家族を取り戻す戦いに力を貸すか否か」
「……貸さないっていう選択肢は在るのかよ」
「あるさ。少なくとも俺はある程度は面倒見るつもりで居る。……まぁ、法が許す範疇ではね」
クロノスでは奴隷売買は禁止されているが、そう言う国は多くない。むしろクロノスの方が異例だ。
ウェイン少年を連れ去った人買いらしき人物が、本当にクーロンの出身かは分からんが、クーロンは奴隷売買が合法的に行われている国である。人さらいに近い今回のケースは、クロノスではもちろん違法であるが、国外の事件に法が適用されることなど皆無と言っていい。
クーロンに連れて行かれたウェインは、あっちでは合法的な奴隷として売買されている可能性がある。
「タリアの家族もそうだ。ここ十数年で倒されていた、なんて事になると、奴隷として売られてしまっている可能性はある。合法的に買い戻せれば穏当だが、そうではない可能性も当然存在するよな」
この辺りはタリアとも相談済みだ。すでに覚悟は決まっている。
「……あたしは……ウェインに会いたい。あいつがつらい目にあっているようだったら、助けたい。……いや、助ける。どんな手を使ってでも必ず助ける」
俺たちの言っている意味が伝わったのだろう。察しのいい子だ。
「……うん。良い覚悟だ」
「あたしに出来ることが有るか分かんねぇけど、手を貸すよ。タリアさんの家族を助けるのも、ワタルが魔王を倒すのも、やるってならトコトンつきあう」
「なら、約束だ。俺はタリアの家族を取り戻し、アンナの弟を助け出すことに力を貸そう」
「私はワタルが魔王を倒し、アンナが弟を取り戻す手助けをするわ」
「あたしは……タリア姉さんの家族を見つけ出し、ワタルが魔王を倒すのを手伝うぜ」
3人でお茶の入ったゴブレットを打ち鳴らす。
「……お茶じゃ閉まらないわね。ワイン開けましょうか」
「結局吞むんじゃないか」
「あたし、まだ酒は飲んだこと無いよ」
「あら珍しい、おいしいわよ?」
「未成年……の飲酒がダメという法律は無いんだよなぁ」
慣例的に呑ませないことが多いだけで、そんな細かな風習まで法律で決まって居たりしない。
新年の祝いの際には、子供でも酒精の低いワインを飲むことが多い。
「……あ、そうだ。ワタル、タリア姉さん」
しばらく双方の身の上を与太話を交えてしていると、アンナが重い改まったように切り出した。
「あたしの事、アーニャで良い。親しい奴はみんなそう呼ぶから」
アンナ、改めアーニャのセリフに、俺とタリアは顔を見合わせたのだった。
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