第167話 亡骸たちの目覚め
縮地で飛び込んだグランドさんを避けるように、カマソッツたちが一斉に散開して飛び上がる。
曲がりなりにも翼をもつ魔物だ。
しかし人型の魔物が動ける速度などたかが知れている。
「「「まずは小手調べですよ」」」
3体のカマソッツが滑空しながらこちらに飛来する。
手には詠唱中の魔術。おそらく
「温い!」
「ひゃはっ!馬鹿ですね!自分からつっこぬ?」
振りぬいた剣はカマソッツを頭から尻まで両断して、その肉体を崩壊させた。
炸裂したのは
「落ちてろ!」
「ぎゅぇ!?」
急降下してその頭に剣を突き立てる。これで二体。
「やりますねぇ!さすがはディアボロスの腕を切り落とした剣です!」
確かに俺の剣には今、72重の切れ味強化がかかったままに成っている。
たが、これはその恩恵ではない。魔術師タイプのカマソッツの耐久が弱すぎるのだ。
「「まだまだ増えますよ!」」
「うっとおしい!ビット!」
「「む!ぐあぁ!」」
4体のビットが
落ちてきた2体のカマソッツは、
グランドさんの方には10体以上行っている。こっちは……おっと、遠距離からの狙撃か?
撃ってきているのは
「
敵の足元に生み出されたのは、30センチほどの小さな土人形9体。そこから上空のカマソッツに向かって8本の
何発か直撃して2体が撃沈。これで4体。
「ビット!」
4機のビットが加速して、はずれに集団のはずれに居る1体を吹き飛ばす。
位置取りは……もうちょっと!よし!
『グランドさん!一瞬こっちへ!』
「荒ぶる風の神よ!天に轟く雷神よ!二柱の
「
「見え透いてるんですよぉ!が!?」
広範囲に雷撃の雨が降り注ぎ、宙に浮いていたカマソッツを襲う。
術は見破っていても威力はそうでは無かろう。
防御に損ねて4体が炭に成る。残りもそれなりにダメージを受けたようだ。しかし防御で防がれたものも多い。
『飛び回られると厄介です。倒し切らずに羽根だけ落としてほしいのですが、できますか?』
『わかった。気づかれないようにやってみる』
グランドさんは縮地で立ち位置を変えると、剣撃を飛ばすスキルでカマソッツの羽を切り飛ばす。
こっちも地面に落ちたカマソッツに追撃。1体を切り伏せて、もう一体に
「無駄ですよ!増える方が速いんですよぉ!」
降り注ぐ
仕返しに
「ふよふよと飛んでるのも居ますねぇ!」
「ちっ!」
ビットを狙い始めやがったか。速度は負けてないが、数が多い!
自在に飛び回れるため攻撃はほとんど当たらないが、狙われているとこちらも攻撃に回れない。
先に飛んでるやつを落とすか。
「
背負っているランドセルを変更、瞬発力のある足の動きで跳ね上がる。
即座に
「バカナ!?」
すくい上げるように逆袈裟切りで両断。
たこ足で周囲にいる三体を地上へと引き釣り卸す。落ちながら1体の羽を切り落としてから、自分は念動力で緩やかに着地。
「むだむだむだぁ!」
倒したそばから増殖するカマソッツ。ほんとにうざいな。
倒す速度より増える速度の方が速いし、逆にだからこそ相手も防御なんて考えずに戦っている。だから倒しやすい。
32体で消費より自然回復を増やして、押し切るつもりなのだろう。だからターゲットを二人に絞って他を遠ざけたし、MP消費の小さな魔術しか使ってこない。
カマソッツの魔術を避けながら迎撃を行い、飛んでるやつを減らしていく。
残りは……あれか。
「
おそらく魔力反応を見ているから、向きや視線を隠すぐらいの意味しか無いが……。
『飛んでるの残り1です!防御と着地はこっちでやります、いけますか?』
『わかった!飛ぶぞ!』
「すべての根源たる大いなる
立ち込める煙を切り割いて、グランドさんが縮地によって飛び上がる。
2つの影が交錯し、カマソッツの片翼を切り落とした。これで全部。
「「「飛ぶとは愚かなり!」」」
空中に身体を躍らせるターゲットに、魔力の槍が殺到するが。
「
詠唱で生み出した全方位の障壁がそのすべてを防ぎきる。
そのまま落ちてくるグランドさんを念動力で受け止めて準備完了。そろそろ相手もこっちの思惑に気づくかな?
『中々に芸達者だな』
『まだまだ余裕が、む!』
響く爆音。炸裂するタイプの魔術にあおられてビットがバランスを崩し、そこに追撃を受けて崩壊する。
「つかまえましたよぉ!」
更にもう一機がカマソッツに捕まった。
「珍しいツールですねぇ?人形ですかぁー?これ、取り込んだらどのくらいの価値に」
「
カマソッツが捕まえたビットが爆発し、掴んでいた一体を消し炭に変えた。
人形一つを犠牲にする代わりに、
「いい加減飽き飽きして来たな」
「こちらもですよぉ!なかなかしぶといですね」
「翼を落として」「飛べなくしたようですが」「無駄なんですよぉ」
「一人でしゃべれ。うっとおしい」
「魔物の翼ですよ!別にこれで飛んでるわけじゃ無い。まぁ、あったほうが自由が利きますけどねぇ。でも浮くくらいら支障は無いんですよぉ。それだけであなたたちの攻撃の何割かは届かなくなるっ!勝ち目何て無いんですよぉ。あなたたちは私を倒し切れないんですから!」
分かっている事をペラペラと。その自由に飛べない状況がどういうことに成るかも知らずに。
『実際どうする?
『もう準備は終わりました。アレが馬鹿なら後は俺が片付けます。少しあがくようなら、とどめをお願いします』
俺はグランドさんの前に立つ。
戦いってのは相性だ。1次職まではステータスと使いやすいスキルの組み合わせが限られるからレベルと価値が紐づくが、2次職以降はそうも言えない。
能力を攻撃に振れば相対的に防御が劣るし、防御に振れば攻撃や速度が落ちる。
カマソッツは数に振った。
その判断は大きく間違ってはいない。確かにグランドさんに負けないという点に置いては、良い選択肢だろう。
こいつが間違ったのは、俺が“なんであるか”を考慮しなかったことだ。
「なぁ、カマソッツ。気づいているか?」
「何がですか?」
「お前の足元で倒れてるのは、お前たちが殺した人間だ」
ここは戦場だ。綺麗な原っぱじゃあない。
こいつが打ち込んだと思われる上級魔術で、100人以上の人間が死んだ。その亡骸たちが、当時の巣タガのまま今も周囲にあふれている。
「?……何を言っているのです?あなたもこのゴミ共の仲間入りをするというのに……ああ、怒りですか?弔いですか?人間は不思議てすねぇ。そんなことしても、何の価値も無いというのニッ!?」
そう言うカマソッツの胸から、1本の槍が生えていた。
半ばでおられたその槍は、つい今しがた、カマソッツが跨いで通った遺体の所持品。
「ナニガ!?」
倒れていた遺体たちが、ゆっくりと動き出す。
「ばかな!詠唱破棄できない魔術師風情がどうやって!」
俺が2次職としてはレベルが低い事には気づいていたのだろう。
強力な術は詠唱が必要だ。だから速度で十分対応できると考えて、注意を向けていなかった。
「……カマソッツ。お前何体殺されたよ?」
大亀への2回の攻撃、鉄クズリや
……レベルは既に30を超えている。
「
「そして……
驚愕の表情を浮かべるカマソッツたちに、亡者の群れが襲い掛かった。
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□雑記
群体は自分(またはそれより弱い)コピーを作りだすスキルです。
作られるコピーの能力はスキルレベルに依存し、自分と同等のコピーも作成できますが、HPやMPが減って居たり、部位破壊(欠損)がある場合、その状態からのコピーしか作成できません。
自分より弱い個体のコピーを作成した場合、そいつが群体スキルを有していても親が倒されると弱い個体からしかコピーが作れない為、弱体化していきます。
なのでカマソッツは自分自身と同能力のコピーを作れる限界数32体で戦っていました。
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