第166話 共食い
空間の壁をぶち抜いて引き裂かれた狭間に、大気と大地が飲み込まれて渦となる。
そしてその断裂が消えたその瞬間、今度は亜空間に圧縮されていた質量が一気に解放され、爆発となって辺りを吹き飛ばす。
魔術ならおそらく伝説級と呼ばれる3次職後半のスキル。
エリュマントスの
おおおおおっ~~~~フェイスレスぅ~っ!
余波で発生した衝撃波によって、間近にいたフェイスレスが吹き飛ばされて転がる。っ!操作が途切れた!
近くに人が居たらその余波だけで死ぬぞっ!
立ち込める砂塵。周囲が煙に覆われていて視界が確保できない。
ビットは何とか無事。
不意打ちを受けるリスクを考えて
「……これが伝説級とされるスキルの威力か」
タイミング的にはディアボロスを吹き飛ばした直後。
場合によってはあいつも破壊の渦に巻き込まれただろうが……。
「感心してるのは早いです。
舞い上がる砂塵を強風で晴らすと、掘外の状況が見えてきた。
地面には波紋のような文様が刻まれていて、グランドさんの居る周囲はそれとは別に放射状に吹き飛んでいる。
基本的には前方に向かって斬撃で破壊するスキルだが、余波が大きくて発動点周囲に被害が出るタイプだな。
「おおおお、俺の斧がっ!」
スキルの威力に耐え兼ねたのか、戦斧の持ち手から先が吹き飛んで消えている。
グランドさん事態もダメージを受けているな。
ビットから
強風て砂塵を吹き飛ばしたおかげで、すぐに視界が晴れていく。
魔力反応も戻りつつある。この反応は……。
「おのれ……おのれおのれぇぇぇっ!!」
しぶとい。2体ともまだしっかり生きてやがる。
叫んでいるのはカマソッツの野郎か。あの威力のスキルの直撃を受けて平気なタイプとは思えないから、何かしらの身代わりスキルを使ったのだろう。
「……カ……カマ、ソッツ……」
ディアボロスは瀕死か。腕と足の部位破壊に全身ダメージが乗っている状態だろう。
「しぶてぇ……だが逃がさねぇぜ」
グランドさんの
俺たちが戦っている数分の間に、けが人の退避や隊列の立て直しも進んでいる。易々と逃がす布陣ではない。
「逃げる!?ここまでコケにされて逃げる!ひゃははははっ!ありえない、ありえないんですよぉ!ねぇ、司令官!」
「ぐっ!カマソッツ……手が……あるというのか」
カマソッツは近くに倒れていたディアボロスに肩を貸す。どおする?ちゃっちゃと仕掛けたほうが安全だが、逃亡の可能性を考えると包囲してからの方が……。
「ええ、はじめっからこうすれば良いんですよぉ!」
その瞬間、カマソッツの右腕がディアボロスの胸を貫いた。
「なっ!キサマ!」
「もらいますよぉ!貴方の価値を!」
「
「飛翔刃!」
早さと距離を兼ね備えた攻撃が一斉にカマソッツを襲うが……。
「遅いんですよぉ!
その瞬間、カマソッツを中心に鏡面壁が一気に広がる。それは俺と突き抜けて巨大なドームを作り上げ……。
そして静寂が訪れた。
「こいつは……」
周囲を見回すとイッシンさんがいない。いや、むしろ俺とグランドさん以外誰も居ないというべきか。
遥か彼方、100メートル以上遠方に人影が見える。
……隔離された!?
「素晴らしいでしょう!外部からの侵入を阻害する結界!かつての私では、ここまで大きい物は晴れませんでしたよぉ」
周囲にいた兵士たちを結界の外に押しのけて、俺たち二人だけを仲にとどめたのか。
ポータル・プリズン……名前からして空間干渉系のの結界か。
「私を取り囲んでいた数百人を相手にするのはめんどくさいですからねぇ。まずは、私を一度殺したキサマ、そして、人の顔をタコ殴りにしてくださったそこの人形遣い、二人を特別になぶり殺しにしてあげますよぉ」
なるほど。
「多勢に無勢、数に恐れをなして結界を張ったか。蝙蝠かと思ったがチキンだったとはな」
「なんとでも言うが良い。ここには助け何て来ませんからね」
余裕ぶりやがって。
目の前のカマソッツから感じる魔力はそう大きくなっちゃいない。ディアボロスを取り込んだ際、ステータスよりもスキルを優先して取得したな?
「グランドさん、いけますか?」
それなら余裕ぶっこいている間に、こっちは準備させてもらおう。
「身体は問題無いが武器が逝っちまった」
「これを。ないよりマシです」
いましがた一時付与で耐久力強化多重掛けした予備の剣。
ステータス参照装備では無いが、無いよりはましだろう。
「すまん……良い剣だが、全力では震えんか」
空を切る音が大きく響く。
三次職が全力で震える武器何てそうそう……あるな。
「あとでいい物をお貸しするので、しばらくはそれで我慢してください」
出来るだけ小さな声で、口元を隠して伝える。
「ん、ああ。わかった」
さて、ビットは問題ない。MPもディアボロスから吸ったおかげで潤沢にある。
フェイスレスは……酷いな。駆動機構はほぼ死んでる。人型の鉄塊なので
背負った
「それじゃあ、蝙蝠男狩りと行きましょうか」
「そうだな。向うも逃げられねぇなら狩るだけだ」
「……ムカつきますねぇ。その余裕しゃくしゃくと言った表情。これを見てもそのままでいられますか?」
そう言うとカマソッツは片手を掲げて。
……姿がブレた。
「こいつはっ!」
空間に走った一瞬のノイズ。次の瞬間、カマソッツは2体に。また次の瞬間、今度は4体に。8体に。16体に。最終的には32体に。
「群棲?……いや、群体か」
「のんのん。これは一体一体が私自身。いうなれば分身ですよ」
……練度の差だけで、分身も群体も同じスキルだろうによくもまぁ。しかも数を増やすとか。
「……バカに付ける薬はねぇな」
「キミは最初につぶしたごみ共のような、楽な死に方はさせてあげませんからねぇ」
「……あ?」
おい、いま何つったこいつ。
たかが魔物の分際で命を奪い、さらにそれを侮辱するたぁ……許されねぇな。
「エリュマントスへの恨みは他人のもんだったが……こいつへの怒りは俺の物らしいな。すいません、グランドさん。勝手にやらせていただきます」
「あ、おい!」
剣を振りぬき、盾を構える。
一瞬で片付ける何て面白みのない真似はしねぇ。
「三下に人の力ってのを見せてやんよっ!」
カマソッツに向けて地面を蹴った。
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