第165話 ディアボロスとカマソッツ
剣豪は東方系、侍から派生する軽装アタッカーの3次職。高速移動系スキルと高威力の斬撃スキルを基本とし、剣術と体術を兼ね備えたフィニッシャーである。
その戦い方は変幻自在であり、手数で攻めても良し、一撃必殺を狙っても良し。HPが高いタイプの魔物との戦いにおいて、もっとも力を発揮する戦闘職だ。
イッシンさんの武器は片刃の太刀。一撃に重きを置いたタイプだろう。
また、高速移動系スキルが2次職の物しか使えない代わりに、
重装アタッカーがスキル封じをして自分だけ3次職のスキルで殴り倒すという、まさにカオスな戦闘職である。
グランドさんの武器は両刃の
「人間風情がっ!たかが3人で俺を倒せると思うなっ!」
「私の顔に傷をつけた代償は命で支払ってもらいますよ!」
スキルを抜け出した2体の魔物が飛び掛かって来る。
「グランドさん!人形とカマソッツを!」
吹き飛ばされたフェイスレスは健在だ。
強化魔術のかかった鋼鉄製の身体は、ちょっとやそっとの魔術で破壊される程軟ではない。
「辞世の句を聴く義理も無い。剛剣一閃・横一文字!」
イッシンさんの横凪が、空気を引き裂きながらディアボロスへと向かう。
「
ディアボロスはそれを肉体を硬化させるスキルで受け、速度をそのままに突っ込んでくる。
ちっ、硬化されたか。これで俺の斬撃は通るか怪しくなった。
「多次元斬!」
高速移動スキルを駆使したイッシンさんは、防御力の影響を受けづらいスキルを使ってディアボロスと切り結ぶ。
早いっ!どっちもビットを使って目で追っかけるのが限界で、細かい動きに着いて行くのは至難の業。
互いの動きを見ていると、基本能力はディアボロスの方が一枚上手か。だけど片腕が無い分上手く戦えていない。
イッシンさんは着実にダメージを与えているが、おそらくダメージを受けると辛いのだろう。かなり丁寧に回避をしている分、大技がなかなか出せない印象だ。
こういう時に使えるスキルは……。
「影に忍ぶは禍の種!
魔物だけに反応する設置型の地雷魔術をバラまく。
それと同時にビットを操作。二人を取り囲むように配置して。
「
丁度高速移動したディアボロスが壁に引っかかって一瞬動きを止める。
「この程度っ!」
一瞬で壁は破壊される。1枚壁では3次職と対等異常に戦える10万G級の攻撃を受けきれない。だけど無詠唱で唱えられるのだ。そして一瞬止まればイッシンさんの斬撃が入る。
「グッ!やはりキサマから殺すか!」
標的をこちらに変えて高速移動。当然設置済みの
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
VITの影響を受けづらいHPダメージだ。おまけに状態異常付!
「経験も、覚悟も、すべてが足らないな!さすが
「キサマァッ!」
こいつの暗躍期間は十数年程度だ。殺すことに重点を置き過ぎて、簡単に倒せない同格以上と戦った経験が足りな過ぎる。
そもそも、オーガの特性は戦闘能力の高さなのに、
「挑発に乗ってよそ見か?」
「な!?」
その瞬間、イッシンさんの刀がディアボロスの左足を貫いた。
「
周囲を切り刻む高速の手刀を、イッシンさんは刀を捨てて避ける。しかし動きは完全に止まった。
この瞬間なら、戦闘に向かないスキルでも使うことが出来る。
発動が遅く、通常戦闘では簡易な壁くらいにしか使えないこのスキルも、一定の隙があれば魔物を持ち上げることが出来る。
そして地面を蹴って進むタイプの魔物は、持ち上げられてしまえば自由に動くことが出来なくなる。
「全部貰うぞ!
4機のビットから放たれた吸収魔術が、相手のHPとMPを削りながら、こちらのダメージを回復していく。
「この程度のスキル!」
しかしそれに気づくまでの数秒、それが命取りになっている。
「
ディアボロスの足に突き刺さった刀は、既にイッシンさんスキルでその手に戻っている。
そしてその前には、宙に浮かび上がって動けない的が居る。
「剛剣一閃・一刀両断!」
かつて
「っ!
斬撃を衝撃に変換する防御スキルを発動させ、遥か遠方まで吹き飛ばされていくのだった。
………………
………
…
吹き飛ばされたフェイスレスを起き上がらせると、すぐ前にカマソッツの姿が見えた。
「私の顔に傷をつけた代償は命で支払ってもらいますよ!」
見据えているのはグランドさんの方。すでに破壊したと思っているのだろうか、こちらを気にした様子はない。
高いINTと
「グランドさん!人形とカマソッツを!」
カマソッツの魔力反応が膨れると同時に飛び起きて、奴の正面に盾を展開。
放たれた魔術が至近距離で炸裂する。
「こいつっ!まだ動い……」
「よそ見は禁物だぜ!」
「ちっ!」
高速移動系スキルで一気に距離を詰めたグランドさんの一撃を、同じく高速移動スキルで避ける。
グランドさんが使っているのはエリュマントスと同じ縮地、カマソッツが使っているのは
「
その呼びかけに親指を立てる。
あれだな、グランドさんは人形が何だか分かってない感じだな。下手したら珍しい種族くらい思ってる可能性がある。
影から飛び出してきたカマソッツに
まだ本体が使っている
「ちっ!」
それをカマソッツは再度
今度は出現位置に
……妙だな。
移動速度は他の高速移動スキルと遜色ないが、入りも出も遅めであり、さらにその間に攻防の魔術が使えない。
紙一重で攻撃を避けるには技術がいるし、多用すると攻撃のタイミングを逃す。
カマソッツは
……MPか。
「そこの鉄くず、うっとおしいですね!」
出現、転移を繰り返してこちらの目標をそらし、カマソッツが放ったのは
こいつ、MP切れを起こしつつあるな。
大きな被害を出した初撃の魔術、アレはカマソッツが放ったものだったのだろう。
威力からして上級魔術の多重詠唱。おそらくMPの半分以上を消費したのだろう。同系の魔術を使ってこない事からもその推測は裏付けられる。
高速移動系スキル全般に言えることだが、
盾を張るより
ダメージにブチ切れてやり合ってはいる物の、実はMPが乏しく追い詰められている。即座に撤退しない所を見ると、あと一回くらい大技が使えるって所か。
なら、
影の濃い所を狙って
それと同時に、わざと残したワープできそうな影に、封印解除した
数度の攻防。敵もこちらの狙いに気づいたらしい。あとはタイミング次第。
目の前の影を潰すと同時に、カマソッツが消える。出先は……真後ろ!
「さっきから邪魔なっ!?」
そこはさっき、
背後に向かって後ろ蹴り。だがそれと同時に魔力が膨れ上がるのも感じる。
「ねじ曲がれ!
キックがヒットしたその瞬間、カマソッツが放った魔術によって人形全体に、無茶苦茶な方向の圧力がかかり、弱いパーツがはじけ飛ぶ。
範囲内にバラバラなベクトルの力場を発生させる魔術。並の人間が受ければ、前身複雑骨折では済まない。いやらしいチョイスをする。
しかし動きは封じ、隙は作った。ガシャン、と音を立てて人形が地に伏したその時。
「
カマソッツを範囲にとらえたまま、グランドさんの
これでカマソッツはもう
「っ!!」
「
「リっ、
その瞬間……空間が割れた。
-----------------------------------------------------
□雑記
ディアボロスは本来悪魔と言う意味の種族名なので、人の名前を人間としているようなイメージです。
当人にはオーガの悪魔、と言う意図があったのですが、犬に猫、と名前を付けているようなもの、と揶揄されて以来、その指摘は彼のプライドをひどく気づ付ける物となっています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます