第278話 発露の試練

奥に進むとやはり転送用の祭壇が2つあり、それぞれに行き先が書かれていた。

一つは先に進むため物だが、もう一つはどうやら迷宮から脱出するための物らしい。捜査の試練が超えられれば、外とここを繋ぐ往復の転送陣が使えるようになるようだ。

……魔力操作がアーニャの域に達していれば、ショートカットが可能だったって事か。何処に繋がっているんだろう。


魔物ダンジョンに呑まれて居ない事を祈りつつ、先へと進む祭壇を起動する。

飛ばされた先は毎回同じ構造だ。奥に光が見えるのも変わらない。


今度のホールも広さは2つ目とそう変わらないが、高さ2メートルほどのモノリスがいくつも立っている。

一応安全確認をしつつホールへ。構造は同じっぽいが……ワープしたって事は試練が変わるのかな?


「……発現……いや、発露の試練か。石碑に魔力を流せば奇跡の呪法が浮かぶ。開錠の呪法を習得し、奥へと進め。呪法は難易度毎に並ぶ。開錠の呪法の習得が難しい場合、簡易な呪法から習得せよ」


モノリスに魔力を流すと、文字と図解で魔術の説明が浮かび上がった。

これは……そのまま魔操法技クラフトの魔術書か。


モノリスの数は20を超える。呪法の基礎、魔素の特性、そう言った説明まであるのか。なんでこれが集合知に出回ってないのだろう?


「これ、ワタルしか読めないわよね」


「そうだね。図はともかく、文章で記載されているところは訳さないとダメか」


「ワタルが訳した内容を見て、あたしが発動出来ればクリアか?」


「そうだね。……すぐには無理だから、今日はココで休むことにしよう。準備はお願いしていいかな。古代語の解読を勧めちゃう」


「良いわよ。テーブルとイス1つ出しておくから適当に使って。アーニャ、ワタルを手伝ってあげて」


「了解」


アーニャが石板に魔力を通して碑文が浮き出している間に、翻訳した文章を書き留めていく。

比較的簡単な言葉で書かれているのだが、それでもちょっとややこしいな。


石板に書かれている内容は『魔素の存在と特性』が2枚4面。『呪術の基礎』が1枚2面。『物質と魔素』が3枚6面。『呪術の種類』が1枚2面となっていて、残りが呪法そのものを記したもの。

石碑に刻まれている魔術は『明かり』『発火』『そよ風』『冷却』『遮光』……この辺のは簡単な物として扱われているな。

『気体可視化』『温度可視化』『念動力』『断熱』……中級?どのくらいを指すのだろう。

『体動強化』『知覚強化』『活性』『反作用低減』……上級?反作用低減とかは2次職スキル相当っぽい。


良く分からなかったのが『雑音遮断』。上級扱いだが、どうも音を遮断する術ではないようだ。

これに中級の『開錠』が加わって、魔術の数は全部で15個。開錠が中級なのに、その上があるのはサービスか、それとも先に進むのに必要なのか。

とりあえず全部文字起こしはするけど、アーニャに試してもらうから『明かり』からかな。これが一番影響が小さそう。


「どう?」


「ん~……文字で読んだんじゃわかんない。ちょっとやってみないと」


「それじゃあ、先に初級と基礎知識の部分だけ文字起こししちゃおう」


基礎の部分も中々に興味深いことが書いてある。


魔素の存在と特性。魔素の存在とその振る舞いに書かれている。魔素はどこにでも存在し、緩やかに集中、蓄積する性質を持つ。周囲の状態と魔素の状態は一致するなど。


呪術の基礎。魔素を操って現象を発生させる基礎概念。ある現象が起きるときの魔素の状況を再現するのが基本的な考え方と書かれている。それをいくつもの要素に分割して、再構成したのが呪術なのだという。


物質と魔素。物質は魔素に、魔素は物質に影響を与えている。同じ物質でも含有する魔素の領や偏りによって特性が変わる。魔鉄や魔導銀ミスリルなどが代表例。魔素の蓄積が多い物質の方が呪術的な干渉を受けやすく、また呪術的な影響を発生させやすい。

枚数が多いけど、よくわからない記述が多い。単語としても何を指すか不明なものが多く、訳しきれなかった。


呪術の種類。これは魔素の操り方。モノリスの数は1枚だが、なかなかに興味深い。

音、つまり空気の振動で操る術。陣、つまり光の反射によって操る術。思考、すなわち電気的変動で操る術など。よくあるファンタジー的に言うならそれぞれ、詠唱魔術、魔法陣魔術、無詠唱魔術かな。普段魔力を流すと言っているのは、電気変化による魔力の操作っぽい。


どれが良いと言うものではないようだ。複雑な魔術を使うなら、魔素の操作方法は複数あったほうがいいらしい。無詠唱で魔方陣を描き、詠唱と陣を併せて多次元的に魔素を操作する事で複雑な現象を実現させるとか。小難しいことはわからんし、集合知にもないからアーニャに試してもらおう。


「魔力を流しながら出ないと碑文が読めないのは不便であるな」


初級の魔術を試し始めたので、中級、上級の模写はコゴロウに表示を頼む。


「どういう想定でこの仕様にしたんでしょうね。中間地点のように、刻んでくれてもいいのに」


「流すだけで良いのなら、二つ目の試練も関係ないであるしな」


「そうですね。二つ目の試練の突破がこの呪術を使うのに必要なのはイメージ湧きますけど、この石碑は使いづらいだけです」


何か意味があるのだろうか。


「片面だけの石碑と、両面の石碑もあるのであろう?」


「不思議ですよね。魔力を送っても何も出なかったモノもいくつかありましたよ」


石碑は黒曜石のように黒く、そこに魔力を送ると光る文字が浮き出てくる。

枚数は全部で30枚あった。1枚は裏表2面に成っているので、計60面。だけど初級魔術は表だけだし、使われいない石碑も何枚かあった。どういう理由だろう。


タリアが夕飯の準備を終える頃には、文字だけは一通りの模写が終わった。

図はどうしたモノか。想起リメンバーを使って思い出しながら書くことは出来るが、正確に模写するのはちょっと面倒だ。……DEXのおかげで出来なくは無いけどさ。


「ほら、ご飯の時はご飯に集中しましょう。今日は生姜焼きよ」


「ああ、うん。うまそうだ。いただきます」


先に進めないので材料から料理してくれて、久々に作り置きじゃない食事だ。

ボラケで俺好みの醤油が手に入ったため、食事の楽しみは増えた。後はジャポニカ米や味噌が手に入れば言う事は無いのだけど……まぁ、力を割くのはそこじゃないな。


アーニャが言うには、しばらく練習すれば初級くらいは何とかなりそうだという話。中級はまだ分からないとのこと。

俺も操作の試練を突破できるようにトレーニングをしてみよう。後、力業で突破した近くの試練もやり直しかな。

その日は発露の試練の間に天幕を張って休むことになった。

---------------------------------------------------------------------------------------------

現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る