第277話 操作の試練
一つ目の部屋の奥には2つの祭壇があり、案内板であろうか、古代文字で行先が書いてあった。
一つは中間地点である叡智の間、もう一つは次の試練に進むことが出来るらしい。
先ほどの
「ご丁寧に案内も出してくれているようだし、先に進もう」
祭壇の転送陣を起動すると、同じような小部屋に出る。
転送先に明かりが無いのはどうにかしてほしいな。通路の先は明るいから、少なくとも人が来たら点灯するライトくらいは準備できるだろうに。
通路から広場を覗くと、今度は直径10メートルくらいの部屋で、真ん中には転送陣と同じような祭壇が見える。奥には扉があるようだ。
天井も知覚の試練に比べると低い。謎の光球?が浮いているのは変わらない。
「同じように掲示板があるのかしら」
「とりあえず入ってみようか」
部屋の中に入っても違和感はない。やはりすぐに何か動き出すとかはなさそうだ。
振り返ると、やはり掲示板のようなパネルに古代文字が刻まれている。
「……操作の試練の一つ目。祭壇に立ち、己が魔力を自在に操れ。全身の魔力を均一に抑え込む。その後右手にのみ魔力を集中させ、左足、丹田、右足、左手、心臓、頭の順に集中させた魔力を循環せよ。一つの条件を満たすたび、祭壇に明かりが灯る。すべて満たせば先の扉が開く」
なるほど。名前通りの試練なのか。
……この感じ、迷宮の深部はどうも人類が次のステップに進むための試験場なのかな。
時の迷宮にも、豊穣の迷宮にも、刻まれている碑文には魔力関連の要素があったはず。中間地点の碑文から魔力に関する情報を得て、魔力を操れるようになった者が先に進むといった感じか。
「誰がやるであるか?」
「この中だと、この魔力操作は俺が一番長いからやってみるけど……トラップ警戒しながらやる必要あるかな?」
アルタイルさんに
まあ、とりあえずやってみるしかない。
祭壇に立って深呼吸。魔力操作を始める。
まずは全身の魔力を均一に抑え込む……これはステータスの強化効果を抑制するのに近いと考えられる。体内を流れる魔力は不均一だ。呼吸や鼓動によって常に波打ち、体内を循環している。
元々魔力なんて知らない世界の住人である俺がこれを知覚出来るのも謎なのだが、神の奇跡というやつなのだろうな。
筋トレのためステータスの効果を抑え込む要領で、体内の魔力を抑え込んでいく。
……結構きつい。魔力操作の範疇で出来なかったらどうしてくれようか。アーニャだったら上手くいくか?
頭の中をそんな不安がよぎったが杞憂だったようだ。ギュッと力を籠めて魔力を抑え込むと、祭壇に光が灯る。
よし、右手……右手だけに集中させる?それとも右手だけを解放させる?どちらにせよ不思議な感じだな。
右手の部分だけ魔力の抑制を止めると、祭壇には小さく明かりが灯った。……これじゃあ足らないのか。光の灯り方が、明らかに最初のより弱い。
抑え込んでいる魔力を右手にだけ集まる様に力を籠める。有る程度魔力を溜めると、祭壇の火が完全に灯って色が変わった。
そのままその魔力の塊を左足に。……足先まで持って行くの、何気にきついな。
逆に丹田への移動や維持は楽だ。楽な分、ここに留めてしまいそうになる。
右足、左手、心臓……そして頭部。
四角い祭壇の周囲を取り囲むように8つの明かりが灯ると、先の扉が開くのが見えた。
「……ふぅ……こんなので良いのかな」
思ったよりかなり難しい。操作の試練は一つ目となっていたが、これ次があるのか。
「さすが、一発ね」
「うん。でもこれ思った以上に難しいよ。トレーニングにいいかも」
多分2~3周もすれば集中力が維持できずに霧散する。それくらい難易度が高い。
「隣にも部屋が見えるぜ!」
サクサク行こう。アーニャを追いかけて扉の先に進むと、同じくらいの広さの部屋があり、真ん中には多角形のオブジェが置いてあった。
「えっと……操作の試練2。四角いプレートに触れて魔力を流せ。背面にある……まで、一つの線で魔力が流る。魔力を流す回路の順は、分岐ごとに抵抗が弱い、中程度、強いの順である。指定通りに流せば……まで流せば扉は開く」
オブジェを見ると、中間地点からの扉を開けた時と同じように四角いプレートが前面についていた。表面には格子状に細い線が刻まれている。これが魔力を通すための回路だろうか。
背後を見ると、オブジェの丁度真ん中、俺達の視線より少し高い辺りに黒い宝玉らしき意匠がある。
訳が読めなかったけど、おそらくここまで回路を繋げばいいんだろう。
「それじゃ、やってみますか」
ぐるっと回ってトラップもなさそうなので、時事通りに試練へ挑戦してみよう。
プレート部に触れて魔力を流す。
流す要領は魔鉄を作る時と同じで良いはず。ゆっくり魔力を注ぐと、流れやすい方が分かった。
抵抗が弱い所から流していけばいいんだから……まずは上か。
次の分岐は中程度……あ、これ難しい。魔力を流しこもうとすると、どうしても弱い方に流れる。
弱い方に行かないようにしながら、でも魔力を注入する圧は高めなきゃいけないのか。
素材を作るときは一定の力で押し込むだけだったけど、これはそうはいかない。
何とか中を突破して次は一番抵抗が高いラインへ……く、厳しい。
遣りたい事は判りやすいが、他の所に流れないようにしつつ、抵抗の大きな回路に流すのはかなり難しい。
5分ほどかけて何とか通過。次は弱い方へ。そして中程度……あっ!
2つ目の中抵抗に魔力を注ごうとしたところで、クリアした途中から弱い方向へ魔力が逃げた。
それを抑え込もうとすると、今度は先端が弱い方向へ流れる。
……むずっ!
「だめ、ギブアップ」
何回か試してみるが、これは今の俺にはクリアできん。
練習すれば出来るようになりそうだけど、ちょっと時間をかけてもいられない。
「ワタルがダメとなると……アーニャ?」
「そうだね、魔力の扱いは多分一番うまいから、挑戦してもらえる?」
「おう!ちょっとやってみる!」
アーニャが上手くてきなきゃ、今の俺たちにここを突破するのは不可能だ。
「あ……これ結構難しいな」
そう言いながら彼女はサクサク魔力を流していく。
魔力が流れた所は青白く光る。誤ったルートに流れると赤く光るようなので、見ている分には判り易い。
数十ステップの分岐をこなし、いよいよ背面側に回っていくが……。
「……これ、キツイ」
「先が難しい?」
「見えてる範囲は良いんだけど、真横以降って視界に頼れないから……感覚だけだと……ああくそっ、定まらない」
裏に回ると、魔力を通した回路が複数に枝分かれしてしまっている。
感覚だけだとうまくコントロールできないのか。これ、思った以上に難易度の高い試練だな。
視覚が確保できれば行けるなら、鏡か……そんなものは無いから、
「アーニャ、今の状態で
「……今起動するのはちょっと厳しい。やり直してみる」
「おっけー。ビットは裏で持ってるから、操作はしないでいい。視界の確保に使ってみて」
先ほどと変わらぬ時間で側面へ。若干進みは遅くなるが、先ほどより順調だ。
「……ふぅ……こっちの方が、やりやすいな」
それからしばらく時間をかけて、背面中央の宝玉までパスが通る。
宝玉が緑色に輝くと、そこから光の筋が伸びて正面の扉が開かれる。
「ふぅ……最後きつかった」
「お疲れ様。これ、
職業システムが導入される前の遺跡。魔術を使うとしたら
そうなると知覚の試練が魔力視、操作の試練が魔力制御を試すのかな。
これ以上新たな技術を求められない事を祈ろう。
淡く光る宝玉を背に、次の部屋に進むのだった。
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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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