第157話 難民と死霊術師のスキル
ウォール領で本格的な
目的は流れてくる難民の情報把握と、追っている奴隷商の追跡である。
「今の方が運転は楽だけど、毎回触るたびに微妙に変わると慣れないわね」
「鋭意改良中だからね。そろそろ落ち着きそうだけど」
今日はタリアが運転、俺が周囲警戒である。
装軌車両メルカバーはちまちまとした改良が入っており、運転頻度が低いタリアは、動かすたびに微妙に仕様が違っている。
今のメルカバ―はレバー操作にてこの原理を使ったパワーアシストが入っていて、STRが高くなくても操作しやすいようになっている。その代わり直進固定のフットペダルが、クラッチ代わりの踏んでいる時だけギアが繋がるペダルに変更されている。
リバース機能が別のバー操作に成ってしまっているので、それも今後改良する予定だ。
「ん、この先に魔物と、
街道沿いの深い森の中、少し離れた所にまとまった集団がいる。
それから街道に魔物たちが出てきている。街道の魔物に追われて、逸れた所に隠れたのだろう。
「また?やっぱり多いわね」
「横からも来てんな。まとめて片付けるか。速度落として」
「了解」
「
側面から来る魔物は鉄人1号フェイスレスとビット2台を向かわせる。
助手席から飛び出して加速すると、街道付近に魔物がたむろってるのが見えた。
敵の索敵範囲は広くないな。ようやくこちらに気づいて向かってくるが、動きが遅い。
「
ムカデが先行、その後にクズリが続く形。なので鉄クズリの1体を拘束し、処理順を決める。
「ムカデは飛ぶんじゃねぇ!」
『雷縛のバスタードソード』のエンチャントを発動させつつ1体を切りつける。
斬撃と共に雷撃が発動して、最初の一体はすぐにドロップに変わった。よし、1撃で済む。
こうなると後は処理するだけだ。返す刀で2体のムカデを切り捨て、爪を振り上げて飛び掛かって来る大鼬の亜種を両断する。
更に拘束から逃れようとするクズリに剣を突き立てて5体の魔物をすべて撃破。
おそらくすべて200Gくらいだろう。さすがに余裕だな。
フェイスレス側も問題なく敵を撃破。
あっちは素早い鎌鼬がいたが、フェイスレスの防御を抜くことが出来ずに倒された。ビットを狙われるとちょっと危なかったな。
「魔物は倒しました。もう大丈夫ですよ」
草むらで
人数は7人、うち子供らしき反応は2名。恐る恐る出てきたのは、戦士風……アリクイだった。
くそっ、こういう時獣人は反応に困るっ!
「鮮やかな戦い、見事だな。貴殿は?」
「クロノスの冒険者です。あっちから迫って来る車両も私のパーティーメンバーが乗ってます。警戒しなくても大丈夫ですよ」
地面を削り、音を立てながら、ゆっくり装軌車両が向かって来ている。こう見ると異質だな。
「モーリスからの難民ですか?」
「ああ、キスキン経由で、難民を受け入れてくれているという話のウォールに向かう途中だ。キスキンは短期滞在はともかく、野営は禁止されて、行くところが無くてな」
「なら、ウォールの北側に難民キャンプが作られてますから、そちらを目指してください。けが人はいますか?治癒魔術が使えますが」
「本当か?すまないが頼めるか。皆、どこか怪我をしているものが多い」
7人中4人は大なり小なりけがをしており、もう一人の魔術師らしき男性は隻腕に成っていた。
ここで再生治癒も可能だが、体力をごっそり持って行かれるのでウォールで治療してもらおう。
「我々は今日中にキスキンとウォールを往復します。あの車両にはそれくらいの速度が出ます。ここまで、魔物は減らしてきましたが、もし無理そうならキャンプで粘ってください。おそらく4~5時間ほどで追いつくはずです」
治療を終えて、再出発。
10分から15分に1回くらい、何らかの魔物に絡まれるのはうっとおしいな。ここを往復するだけでお金は稼げるが……メルカバ―の騒音は魔物を寄せてるっぽい。何とかしたほうが良いか。
キスキン方面からすれ違ったグループは3組。キスキンへ向かう冒険者一団は1組。
やはり流れてくる難民は多いな。
キスキン城塞都市に近づいたら、見える位置にメルカバ―を止めて徒歩で門まで移動。
門で辺境伯からの親書を渡し、ここひと月ほどの入国者の調査をお願いする。親書と国王特使の立場はありがたい。代わりに君主様との謁見を要請されたが、入国はしないのでまた今度という事にした。
門番をしている兵士たちに少し賄賂を渡して話を聴いたが、それらしい商隊を覚えている人はいない。想起のエンチャントアイテムを使って思い出してもらったので、おそらく抜けは無いだろう。
国境をスルーして国外に出た可能性を想定してこちらまで来たが、やはりその可能性は低いな。
子供連れので国外に出るのもハードルは高いが、砦を迂回してこっちに来ようとすると、そもそも1次職や非戦闘職交じりのパーティーじゃ生存が危うい。
敵の強さもだが、魔物に襲撃される回数が多すぎる。
「さて、それじゃあ戻ろうか」
キスキンの滞在時間はおよそ1時間ちょっと。今の時間を考えると、他の都市には寄っている時間はなさそうだ。
「同じルートをまっすぐ帰っていいの?」
「うん。その代わりに今度は別のスキルを使う」
来たときは魔物を警戒して、エンチャントアイテム化した
これから使うのは死霊術師に成ってから覚えたスキルだ。
「どんなスキル?」
「死体発見スキル」
「……聞かなきゃよかったわ」
「死霊術師は分からない事も多いし、試してみる必要はあるだろう。さすがにアーニャと一緒の時に実験するのは憚られるからね」
「そこは気にするのね」
「覚悟の差かな。見つけた遺体は回収していけば、弔いにはなるだろうしね。……忘却の海に沈む亡者を、日の下に暴け。
スキルを発動させると、周囲にいくつかの反応が現れる。
……固まっているのはキスキンの墓地かな。あとは……人の反応は無い。野生動物の死体が転々としているな。……魔獣の死体が混じっていれば、使える素材が得られるかもしれないが……宝探しをしてる余裕はないな。対象を人骨だけに絞ろう。
「それじゃあ出発しようか」
「了解。装軌車両メルカバ―、再同。内圧の臨界を確認。発進!」
タリアの操作でメルカバ―が動きだす。
動きに合わせて、街の反応が遠のいていく。街の周りに不審な反応が無いのは幸いだな。
それからしばらくは反応の無い時間が続く。
たまに
「……タリア、後500メートル先位で止めて」
反応を拾ったのは、キスキンを出て1時間も走ったころだった。ちょうど国境砦との中間地点くらいの一だ。
二人で装軌車両を下りる。幸い魔物の反応は遠方に小さいのがあるだけだ。
「そこの草むらの先、
「……確認するの?」
「一応ね」
恐る恐る近づくと、草むらの奥で一人の男の亡骸が横たわっていた。
標準的なヒューマンで、年齢は20台後半くらいか。体色が変色しており、毒か何かにやられたのだろう。
「……静寂に耳を澄まし、死者の声を聴け。
死因は毒による心不全。足に骨折、腕、肩、頭に裂傷。致命傷となった毒は腕の傷が原因のようだ。死んでから一日ほどか。気温が低いので、まだそれほど腐敗は進んでいない。
男性の身に着けていたのは、簡素な布の薄着のみだった。装備は無い。持ち去られたか、持って行ったか。
思わず両手を合わせる。……この世界に来てから、死体を見るのは初めてか。集合知にアクセスすると見たくもない情報を見せられることも多いが、生で見るとやはりインパクトが違うな。
「靴も履いてないなんて、魔物に持って行かれたかしら」
「かもね。でも、安置のされ方は人の手を感じる。埋めてる時間は無かったって所かな」
「……冷静ね」
「そっちこそ」
「……私が何人殺してきたと思ってるのよ。人の形をしているだけまだいい方よ」
「……自分の意志じゃないだろう」
「だから悪夢なんじゃない」
「こっから先は悪夢よりひどいかも知れないぜ」
「百も承知よ」
……さて、それじゃあちょっくら試してみますか。
「動かすよ。そのために探してたんだから」
「ん、ちゃんと見てる」
10レベルに成った現在、最も基本的な死霊術のスキルが使えるようになっていた。
……死霊術師は、
「……我が
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□雑記
鉄クズリ:体調80センチほど、鉄の毛と爪を有したイタチ。素早い動きと鋭い爪での攻撃を得意とする。防御力の高さが厄介。
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