俺は地球に帰りたい~努力はチートに入りますか?~
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異世界に駆ける冒険者
第1話 なぜか知らんが死んでいたらしい
『やあ、初めまして。君の名前を教えてもらえるかな?』
気づくと光のある空間に居た。そうとしか形容できない場所。真っ白なようで、万色に遷ろう様にも見える。
そんな空間に、ただただ浮いているような不思議な感覚。
恐れはない。不安も、苛立ちもここには存在しない。永遠なる安寧が存在すると確信できる場所。
だけどそこに発生した一つの波紋。
それが俺に問いかけてくるこの声だ。
『戸惑っているんだね。まぁ、無理もないか。僕もだからね。こうして異世界から客人を迎えるなんて初めてのことだし、君だってこうして違う世界の存在と話すのは初めてだろう?』
お前は誰だ?
『誰か?ん~……難しいね。僕は世界であり、君たちの言葉でいうなら、異世界の神ってことになるのかな。ただ、人格を持った存在というよりは現象に近い。存在し続けたいという果てしなく強い欲求を持つこと以外は、人の感性とは違う存在だと思ってもらった方がいいかな』
神?ずいぶんと胡散臭い。
『まあ、そう言わないでおくれ。君たちの感覚でいうと、自分が神だなんて思ったことはないんだ。ただあり続けたいと願う存在さ。僕は世界自身であるから、僕が消えれば世界が消える』
『そういう意味で神と言っただけで、ほんとに神様のような力が振るわけじゃない。こと、自分自身においてはね。君たちだって病気になったら薬を飲んだりするし、長生きのために健康に気を遣うだろう? それくらいしかできない哀れな存在だと思ってもらってかまわないさ』
……その自称神様がいったい俺に何の用だ?
というか、これはいったいどうなってるんだ?
『ん~……端的に言えば、君は君の世界で死んだのかな』
死んだ?俺が?そんな記憶は全くない。
『うん。君が死ぬ原因になったことについては、君の世界では起っちゃいけない出来事だったからね。その出来事は起こらなかったことになってるから、覚えて無いのも仕方ないよ』
なら、なんで俺はこんな状況に居る。
『それはこっちの都合で申し訳ないんだけど、君には僕の世界に来てほしいからさ』
……意味が分からない。
『異世界転生ってやつだよ。……肉体がそのままだから、転移の方が正しいのかな?そっちくらい文明の進んだ世界だと、異世界って概念もわかるよね。それさ。君には僕の住人になってほしい。だからこうして呼んだんだよ』
……断る。地球に戻せ。
『即断だね。でも、残念だけどそれは出来ない。言ったろ、君は死んだんだ。本来起こるはずのない死因だけど、君の世界ではすでに君は死んだことになっている。君はこの世界に来るために死んだことにされたようなものだから、そういう意味での君の死因は異世界転生だね』
転生するために殺されるとか笑えない。
『うん。そうだね。まぁ、直接の原因は別にあるけど、君に死んでもらいたかった人が君の世界に居るんだよ。そして僕は自分の世界に来てくれる住人が欲しかった。その目的が一致したんだ。幸いにして、君には君が死んでも大きく悲しむような人はいない。君の世界の世界線から消えても、それを補う人は十分にいる。これは誰でも言える話だけどね。そんなわけで、君はこっちに来る。これは確定事項さ』
ふざけるな。
『ふざけてなどいないよ。異世界から人を取り込むなんて、異物を体に注入するようなものさ。まぁ、僕の場合はワクチンみたいなものだけどね。僕自身がちょっと大きな病気にかかってるような状態で、世界が滅んで消えてなくなりそうなんだ。それを癒す存在として君を処方されたんだから、働いてもらわないとね』
それはそっちの都合だろう?俺は帰りたい。
お前は悲しむ人が居ないと言ったな?嘘だ。そんなことあり得ない。
確かに俺には親兄弟はいない。この歳で天涯孤独の身だ。
それでもあいつは、あいつだけは、俺が死んだら泣くだろう。それはダメだ。それだけで帰らなきゃいけない理由になる。
『ああ、君の幼馴染かい?それなら心配いらないよ。君が死ぬことを願ったのは、ほかならぬ彼女なんだから』
……何を言っているのかわからない。
……あいつが……俺を?
『理解に苦しむのも仕方ないけど、事実だよ。でなきゃ、君が推薦されてここにいる
入ってくる情報に頭が追いつかない。
あいつが? 俺が死ぬことを、願った?
「……嘘だ」
どうにかひねり出した声は驚くほど掠れていて、その音に合わせてどす黒い何かが侵食してくる。
「嘘だ……ウソだ……うそだっ!」
『混乱するのも無理はない。だけど悲しむ事も、気にすることもないよ。君の持つ可能性は、むしろ広がるんだから。すぐに理解できる時は来る。それまでは僕の中で生きておくれ』
心を蝕む黒いものを塗りつぶすように、何かが体の中へと入ってくる。入ってくる?溶けていく?
『そっちの世界を見習って、いろいろと手を加えたんだ。君には人の持つ知識と、人の持つ可能性のすべてをあげよう。僕を滅ぼすのは金の魔王。それを打ち滅ぼして、人の世界を取り戻しておくれよ』
だんだんと声が遠くなる。
こちらから投げかけた掛けた言葉は、もうすでに届かない。
『そうしたら……また……かの地へと……』
引き返すことはできない。
もう落ちていくだけなのだから。
白にして万色に塗りつぶされ、俺の意識はそこで途絶えた。
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□2023/02/11
読みやすさ向上のため、改行をなどを修正中です。
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