第454話 寝ている間の話を聞いた
「治った~っ!」
長老と会った翌々日、朝起きたら足が治っていた。
「治るわけないでしょうっ!」
「いや、でもほら、足の太さとかほぼほぼ差が無いし」
そう言って見せた足先を見て、俺を起こす為に来ていたタリアは眉をひそめて一言『うわぁ』とつぶやいた。そんな奇怪な生き物を見るような目で見んでくれ。
長老との会合を終えてから、昨日までの一日半、念動力を使わずにリハビリ、飯、
……こんな魔術は集合知にないから、おそらく異能のせいだろう。
「ほら、とりあえず歩くのに問題なさそうだからさ」
「……せっかくいい感じの口実があったのに」
タリアのボヤキは聞こえなかったことにした。
アーニャの反応がタリアと変わらなかったのには若干不安を覚えるが、コゴロウが『回復したのなら何よりである』と、普段と変わらぬコメントをくれたのにはもっと不安を覚える。いや、少しは気にしろよ。
「……確か、
「やめて!俺以上に非人道的な発想は止めてっ!」
バーバラさんの発想が怖い。言われなければ自分で思いついたとは思うけど、いくら俺でも自分を分割して戦力を増強するつもりは無いんだ。そう言うのは努力と言わんだろうし。
話を聞きつけたエルダーたちは俺の身体を調べたそうにしていたが、そっちは完全にスルーする。かまっていられない。とりあえず足は回復したと割り切って、次のステップに進むことにする。踏めるようになったしな。
「ええっと、やらなきゃいけないのは……そろそろ容体も安定したらしいハオランの
「無事に着陸は出来たみたいだけど、まだ街にはたどり着けてないようね」
リビングのテーブルを囲んで作戦会議。タリアが打ち上げられたモーリス殿下とワン領主の近況を教えてくれた。街からは結構離れた所に落ちたようだ。
「食料と水は足りてるの?」
「小型の受送陣で送ってるわ。二人には、空気から水分を集める魔道具って伝えてもらってる」
「防寒具の不要な季節で助かりましたね」
「ルートを間違えなきゃ人里に出られると思うんだけど……そこはベンさん達次第か」
当然の話だが、クロノス王国にも広大な”人の手の入っていない土地”ってのは存在する。むしろどの大陸でもそう言った土地の方が圧倒的に広い。
ベンさん達が着陸したのはそう言った一帯で、わずかに残る魔獣を避けながら街道を目指している。
「本当にダメだったら連絡が来るはず。エンタープライズで迎えに行くかは、保留にさせて貰おう」
救助が遅れれば遅れるほど、俺達の移動について違和感は減るのだ。
「捕虜は大人しくしているである。ワタル殿が作った
「取り調べはどうです?特に俺の足を消し飛ばしてくれた方」
「エルダーたちが協力してくれたおかげで順調である。まぁ……一般的に敬虔な邪教徒、と言った所であるな。殺人、魔物への利益供与など罪状は数え切れぬほどあるが、おおむね戦場でのものである。それもしばらく前。かつては戦場で活躍し、今は街で主に魔獣相手の守り人を務めていたようである」
「名前は……なんでしたっけ?」
「ドワン・グローリィであるな。伝えた覚えが無いので知らぬであろうが……神の知恵で何かわからぬであるか?」
残念ながら、と言うべきか、集合知に名前は無い。
「少なくともブラックリストに名前は無いですね。偽名では無いですよね」
「真偽官を招いて、ステータスも確認しているのである」
なら、少なくとも神に見放されるような罪は犯していないのであろう。
「ここ2年ほどは分かりませんが、名前はありませんね」
「ふむ。ならば言う通りなのであろう。非戦闘員の殺害が無いようであるから、ワタル殿の観点から言えば、ネクロスの方がよっぽど罪が重いである」
「改宗する気はありそうですか?」
「グローリィの方であるか?どうやらテラ・マテルに家族が居る様なので、難しいであろうな。ホワイトの方は大人しいし話も通じるであるが、何を考えているかは分からんである。戦果の褒章に育ての親を惨殺する権利をもらうような輩の心根なんぞ、知りたくもないであるが」
「他の捕虜の話を聞くと、一応会話は成立しそうなので狂人ではなさそうですけどね」
中々判断に迷う。他の囚人がどうなっているか聞くと、全く改宗する気が無い奴らは変わらずで……。
「
「外って……ここの事気にせずに出せる場所ってどこよ?」
アーニャの発言に驚いてそう返した。デルバイの迷宮はこっそり外に出るには向かないし、だからと言って
「
「そんな場所が……巫女の目は届かないのか……」
「一応大丈夫って。空からなら建物くらいは見えるかもだけど、わざわざ船が寄るような立地じゃないらしい。あたしはちょっとだけ見て回っただけだけど、結構広いのに船をつけられるような場所がそもそも無かったぜ」
そりゃまた都合が良い。
「反抗的な者も、脅しが利いているので今は静かであるな」
「脅しってハオラン・リーですよね」
「無論である」
「あれは流石に……ちょっと引くわ」
「罪状的にはすぐに首を撥ねたほうが良い輩ですしね。……生きながら苦しめるのも理解は出来ますが……」
「私の引くはそう言う意味じゃないんだけど」
騎士団の教育は物騒だからなぁ。悪、即、斬じゃないだけマシだと思おう。
「捕虜の状況は了解。ダンジョン組助けた、融解された人たちは?」
「あ、それもあたしが見てるぜ。今は使われてなかった
「テラ・マテルの方は私が探ってるわ。大規模な捜索隊は組まれているけど、それ以外は復旧でバタバタしてるだけよ。なぜ収容所が狙われたのかは議論になってたけど、あたし達が監禁場所を知らなかったらしいって証言は警備兵からとれたみたいで、ワタルが心配していた内通者探しは今の所始まって無いわ」
「二人ともありがとう」
彼らをクーロンへ送るには準備が必要だ。俺が寝込んでいたせいで、エルダーたち準備の話が出来ていない。すぐには進められないし、待ってもらうしかないな。
「って事は、そろそろメンタルが不安なハオランのケアが最優先か」
ハオランの意思を死霊術で呼び戻し、人造獣使いで生体と合成することで肉体の損傷を再生した。今は体調が安定するのを待っている状況だ。
「そうね。あと、何人か調子が悪い人たちが居るから、その相談にも乗ってあげてもらえる?ずっと起きっぱなしで、少し精神的に参ってるみたい」
「……わかった。少し話を聞いてみるよ」
タリアが話しているのは、亡者となった皆さんの事だ。彼らは眠りを必要としない……正確には眠ることが出来ない。2次職なれば何かしらの精神耐性は得ているが、それでも起きっぱなしで魔物と戦い続けるのは負担になる。MPが高くなって休息時間は取れるようになったが、それも段々と限界に近付いているようだ。
予想していた事ではあるが……やはり負担は大きかったか。
「それじゃあ、これまで通りの割り当てで」
方針を決めたら後は動くだけ。まずは地底湖に浮かんだ隔離施設に向かった。
この世界では珍しくガラス窓による採光を採用しているので、収容施設とは思えない明るさがあるが、まぁ、隔離されている当人たちにはだからなんだ、と言う話だろう。時々雄たけびが聞こえる。人の力じゃ石壁は割れないぞ。
桟橋を渡り、ぐるりと回って反対側。湖にせり出した縁側で、彼は椅子に腰かけて湖面を見つめていた。
「……お久しぶりです」
そう言ったハオラン・リーの姿は、亡者であるにもかかわらず少しやつれて見えた。
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