第148話 アース商会と作った物の後始末
メルカバーの試験走行を兼ねた遠征から戻って数日。
一気に寒さが厳しくなり、そろそろ初雪の気配を感じ始めたその日、アインス男爵亭へ至急、で呼び出された。
呼び出されたのは俺とジェネ―ルさん。どうもジェネ―ルさんは前から呼ばれていたらしい。
「よく来たな。まあ、軽食でもつまみながら話そう」
馬車に揺られてアインス男爵邸についたのは昼に成るかならないか、といった時間だった。相変わらずのランチミーティングか。
すでに何度かお邪魔したいつもの応接間には、軽食と御菓子が並べられている。
「色々と言いたい事はあるのだが、まあ、座れ」
「失礼いたします」
ジェネ―ルさんは相変わらずちょっと緊張した面持ちだが、こちらは慣れたものだ。
「本来なら腹の探り合いを兼ねて小難しい挨拶でもするところだが、そう言うめんどくさいのは嫌いだろう?今日読んだのはこの間見せてもらった装軌車両、およびその技術についてだ」
「ん、既に資料も小型模型も提供したと思いましたが?」
「ああ、受け取っている。そのせいで宰相閣下がご立腹だよ。私は窓口でしかないのだから、私に言われても困るのだがな。……愚痴はともかく、あんなもの見せられたらお呼び出しだ」
「そうは言われましても」
「まあ、そう言うだろうな。孤児の少女のパーティー加入の許可が出たので、さっさと逃げる前に呼び出したわけだ」
「……信用されてないですね。私は割と義理堅いですよ」
「残念ながら、こちらに義理を果たせと言うほど恩を売った覚えがない」
「……ははは」
まぁ、ギブ&テイク。
「許可が下りたんですね。ありがとうございます」
「ああ、今日ギルドに行けば正式に手続きが完了する。それについては問題無かろう?」
「はい。正式に手続きがされて居るなら問題ありません」
「ならば装軌車両の件だ。話は聞いているし、2日の距離を僅か3時間ほどで走行しきって余力があったと聞いている。報告だと歩きで5日分の距離を1日に縮められそうだと聞いたが?」
「問題もありますが、概ねそれくらいですね」
「早駆けの
「王国の技術発展に偏りがあるだけですよ。タービンは南大陸では使われている技術ですよ」
クロノス王国は主産業を農業とする国だ。
輸出品のメインは小麦と、
魔物なんてものがいるせいで、大陸間の技術交流は余り盛んではない。
その上職業とスキルで割と何とかなってしまう部分も多いため、なかなか新技術が発展しないのだ。
「であったとしても、それをこの国でこうして使える技術にして見せた功績は大きい。そしてそんな輩をほいほい国外に行かせるわけにはゆかぬ、と言うのが宰相殿のご意見だ」
「そう言われましても。私がクロノスにとどまらないのは既定路線でしょう?」
「うむ。そこはどうせ止められぬと思っている。まだ隠し玉も有りそうだしな。貴殿の言葉を借りるなら、無駄な努力をする時間が惜しい」
「ご理解いただけて光栄です」
「さて、本題に入る前に、トレコーポ。商会の方はどうか?」
「……あ、はい。健康増進軒の経営は相変わらず赤字ですが、ワタルさんから譲渡された一般封魔弾のエンチャント事業で十分元は取れております。孤児院の支援も滞りなく。他の地区の孤児院にも入っていく余裕もあります。それから、木工、鍛冶、陶芸の工房の何件かと専属契約は完了しました。錬金術師は当てが無かったので、当商会で一から養成を予定しています。技術が必要な物は作れませんが、エンチャントとの組み合わせは問題なく出来ると思われます」
「
賢者がそうそういると思えないし、共用可能な2次職職業を探すところからやらねばならなかったはずだが。
「ファエンダル・マッド氏が商会専属の魔術師として契約をしてくれました」
「マッドさんが?お高かったでしょうに」
「年俸20万Gで快く。格安です。……あのお方、
「さぁて?」
「……ここで
「へぇ、……ジェネ―ルさんは変わりませんね?」
「外に出てる暇などないですからな」
なぜ俺が睨まれるのだろうな?そんなにたくさん仕事を頼んだ覚えは……あるか。
「装軌車両の再現のための人材と材料も集めよ。技術研究は国の研究所で行うが、生産はアース商会で行わせるつもりで居る。専属契約だぞ」
「うちみたいなぽっと出の商会が、いきなり国と取引ですか?恐れ多いことですな」
「顔がそう言っていないな。機密レベルが高くて他に依頼できん。程よく分散生産して、作っている物にも全容が分からぬように調整する。で、良いのであろう?」
「はい。そうしてしまえば、多少かんぐる程度では模造品も作れませんからね」
その辺もアドバイスした覚書を渡してある。
「私は武官なので、実質的なやり取りはトトレイ伯爵がとりまとめとなる。技術部門の大御所だ。喜ぶといい」
そう言う当人は全くうれしそうじゃないな。貴族も色々大変そうだ。
「実際あれを作るのですかな?」
「分からん。宰相殿の所にオモチャを持って行ったのがお披露目の翌々日だが、その日の夕方にはスキップしながら研究所に戻る伯爵が見られたそうだ。どんなものを作れと言われるか分かったものではない」
「俺はあったこと無いんですが、伯爵ってどんな方なんです?」
「この国でも珍しい
「科学分野の方でしたか」
入れ知恵すれば技術開発が進むかな?……捕まって延々拘束されそうだな。
「さて、そんなわけでアース商会は国御用達に成るわけだが、その代表が風船海月では大問題だ」
ふわふわと空を舞う海月は春の風物詩。
「特使と言う役職もあることだし、騎士団の者を従者としてつけようという話が出ている」
「ええ、いらんとですよ」
お目付け役なんか付いて来られたら自由に動けない。
「だろうな。しかし、放置すると各派閥が一人二人は自称従者を送り込んでくる事に成る。装軌車両で逃げる程度ではどこまでも追いかける執念深い貴族がな」
「……嫌がらせですか。それ、何とかなるんですかね?」
「貴殿はアインス子爵の取り立てという事になっているから、兄か公使としての私なら無理を通せる」
ほう。……という事は、余計なお目付け役を付けない為の交渉が今回呼ばれた理由ですかね。
しかし人を絞れても、王国の関係者は余りいらんのだけどなぁ。
王国は治安がいいし政治も安定しているが、他の国がどこもこうではない。
集合知を使って調べてわかったが、クロノス王国はスタート地点としてはかなり安全な部類の国だ。
他の国も同じように行くとは限らないし、目的達成に手段を選べない可能性も高い。ぶっちゃけ、他国の法の一つや二つは犯す可能性は高い。
「そもそも従者は不要なんですけどね」
「そう言われても、それ以上のフォローは出来んのでな。そこで相談だ。……バーバラ・ドッドを連れて行け」
アインス男爵が名前を挙げたのは、お馴染みの人物だった。
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