第449話 テラ・マテル襲撃戦2
「まためんどくさいスキルを」
魔力の流れで、身体からバフ魔術が消えていくのが分かる。あらかじめ掛けておいたスキルも妨害されるか。だけどな。
「人を壊すのに高尚なスキルは要らないんだよ!
「ぬっ!?」
戦士は大剣を盾のように構えるが、衝撃を受けて壁を突き破り、土煙の向こうに消えた。
そもそも、この施設内は高速移動スキルが使えないのだから、
『アーニャ!コゴロウ!聞こえるか?』
念話を送るが反応が無い。侵入を妨害していたのは領主のスキルで、念話や高速移動を妨害しているのは魔物スキルか?ややこしいな。どっちにせよあの
『
弥生の叫びで、粉塵の向こうから敵が飛び出してくるのに気づいた。早いっ!
弥生の
「っ!」
瞬く間に間合いを詰められ、振り下ろされた大剣を流すように二刀で受けた。
重い!逃がし切れなかった衝撃が火花となって飛び散る。ギリギリのところで身体を抜いて流すが……脚運びが早すぎる!
「避けるか!なかなか手練れだな!」
「その動き!どうしてっ!」
「地の利を得るのは当然っ!」
二刀流対大剣なのに手数で負ける!弥生は速度について来れていない。
『後ろに跳ぶから
『は、はいっ!』
相手の横薙ぎを受け流すと同時に大きく飛ぶ。
次の踏み込みで戦士も地面を蹴り、急速に間合いを詰める。空中だったらそれを躱すすべはないが……。
「もらったっ!」
相手の追撃は空を切る。地面に刺さった
「
足りない手数は増やすしかない。壁を展開すると同時に8機のビットを展開し、障壁を重ねて相手の動きを封じる。
「この程度の障壁っ!」
「体当たりで砕けるほどやわじゃねぇぞ!吹き飛べ!」
防壁を砕く為に剣を振るうその瞬間が隙となる。ビットと
「
ばら撒かれた氷結弾がモルタル外壁の一部を吹き飛ばしながら冷気をまき散らす。衝撃に耐えられても寒さは防げないはず。これで倒れてくれればいいんだけど。
『
『その様でっ!』
これだけ暴れていれば、嫌でも魔物が集まって来る。無警告で飛んできた火炎球を切り捨て、ビットから
扉を蹴破ってホールへ。階段を二階へと駆け上がると、上に続く階段と廊下が左右に伸びていた。思いのほか廊下が広く、なんとなく学校を思い出す造りだな。
そのまま3階へ上がる。ここが最上階か?
外から見ると上に行くほどすぼまっているようだったが、まだ何部屋かあるようだ。
『睦月、扉を斬る』
『はいな!』
魔力を籠めた睦月は、まるで豆腐を斬る様に木のトビラに刃が通る。そこに
詳しく調べたいが、あまり時間が無い。追いかけて来る魔物たちを、ビットによる砲撃でしのいでいるが、突破されるのは時間の問題だ。
『部屋に魔素の異常はない。次に行くよ』
隣の部屋への壁をぶち抜くと、どうやら誰かのプライベートルームだったようだ。クローゼットやベッドがあり、机には少ないが私物らしき本や小物が並んでいる。
もう一つ進むと外に出た。街にいくつか火の手が見える。俺が来たのと逆方向から戦闘音が聞こえる。だいぶ近くなっているから、二人も合流が近い。
反対側を調べようと戻ったところで、復帰して来た戦士によってビットの一つが撃墜された。
さらに二つ部屋を進むと、隠し戸の先に階段を見つけた。階段を上ると魔素の流れがおかしいのが見える。
『如月、斬るよ!』
『はいっ!』
魔力を籠めた斬撃は、簡単にオブジェを砕いた。割れたそれは力を失い、ぽろぽろと崩れて黒い砂に変わっていく。
『コゴロウ、アーニャ!聞こえるか?』
『む、ワタル殿!』
『聞こえてるぜ!』
これで念話妨害は解除した。
『こっちには
『どうやってであるか!?』
『そこはフィーリングで!』
『助言の中身が無いのである』
『知ってるだけマシでしょう』
範囲はそう広くないはずだが、入るまで感知するのは難しいだろう。もしかしたらアーニャなら見えるかもしれないので、注意してもらうメリットはあるはず。
『殿下たちは地下みたい!ただ、俺は
救助を頼もうとした所で、戦斧がこちらに向かって振りかぶるのがビットから伝わって来た。
その件が降りぬかれると同時に発生した、無数の空刃が床をぶち抜いて飛来した。魔物のオブジェを破壊したことで居場所がバレたかっ!
俺が足元に
やはりこの状況、、防御面では不利か。殺すつもりなら何とかなりそうだが、出来れば無力化して……。
そんな考えが頭をよぎり、対処できる術を探し……そんなわずかな時間に、戦士は自在飛翔で屋根上へと飛び出してきて。
まずいっ!
その身体に集まった魔力に、一目で身の毛が与奪。
「
咄嗟に発動できたのは、使い慣れた
「
閃光と共に空間が裂け、大気と共に屋根や破壊された瓦礫が亜空に飲み込まれて渦となる。
「がっ!ぐぅ!?」
断裂の発生時間はわずか。だがその亀裂が消えた瞬間、亜空間に圧縮されていた質量が一気に解放され、身体は成すすべなく吹き飛ばされた。
意識が……飛ぶっ!?
地面に叩きつけられずに済んだのは、ギリギリのところで弥生が着地してくれたから。まだ生きていることに気づいて、
……HPが0に成らなかったのは幸運だった。鎧はひしゃげ、蛸足も蜘蛛足も曲り、鉄くずとなったカイトシールドが転がっていた。弥生が咄嗟に取り出してくれたらしい。
回復後のHPでも残り5割。しかも状態異常が中等症から治らず、最大HPが減っている。エリュマントスにやられた時よりひどいな。
『……弥生……無事か?』
息が苦しい、鎧が曲がって潰れているようだ。
『うぅ~……ちょっと……』
『出来るだけ収納して休んでくれ。後は何とかする』
『……ごめんなさいですぅ』
鎧の大部分が消え、無事だったのは背版くらいのようだ。
糞ったれ。人間相手に討つ技じゃないだろう。
『如月、睦月……無事か?』
身体を起こして初めて、まだ太刀を手放してななかったことに気づいた。
『うちは弥生が背に庇ってくれたから無事やけど……』
『……ごめんなさい。わたしは無理そうです』
刀身にダメージは無いが、対魔スキルを行使しすぎて限界らしい。魔力が入っていく感じが無い。ステータスの参照も切れていて、今の如月はただの太刀だ。
『鞘は……吹き飛んだか。
『ワタルッ!大丈夫!?』
アーニャからの念話に、死にかけだと返す。しかし寝て居られる余裕は無い。
「あれを受けて原形をとどめているとは……化物め」
「人間相手に伝説級スキルなんて使うんじゃねぇよ……俺じゃなきゃ原形とどめてねぇぞ……」
吹き飛ばされた俺が生きていることに気づいた戦士が下りてきている。
即座に追い打ちをかけて来ないのは、生き残ったこちらを警戒してのことだろう。
「無駄な抵抗は止めよ。結界石を破壊したのは見事だが、ワシが居る限り、ここは破れぬ。正門から攻め入った輩たちも時期に制圧されるであろう」
……3次職がそう守りについて居るとは思えないけど、長引けば数で不利になる。
「……命のやり取りを……するつもりは無いんだけどな」
邪教徒だろうが、犯罪者だろうが、積極的に殺す理由は俺には無い。
これまでの闘いの中で殺してしまった相手がいないと言い切れるわけじゃない。集合知に根付く記憶に引きずられることもある。それでも、死にはしないように気を使って来た。
「何を?」
掲げた手から放たれた大口径ライフル弾は、戦士の右胸に当たりぶち抜いた。
……
「……ば……か……な」
呻き声を上げて戦士が倒れる。周囲を取り巻くよどんだ魔力が晴れるのが分かった。
……死んでも恨んでくれるなよ。
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