第448話 テラ・マテル襲撃戦1

 爆音と共に北の詰所から火の手が上がり、作戦の火ぶたが切って落とされる。

 初手の攻撃を仕掛けたのはダンジョン組と、隠れる必要な無くなった亡者たちだ。すぐに別の詰所からも火の手が上がる。


「始まったな。こっちも仕掛けよう。魔力探信マナ・サーチ生命探査ライフ・サーチ土人形クレイドール!」


 INTの底上げは既に終わっている。半径二キロを超える術の範囲に、合計12体の小さな泥人形が出現すると、火炎球ファイアーボールをあたりにばらまいた。 それが光と爆炎を放ち、街のいたるところで火の手が上がる。


 音を聞きつけた魔物や邪教徒達が動き始め、街中の空には照明弾フレアが討ちあがっていく。


「人が居ないから気軽に吹き飛ばせるのは楽でいいな」


 兵の詰所で治安維持を担っているのは、24時間働ける魔物だけだ。俺達からすれば弱い100G級の魔物しかいないし、初級魔術をバラまけば比較的容易く倒せる。


『それでは、こちらも始めるである』


『二人とも気を付けて』


『わかってるよ!』


 王子たちが隔離されている施設の半径1キロには、高速移動系スキルの発動を妨害する術が常時展開されている。救出には直接乗り込むしか手立てがない。

 街中で亡者たちが騒ぎを起こして敵の兵力を分散させ、その隙にアーニャとコゴロウが北西から、俺が南東から収容所を目刺して進撃する。

 どちらから収容所に居る妨害スキル持ちの魔物か、妨害用の呪具かを破壊すればミッションコンプリートだ。


「そこの者!止まれ!」


 農地と民家交互に並ぶ砂利道を、収容所の塔を目刺して走っていると、目の前に魔物の集団が飛び出してきた。さっきサーチに引っかかった感覚があったから、こちらの動きに気づかれたな。


「止まれと言われて、止まるわきゃなかろう!」


 そのまま石投槍ストーン・ジャベリンを少し手前の足元に向けて打ち込む。

 敵は魔術の発動に気づいて飛びのくが、砂利道に突き刺さってはじけた大石礫は、はじけて散弾となって降り注ぐ。運の悪かった一匹が、大きめの礫の直撃を受けて霧散した。


「こいつ!」


 倒せたのはオークか?リザードマンの槍兵に、コボルトの剣士。後は分からん。


火散弾ファイア・スプラッシュ


 だけど後衛の一体は術師だったようだ。目くらましと足止めを兼ねた火箭が、視界一杯に広がる。


『突っ込むよ!』


 弥生に念話を飛ばしながら如月の鯉口を切り、息を止めて炎の中に突っ込む。衝撃は感じるが、弥生の盾を突破するほどの威力は無い。


「っ!?」


 リザードマンが一瞬驚きに動きを止め、あわてて槍をふり降ろすが、その前に間合いに飛び込んでいる。左手で抜刀した如月が、リザードマンを槍ごと逆袈裟に切り裂いた。

 消えゆくそいつの身体を蹴飛ばした時、その背後から飛び上がって来たコボルトを、弥生が蛸の足オクトパスで受ける。


『はいっ!』


 胸を貫かれたまま魔弾マナ・バレットを叩き込まれて、コボルトもあっさり霧散した。後二匹。何かスキルを使おうとしているのは分かるが……。

 その瞬間、片足に衝撃を受けてつんのめる。


鋏罠ベアトラップか!』


 若干だがダメージも入る設置系罠スキル。だがINTが足らないのか防御を抜くほどではない。それでも速度が落ちた瞬間を狙って、術師が火炎球ファイアーボールを発動した。

 良い連携だが、残念ながら通じないぜ。

 飛来する火球を如月で切り払うと、術は発動せずに消える。同様にして鋏罠ベアトラップを解除した時には、蛸の足オクトパスからの砲撃で残りの魔物を弥生が吹き飛ばしていた。


『次は来ますかぁ?』


『わんさか来そうだね』


 最初の火の手が上がってからまだ二・三分だが、すでに魔物たちは迎撃の動きを取り始めている。逆に邪教徒は、生命探査ライフ・サーチの動きからして街で上がった火の手の方に対処しているのが分かる。

 分断は予想通りうまく行きそうだ。


『蛸足と蜘蛛足を使って走りますかぁ?』


『まっすぐ向かいたいから、道を外れたらお願い』


 寄って来る魔物たちを魔術で牽制し、たまに人の居ない建物を魔術で吹き飛ばして破壊工作をしながら進む。民家や農地は蜘蛛の足スパイディで走破すると、数分で目の前に高い塀が見えた。


 こちらは裏側。収容施設の外周には領主ロードの結界が張られていて、外からの攻撃を防ぐとともに出入りを防ぐ。正規の入り口に向かったのはアーニャとコゴロウ。俺は裏から力業で結界を突破するのが仕事だ。


 蜘蛛の足スパイディで地面を蹴り、その塀に向かって高く飛ぶ。


『如月、行くよ!十字飛斬クロス・カッター!」


 退魔の力を乗せた斬撃が、建物を護る防壁とぶつかって閃光をまき散らす。スキルのエネルギーを光に変えて散らす防壁。さすがは領主ロードのスキル。雲散霧消を乗せた如月のスキルでも打ち消し切れていない。

 だけど、それだけだ。


理力の剣フォースソード音速斬りマッハ・スラッシュ!」


 魔剣士の踏み出す者アドバンスとして、今使える最大威力の組み合わせ。障壁に阻まれて停滞する十字飛斬クロス・カッターに重ねるように打ち込むと、結界自体が光を放ち、縦に裂けて崩壊していく。その隙間に落ちるように、俺は収容所の中へと飛び込んだ。

 領主ロードのスキルは、破られるとすぐには再使用リキャスト出来ない。ここの領主のレベルが大きく変わって居なければ、10分から20分ほどは復帰しないはずだ。


『侵入成功』


『こちらも門は突破したのである!』


 ここは裏庭か。反対側からは戦闘の爆音が聞こえている。こっちは裏だからか、防衛の兵が居ない。ただこちらから侵入したのは気づかれたらしい。


 「……っ!」


 こちらに向かって動き出す敵を捕らえた反応が、突然乱れて消える。ジャミングされたか……魔力探信マナ・サーチ生命探査ライフ・サーチ共に、ノイズが混じって敵の位置が分からない。

 王子たちはこの建物に入った時点で詳細な場所が分からなくなっている。念話も夕方から通じない。小妖精の眼を通して見たここは、魔力の流れと空間がおかしなことに成っていた。石切り村に設置されていたのと同様の呪具があるのだろう。


「まぁ、しらみつぶしに探していくしかないよな」


 如月を弥生に預け、睦月を抜刀。魔力を籠めて目の前の石壁を斬りつけると、豆腐を斬るがごとく刃が入る。


「でいっ!」


 蹴破るとそこは倉庫だったようだ。この世界の建物はガラス窓が無く、換気の為の小穴が空いているだけなのが殆どだから、外から中の様子が分からない。

 そもそも収容所がそんな見通し言い訳は無いのだが、豆腐建築ここに極まれりと言った外観だ。


『吹き飛ばしますか?』


『殿下達に当たるとまずい。地道に斬って進むよ』


『任せとき!石壁でも鉄のトビラでも、なます切りにしたるで!』


 ……包丁じゃないんだからね。

 そもそも、この世界になますってあるのか? 翻訳は集合知が良い感じに俺の知識とのすり合わせをしてくれているだけで、細かい互換は良く分からない。

 睦月がちょっとおかしな関西弁モドキを話すように成長したのも気にはなるのだけど、調べたところで何の足しにもならないだろうから放置している。


「うわっ!なんだ貴様!」


「侵入者だよ。雷撃弾サンダー・バレット!」


 進むと邪教徒らしき男が手仕事をしていた部屋に出た。こんな時間までご苦労な……ふむ。


「なぁ、あんた。モーリス王子とワン領主はどこに居る?」


「………………」


 返事がない。気絶しているようだ。結構威力を絞ったが、余り戦闘力の無い職だったのだろう。


「しかたない。……治癒ヒール


 回復魔術をかけてから、男の頬を優しく叩いて起こす。

 ほら、お目覚め。力加減を間違うと首が一回転して永遠に寝ちゃうから、さっさとお目覚め。


「う……うん?……はっ!キサマ!なに……なんでしょう?」


 首元に剣をつきつけたら素直に黙る。話が早くて良い。


「モーリス王子とワン領主はどこに居る?昨日ここに入って来た二人だ。正直に答えれば手荒な真似はしない。答えなければ殺してから亡者として再利用してやる」


「落差ひといっ!」


「ツッコミはいらん。だべってる暇は無いんだよ!どこだ?」


「ひぃ!わかった!王子と領主かは分からないが、昨日来た奴なら地下だっ!」


「どこからいける?」


「そこのトビラを出て右に進むとホールを通って中庭に出れる!正面の建物の中を左手に進むと地下に行く階段がある!そっから先は知らない!本当だ!」


 地下か……。ジャミングはまだ有効で、サーチはつかえないし、地下は反応が悪いな。床を斬ってもどこが地下に繋がってるか分からん。


「……後は、この建物周辺に妨害魔術を施している魔物か魔道具は何処にある?」


「知らんっ!本当だ!俺は下っ端で、ここの設備の詳細は聞いていない!」


 ……確かに、邪教徒の証は幹部ではないな。


「居たぞ、侵入しゃ」


『今お話し中です!』


 ゴウッ!と轟音御上げて、俺が空けた壁の大穴がさらに広がる。

 蛸の足オクトパスから放たれた魔投槍マナ・ジャベリンが、集まった守備兵の魔物をまとめて吹き飛ばした。


「どこか怪しい所は無いか?」


「ひぃ!上だ!中央棟の3階はいつも警備が居て、人が近づかないようになってる!建屋の真ん中だから、一番怪しいだろ!」


 地下では無く上か。魔術は地中より空中の方が広がりが良いから、魔道具を置くなら上なのはありえそうだ。


「おっけー、最後の質問だ。もう労働時間は終わっていると思うが、残っている人類は何人くらいいるか分かるか?この建物に居るか?」


「へ……あ、警備の兵が10人居るかだ!ここは見ての通りの作業部屋で、もう俺以外帰っちまった!俺は急ぎ召喚の義をやるから準備しろって言われて……」


 なるほど。こいつは錬金術師か。

 部屋の中を見渡すと、薬品や魔導銀ミスリルパウダーを始めとした素材が並んでいた。

 人を魔物に変えるのは魔物独自の技術だが、こういった素材も使うのか。魔物側が何に使うか説明しないせいで、邪教徒の知識集合知にも情報が無いな。


「おっけー。弥生!そっちの壁を吹き飛ばして」


『はい!』


 弥生が蛸の足オクトパスから魔投槍マナ・ジャベリンを発動させ、建物の内壁を吹き飛ばす。これで中庭まで一本道だ。


「よし、お前は用済みだ。大人しく寝てると良い。眠りの霧スリープ・ミスト


「ひぃ!命ばかりはお……た……」


 魔術を受けて、男が抵抗無く眠りにつく。最初の雷撃弾サンダー・バレットでHPが0に成って居たのだろう。俺は吹き飛んだ部屋を抜けて中庭へと飛び出した。

 えっと、地下はあっちの建物で、邪魔な魔物は多分上……!?


「天誅っ!」


 見上げたその時、空から黒い影が落ちてきた。

 慌てて飛びのくと、ザッと音を立てて大剣が地面に突き刺さる。


「何奴じゃ!」


「斬りかかってから問うんじゃねぇよ!」


 落ちてきたのは大剣を携えた戦士。魔力の動きが人類であることを告げている。

 照明弾フレアの下で、兜をかぶっているから顔が分からないが……体型からしてドワーフか?


「侵入者なぞ、してから問えばよい!入り口も騒がしい。大人しくしてもらおう」


「ごめんだね。こっちは王子と領主にしかようは無いんだ。怪我しない内に家に帰って布団にくるまって寝てろ」


 ……こいつ、多分強い。2次職……3次職か?魔力量が多いし、動きが物理限界を突破した人間のそれだ。油断できる相手じゃないな。


 見合ったのは一瞬。先手は相手が地面を蹴って……後ろに跳んだ!?


狂乱空間カオス・フィールド!」


 その瞬間、空間中の魔力がねじれて暴れた。


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