第442話 追われる者と追う者と
『なんでバレたんでしょうね?』
邪教徒達のギルドで、手配書が出回っているのを知ってから幾ばくか。
怪しまれない様に宿に戻り、テーブルを囲んで念話でため息をつく。
アマノハラから南南西に進むのは、魔物もほとんど発生しない原生林だ。追跡されていたとは思えないんだけど。
『そう言うスキルが有るのでは?』
『過去の情報を引っ張り出したり、痕跡を探ったりする術も無くは無いんですけどね』
今回は
『痕跡もそうだけどよ。手配内容のが問題だろ。
手配の内容は、クトニオスに侵入したクロノス騎士・および冒険者の討伐。
主犯は魔剣士・もしくは魔術系3次職のワタル・リターナーで、同行者は数名。さらに操られた死人が十数名いると推測。目的は都市にいる奴隷、重要人物の救助と考えられ、現在はクトニオスの東北部から中部に潜伏している可能性がある。とされていた。
『今回の目的はミハイル王子たちにも伝えていませんから……いくら何でも、どこかから漏れるとは思えない。漏れたとしても鼻で笑われるような内容なんですよ』
『そりゃそうだ』
いくら身内だったとしても、邪教徒の言う事を信じてこんな所まで取り返しに行くのは無茶無謀をいくつ重ねても足らない。
『……ふむ。ならば、はじめからその可能性を考慮できる人物が捜査をしている、という事であるな』
俺達がウェインを取り返しに行くと思ってる人物?
『……あの……プルートって死霊術師が絡んでいるって事ですか?』
コゴロウの灰色の脳みそは、どうやら一つの予測にたどり着いたらしい。
『我らがクトニオスを目指しているのを知っているのは、仲間内を除けば、売り言葉に買い言葉で逃げ先を漏らした奴だけである』
『そりゃそうですが……わざわざ追いかけて来るなんて思いますかね?』
『人は執念深いモノであるからな。目的を重要人物の救助と言っておきながら、誰か、どこに居るのかは書かれていなかった。おそらくであるが、ターゲットがどこに居るか、警戒強化でバレる可能性を考慮しているのである』
……いや、それも分からなくはないけど。
『順を追って説明するとであるな、まず目的を要人救出と明言しているのがおかしいのである。クロノスが国家的な動きをするなら、未開地を開拓して攻勢のための拠点を作ると考える方が妥当。さらに言えば要人救出なら昨今の情勢で、重要人物と言えば今回送り届けたモーリス殿下やワン閣下の方である。彼らの救助が目的なら、南東の都市ディアーナに辺りにまず目を付けるのがセオリーである』
ディアーナはウーレアーの南、シガルタ山脈の端に位置するクトニオスの都市だ。魔物たちは底から南東に進む形で山を越え、モーリス、ホクサン、ホクレンに侵攻した。簡単に地理を説明しただけなのに、よく覚えている。
『我々が侵入したのは確かにウーレアー北部であるが、要人救出を想定しているなら探索範囲はディアーナからウーレアーの山岳地帯に重点を置くべき。それをこのテラ・マテル周辺まで広げ、ディアーナを範囲に含めていない。つまり、相手は侵入者がディアーナには向かわない、と考えているのである』
『なるほど。確かにそうだな』
『そのモーリスの殿下も、ホクサンの領主もウーレアーに居たんですけどね。しかも移送して、襲撃されている』
『うむ。彼らの移送が侵入が発覚した後に決まったかは不明である。ただ、防衛という点ではここよりウーレアーの方が大分マシである。先に判明していたなら、目を背けるためだとしても危険は犯さぬであろう。ワタル殿の調査でもその様子は無かった』
それもそう。ウーレアーで調査した限り、こっちの侵入がバレている様子は無かった。小型受送陣で手紙のやり取りをしている亡者からも、露見の情報は入っていない。
『情報伝達の時間差も考慮するなら、敵は恐らく我々が”この辺に居るだろう”と予測を点けてあの討伐令をバラまいたと推測するほうが理に適うのである。中央部に向かうと推測されている。この推測は普通は……少なくとも第一報で出てくるものではないのである』
確かに……ギルドのおばちゃんの話だと、アマノハラ復旧と同時に張り出されたのは偶然で、今日速達で回って来たモノらしい。ウーレアーから発信されたのだとすると、発行のタイミングは昨日かそこらか。
『ネクロス襲撃はバレてないかな』
『パッシブスキルの範疇なら違和感はないぜ』
『あの場で取り囲まれなかったのであるから、おそらく大丈夫であろう。ギリギリのタイミングであったならもっと騒がしいはずであるし……そもそも、あの偽装は普通見抜けぬのである。あんなものが世に出たら、大混乱必死である』
あ~、うん。そうだね。
エルダー謹製の
『某の推測が誤っているならそれでも良いのである。ただ、主犯と名指しされている事を考えれば、ワタル殿と一時でも相対したことがある相手、死霊術師やノーフェイスなる魔物が、この手配にはかかわっていると見るべきである』
俺が直接会って戦った相手か。……ノーフェイスとブギーマン、それに死霊術師プルート。アマノハラで戦った名無し共を除けば、この三人?が当たるわけだが……俺達がウェインを追っている事を僅かばかりでも知っているのはプルートだけか。
『……あ……まずいな。アーニャ、亡者を全員撤収させて合流!ダラセドさん、一度
『ん?どうした?』
『敵に死霊術師が居るなら、
そもそも、中級以上の探索魔術・スキルは察知されやすい
ダラセドさんを受送陣で
『ウーレアー周辺に潜入してもらっていた人たちにも撤収指示を出しました。あっちに戻る手が無くなりますが、それは諦めます』
緊急事態を告げる札と簡単な状況と指示を手紙に記して、携帯用の受送陣で転送した。すでに応答も貰っている。問題が無ければもうすぐ撤収が完了するだろう。
『受送陣はどうするであるか?あれは見られてもまずいであろう』
『一応作っておいた自壊陣を使ってもらいます。魔術の痕跡は残ってしまいますが、詳細は分からないはずです』
受送陣の台座に、錬金術スキルの
ただし受送陣を作るには踊らなければならない為、出来れば使いたくなかった。
『これからどうすんだ?トニーさん達と合流しないといけないし』
トニーは
『今は念話の範囲外。使役のクリスタルを持ってもらってるから、三人とも場所は分かる。ちょっと無理してでも合流するか……モーリス殿下たちもどうしよう』
元々はネクロスとして出発した後、こっそり再侵入して”神隠しにあったてい”で行方不明になってもらう予定だったが。
『こちらの狙いが
『念話でしゃべりながら考えるのは止めるである』
『ああ、すいません。プルートが敵だと仮定すると、生きてる人間じゃないとこちらの動向が筒抜けになりかねない。でも亡者さん達が動けないとなると、情報が欲しいけど人手が足りません。打開策を考えないと……』
手っ取り早い人手として、死者に頼って居たのが裏目に出ている。狂信兵団には
タリアが居てくれれば天眼通・天耳通で情報を集められるんだけど……向こうから定期連絡は来てるけど、同胞の確認はまだ出来ていないようだ。送り出しておいて、呼び戻すのも情けない話だが……。
『ワタル殿。少し……』
俺の思考を遮る形で、コゴロウから
『……
外していた選択肢を使えと、そう背中を押すために。
………………。
…………。
……。
□鉱山都市ウーレアー郊外□
「……何か動きがあったみたいですね」
「来るか?」
一緒に居た軽装の剣士が声をかける。日本でなら打刀に分類される曲刀を下げた侍。名をソウゲツ。彼はフォレス皇国の隠れ里で、直接ワタルと戦った武者であった。
「いえ、監視を解いたようです。警戒していた斥候が引きました。こちらが気づいていることに気づかれたか……斥候職を連れてこなかったのはちょっと失敗でしたね。ヴァイスァヴァルト殿、わかりますか?」
「向こうの索敵範囲が広すぎる。ここからでは大きな揺らぎが無い事には……な。ただ、気づかれているわけでは無いはずだ」
ヴァイスァヴァルトと呼ばれたのは、髪の長い柄エルフの男。彼は精霊使いであり、索敵の最終、敵の自分たちにスキルや魔術の影響が及ばないよう魔素の精霊に呼びかけ続けていた。
「では距離を詰めましょう。幸い拠点は分かって居るのです。リターナーが戻ったのが確認できれよし。ヴァイスァヴァルト殿、気取られないよう移動を」
「分かって居る」
プルートがウーレアーに伝令を飛ばすのを待って、ヴァイスァヴァルトが精霊に呼びかける。すると彼らの周辺のみ草木が捌け、平たい地面が顔を出す。そしてプルート達が歩き始めると、その周囲だけが岩も倒木も崖も同じように開けて平地に代わり、
歩いた後には元の森に戻って行く。
そうして人の手の入らぬ山林を、まるで舗装された平地を歩くかのように進んでいく。
「……反応が戻りませんね。もうすぐ拠点が探査範囲にはいりそうですが……ここまで下がったという事は気づかれたのでしょうか」
「距離があって
「少なくとも、アクティブスキルの影響は我々まで届いておらん。……いや、待て、魔力に反応だ。かなり大きな揺らぎがあった」
想定していた敵の拠点と思しき地点に残り一キロちょっとと言った所で、ヴァイスァヴァルトは精霊づてに大きな魔術の揺らぎを検知した。それは隠匿するつもりの無い術が行使された事を示す。
「気づかれた?」
「……一気に詰めましょう。飛ばしますよ」
そう言ってプルートが
森の影に溶け次に現れた先では、深い森の中に似合わぬ風が渦巻き、砂塵が待っていた。
「うへっ、なんだこれ?なんか細かいのが舞ってる?」
「砂でしょうか?……周囲に死者の反応がありません。生者もです」
プルートは周囲を見回しながら、スキルを発動する。しかしながら、先ほどまで居たはずの亡者も、人らしき反応も探査には引っかからなかった。
「魔術が行使された痕跡がある。
ヴァイスァヴァルトが精霊に頼んで魔術の痕跡を調べるが、分かったのは使われたっ術のいくつかと、使った術者のINTが高い事くらい。これまで捕らえていた痕跡は確認できなかった。他に分かるのは、目の前の地面二メートル四方ほどが荒れているくらいだった。
「……おそらく気づかれたのですね。ウーレアーに戻りますよ。ネプトゥーヌスに戻らなければ」
僅か20秒ほどだろうか。プルートは状況を思案して、そう結論を出した。
「おいおい、いきなりかよ」
「理由は移動しながら。
プルートは即座に撤収を決めると、転移魔術を発動した。
3人の邪教徒が影に溶けると、原生林にはまた人の寄り付かぬ静かな時間が流れ始めたのだった。
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