第133話 アンナのお願い
国王陛下との謁見後、グレイビアード孤児院でアインス男爵に聞いた捜査状況を報告した。
時間的には、コーウェンさんの治療を行う数日前の事である。
「様子を見には行けるらしいが、どうする?」
「行きます。……俺だけじゃ難しいですね。ラッツとグレイブにも相談しないと」
そう答えたのは、グレイビアード孤児院の成人で、賢者の才能持ちのレンジ。
名前が上がった二人はエイダール孤児院の成人して冒険者ギルドに登録した子。ラッツは最初にエイダールを訪ねた際に案内してくれた少年だ。
彼らは最近その3人でパーティーを組んで、タリアを引率に森に行ったり、逆に未成年者の引率をしてくれていたりする。
「他に行きたい子は居るかな?」
そう聞くと二人ほど手が上がる。どちらも攫われた子と仲が良かったらしい。
「未成年を連れて旅をするのは無謀では?」
「話を聞く限り村への移動は2~3人だったらしいから、俺が護衛に着けば何とかなるんだよね」
「……タリアさんやバーバラさんほっぽり出して良いんですか?」
「タリアはともかく、バーバラさんは俺の部下じゃないから別に休暇でも……いや、男爵の命令的にはそう言うわけにもいかんか」
バーバラさんはまだ行軍を定借させられてないから、孤児院組と合わせてランニング、というのも手だな。
封魔弾の卸しで日銭は稼いでいるけど、MPを現金化するのは限界がある。
報奨金は貰ったけど、そろそろ魔物を狩ってお金を稼ぐ時間を作っても良いかも知れない。
「出来る限りサポートはするから、とりあえずみんな
「そんなに早く2次職に成れるものですか?」
「技量が見合わなくても、スキル行使するだけなら無理を通せる。どうせリタさんは冒険者に成るわけじゃ無いんだから、必要なスキルを覚えられればいいんだよ」
優先順位が高いのはそれなので、さっさとレベル上げをしてしまおう。
引き取られた子供に会いに行くスケジュールを調整した後、少しだけ子供たちの相手をする。
グレイビアードの年齢はエイダールに比べれば高めなので、勉強を教えたり、作ったゲームを一緒に遊んだりと言った具合だ。
「貰っておいてなんだけど、こいつダメだと思うんだよなぁ」
最年少組とジェンガを遊んでいると、アンナがぼやく。
「地下に居る時は良い気晴らしになったろ?」
「すげぇなったけどさ、むしろ遊びたい奴が増えすぎた。リバーシとか時間があるときは何人かがずっとかじりついてるぞ」
「ああ、まぁこの国も庶民向けのテーブルゲームとかは無いからな」
この手のゲームは、貴族階級の娯楽として多少ぞんざいする位だ。
元々歴史のあるゲームもあれば、魔物産のゲームも存在する。娯楽も十分に価値のあるモノ、だからな。
そう言った開発も魔物側の方が進んでいる。
「……まだここにしか置いてないからな。いっその事、売って賭けリバーシでもやるか。挑戦1回10G、勝ったら賞金100Gとかでやったらもうからないかな?」
「あたしが言うのも変な話だけど、たぶん怒られるんじゃないかな」
アンナがじっとりとした視線で答える。
「怒られるか~」
ルールさえ理解できれば誰でも作れるからな。ゲーム盤だけで金を稼ぐのは厳しい。
商会を建てればまた別なんだけど、それもめんどい。どっかに仕事を全投げ出来る商人がいれば、名義貸しぐらいはしても良いんだけど。
「……なぁ、ワタル。時間があるならちょっといいか?」
「ん?」
珍しく真剣な表情をしたアンナに呼ばれて、別の子とゲームを変わって勉強部屋を出て外へ。
そろそろ空は薄暗くなっていて、もうすぐ夕飯の時間に成る頃合だ。
「なぁ、見つかってないもう一人。ウェインはこの国には居ないかもしれないんだろ?」
周りに人が居ない事を確認した彼女は、ゆっくりそう切り出した。
「……ああ、残念ながら」
アンナが奴隷云々を聞いたのも、ウェインという名の少年に関しての情報らしい。
年齢は13歳。種族は不明。外見は人間のようないてだ値で、目がリザードマン系の縦に切れるような瞳が特徴だが、前の院長も含めて種族名が表示されなかったらしい。
爬虫類系獣人と人間などのハーフだろうと推測されるが、伝聞系の情報だけでは俺でもよくわからん。
「……頼みがある。あたしを鍛えてくれないか?」
「んん?」
アンナはまだ成人を迎えていない。経験値は稼げるが、
「……ウェインはさ、あたしの弟なんだよ。あ、もちろん血のつながったってわけじゃないぜ。ただ、同じ日に孤児院に捨てられたらしいんだ。ちょっとだけ年齢が上だったあたしが姉で、あいつが弟。前の院長が元気だったころ、物心つく前からずっと一緒だった」
……姉弟か。
「……あたしは、ウェインを助けたい。もしかしたら、
王都や大都市から離れれば離れるほど治安は悪くなるし、魔物の数も増える。
クーロンはクロノスの隣国というわけでは無いから、複数の国を跨いで子供を探すのは難しいだろう。
「あたしには力が必要だ。成し遂げられるだけの力が。あんたにとっちゃ、たまたまあったガキかも知れないけどさ、あたしにとっちゃ、多分あんたの力を借りるのが最善だ。レンジを見てりゃ、それ以上ないって、そう思う」
「買い被り……でもないかなぁ」
自分が、この世界の住人がやらない無茶苦茶を平気ですることは理解している。
「あたしに出来ることなんてほとんど無いけど、出来ることなら何でもする。金は払えねぇが、国をでた後なら、あたしを借金奴隷として扱ってくれても構わねぇ。……頼むよ。あたしに力を貸してくれ」
そう言って頭を下げる。
「ずっと、そんなこと考えてたんだな」
「……レンジを除けばあたしは年長組だからな。あたしの個人的な考えで、下を危険にさらすわけにゃ行かねぇよ。……なぁ、頼むよ。あたしだって、国とか、そう言うのの仕組み勉強してるんだぜ。多分、ワタルじゃなきゃダメなんだよ。あたしの直感がそう言ってる」
……こうして何かを頼まれるのは2度目だな。
このくそ拾い世界で子供一人を探すとか、ちょっとやそっと鍛えてどうなるモノでもない。
まじめに考えたら、どれだけ時間がかかるか分かったもんじゃない。
「……俺にもさ、自称姉がいんだよ」
とは言え、俺はその気持ちを否定することは出来ない。
そもそも俺がこんなことをしているのは、地球に帰りたいからだ。帰って会いたい奴が居るからだ。
「・・・・・・自称って」
「俺も子供のころに両親が事故で死んで……孤児院に入っていたことが有るからな」
自称姉。関係的には幼馴染。
あいつとは施設に入った後に会って、ウマが合ったと言うか合わされたと言うか……。寮の有る高校に進んで、直接会う機会は減っていたけど、連絡はずっと取りあっていた。
……だからこそ、神のあの言葉が信じられない。あの一言が無ければ、今ほど真剣に魔王を倒そうと思っていなかったかもしれない。
「その、あんたのお姉さんは?」
「今は会えない。生きてはいるはず。会えないのは俺が故郷に帰れないからな」
「帰れないのかよ?」
「……ああ、遠いんだよ。クーロンなんかよりずっと遠くてな。とある目的を果たさないと、帰る手がかりすらないときてやがる。嫌になんな」
ほんとになぁ。
王都の事業が軌道に乗ったら、次は人形使いへ転職して、今錬金術で準備している道具と合わせて戦力強化。その後はシナジーのあるっぽい死霊術師に転職して強化。それでは中央では全く足らないから、さらにその先を考えなければいけない。長すぎる。
「……ワタルは故郷に帰りたいんだな」
「……ああ、そうだな。良い所だぞ。布団は柔らかいし、トイレはきれいだし、毎日風呂に入れる。飯は美味いし、娯楽は俺の作った物なんて及ばない物がたくさんある」
「……想像つかないな」
「だろうな。ただ、それが欲しいなら、自分で再現すりゃいいんだよ。全く同じものは無理でも、似たようなものはこの国でも作れる。誰もやってない青い海だ。きっと金稼ぎに精を出せばウハウハだぜ。……でもな、それじゃ足らないんだよ。全然足らない」
代替品を揃えても、心の隙間は埋まらない。
手を伸ばし続ければ届くモノなら、その隙間に誰かを押し込めるのも違うのだ。
「似た渇きを抱えた物ののよしみだ。
タリアの家族探しもあるし、探し人が増えるくらいは大した話じゃない。
特使なんて立場も手に入れたし、存分に使わせてもらうことにしよう。
「……すまねぇ」
「そういう時はありがとうって言うもんらしいぞ」
「……ありがとう」
なに、やるべきことに行方不明の子供一人探すってサブイベが増えただけだ。
ちょちょいと片付けてやる。
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