第12話 レベル上げを加速してみた

 この世界の魔物、特に金の魔王が生み出した魔物の特性は依然述べた通り。

 人の考える“価値あるもの”が魔物に変わり人を襲う。そしてさらに価値あるものを取り込んでその力は増大する。


 だから放り出した1G鉄貨に魔物が集まるし、それを取り込めばより強力な魔物となる。


 では、魔物は生まれるとき、成長するとき、どんな要因でその姿になるのか?

 同じ“一房の麦”でもネズミだったりハエだったりと姿は様々だ。

 どんな魔物になるか?これについては今のところ法則性はわかっていない。完全にランダムだと言うものもいれば、数が少ない個体になるというものもいる。しかしこれらは仮説の域を出ない。


 しかし、わかっていることも存在する。


「……それじゃあ、始めますよ」


 目の前には一匹の大鼠ヒュージマウス

 バノッサさんは結局帰らなかった。『俺がいたほうが何かと安全だろ?』というのが彼の言い分。まあ、そこは事実である。


 鶏ガラの入った袋を地面に放る。1キロで2Gもしたのだ。ネズミの元に成っている麦だの綺麗な石などよりずっと価値が高い。


 案の定、大鼠ヒュージマウスはその布袋にとりつくと、一気に肉体が変化を始める。


「……万物の根源たる魔力マナの、その息吹の奔流の、ひとかけ集めて力と成さん。魔力強化マナ・ブースト


 獣や昆虫と言った魔物は、自然物から発生する。取り込んでいる物の価値が高ければ、成長する際にもそう変化する。

 人工物ならゴーレムや武器防具を模した怪物。

 貨幣なら人型のモンスター。

 これは既に判明していて、確実性の極めて高い法則だ。


 ……そして鶏ガラ。つまり生き物の死骸であれば?


「ヴぁあぁおぉぉーーーん」


 見ての通りのアンデット・モンスターとなる。

 ……腐死犬ゾンビドックか。切っても突いても止まることのない猛犬。腐っているので能力は高くないが、痛みでひるまないという特性と、もう当たり前のように付いてくる疫病の所為でかなり厄介なモンスター。

 ぶっちゃけ初心者ノービスが一人で相手をするような敵じゃあない。


 生まれてすぐにこちらを敵として認識したのだろう。腐って肉の剥がれ落ちそうな四肢を動かしてこちらに走り始めるが……遅い。


「大いなる光の神の聖名において、光の衝撃にて魔を撃ち抜かん。聖衝弾ホーリー・バレット!」


 聖衝弾ホーリー・バレットはアンデットに効果抜群だ。

 まして魔力強化マナ・ブーストで威力を底上げし、なぜかINTも成長した今であればなおの事。


「ぅがぉぉ……」


 生まれたばかりの腐死犬ゾンビドックは、聖衝弾ホーリー・バレットの直撃を受けてあっさりと消滅した。

 よし、うまくいった。


 昨日のINTでは魔力強化マナ・ブーストを使ってもこいつを一撃で倒すのは無理だったであろう。

 ほんとは鶏ガラを小分けにして食わせるつもりだったのだけど、その必要がなくなっていたのはありがたい。


「……一撃か」


 バノッサさんが首をかしげているような気がするが気にしない。


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レベル:4→5(ボーナス:3→4)

Newスキル:救援要請ヘルプ

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 よし、1匹でレベルが上がった。腐死犬ゾンビ・ドックは大分格上のモンスターだからな。経験値も多い。


 覚えた救援要請ヘルプは、身動き発声出来ない状態でも辺り一帯に“ヘルプ”という叫び声をとどろかせるスキル。

 ゲームの世界じゃ意味があるのかわからないが、生き死にがかかった状態だと結構重要なスキルだ。


 ちなみに、レベル6で囁きウィスパーという離れた相手と一対一で会話するスキル、レベル7で念話チャットという……まあ、グループチャットみたいなものを覚える。


 8と9はまた方向性が変わって、毒見Lv1ポイズン・ディテクト異常耐性Lv1バット・レジスト。名前通りのスキル。


 そして10になると小結界キャンプ。1日8時間しか使えないが、その間はどんな魔物も侵入できない神の領域を作りだす。

 効果範囲内にいると使用時間が削れるので無限に安全地帯を作りだすことは出来ないけど、冒険者には必須のスキルだ。


 ……しかし初心者ノービスのスキルには一貫性が無いよなぁ。

 何を思って神様たちがデザインしたかは知らないけど、高名な学者は人の進化の軌跡とか言ってたっけ。


 道具を使い投石火を使いマッチ闇を払うトーチ助け合いヘルプ通じ合いウィスパー集団を形成するチャット食を得て毒見生存圏を広げバット・レジスト小結界キャンプで文明へと至る。


 ……最後のはどうかと思う。

 まぁ、難しいことは分からんが、なんにせよ10まで上げるの重要。


「鶏ガラを使いまわして経験値を稼ぐつもりですけど」


「ああ、いいんじゃないか。ただ、毎回自分で魔力強化マナ・ブーストじゃMPの効率悪いだろ。こっちで強化してやるよ」


「……ありがとうございます」


 ほんと、この人何を考えているか分からんな。

 今のところ自分の得にしかなってないけど……後でちゃんと話を聞く必要がある。紹介してくれたギルドの受付嬢にも話を聞いてみるか。


「それじゃあ、再開しますね」


 手近なモンスターを見つけては、鶏ガラの袋を与えてアンデット化していく。


魔力強化マナ・ブースト


聖衝弾ホーリー・バレット


 だいたいこの組み合わせで一撃だ。

 生まれるモンスターはさっきの腐死犬ゾンビドックだったり、骸骨鼠スカルラットだったり、出来損ないの獣フェリアキメラだったりと安定はしなかったが、大した差は無い。


 そろそろお馴染みとなったハエの襲来は、バノッサさんが身体能力強化の魔術をかけてくれたので楽々と切り伏せられた。


「うぼぁぁぁぁ――――――」


聖衝弾ホーリー・バレット!!」


 藁人形に鶏ガラを食わせた時に、1体だけ上半身だけアッパーオンリーという名前の人型ゾンビが出たけど、これも変わらず一撃。

 こいつ経験値多めで強いことに成ってるけど、待ち伏せタイプのモンスターだから居るの分かってたら怖くない。キモイけどさ。


 休憩をはさみながら、人目を避けてひたすら狩りを続けること半日。

 日が暮れるころには、レベル10に到達していた。

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