第11話 ストーキングされていた
「ほんとに全部復唱法で覚えやがったな」
「そりゃ、見ての通りのステータスですからね」
そろそろ日が傾きだす頃になって、ようやく
……さすがに疲れたな。
毎回毎回魔術のターゲットになっていた土人形はまだぴんぴんしてるが、俺はMPの使いすぎでちょっとグロッキー状態だ。
魔術も体を動かすのと同様、数値化されていないスタミナを消耗する。
正直なところ、今日はもう風呂に入ってゆっくり寝たい。
「その分だと、死霊術や東方系の魔術にも適性があるかもな」
「そうですね。教えてくれる人がいれば覚えられると思ってます」
死霊術は死んだ生き物にかりそめの命を与えることに特化した魔術。
東方系の魔術ってのは……ようは、仙術、陰陽術、符術など。まあ、名前の通りの魔術系統だ。
いわゆる西洋魔術――本当はJRPG魔術というべきだろうけど――系の職業である賢者では基礎も覚えることのない系統だ。
「まあ、俺には教えられんし、こんだけ使えりゃ問題は起きないだろう。今日はこれくらいにしておくか。そうだ、教本を用意しないとな」
「……ありがとうございます」
普通はどんなに適性があってもあんなに一気に詠唱を覚えられないし、覚えた魔術を記した教本を持ち歩くのはそれなりに行われている。
職業のレベルアップで覚えた魔術は頭に詠唱が浮かぶから必要ないので、教本を使うのはそれ以外の場合。分厚い教本を持ち歩いているのは、才能のある駆け出しの特徴みたいなものだ。
まぁ、集合知があるから俺には必要ないのだけど。
しかし無駄に疲れた。
「まあ、急がなくてもいいか。よし、明日はレベル上げだな」
「……いや、結構です」
ついてくる気かこの人は。
「お前の魔術じゃ、
「いや、ほんとそういうの求めてないんで」
言ってることは事実なんだけど、実際のところ凪の平原で支援を受けても効率的に美味しくない。
他の狩場へは移動に時間がかかるし、そもそもリスクが高い。遠距離攻撃を持った魔物に複数襲われでもしたら、HPもDEFも低い俺じゃあっという間に死にかねない。
「ははは、こんな機会……いや、面白そうなやつを早々手放すわけないだろう」
「何で言い換えたんですかね?」
余計に悪いし。
「明日は9時にギルドで待ち合わせだ。遅れるなよ」
そう告げると勝手に出て行ってします。……どういうつもりだ。
……まぁ、良いか。それなりに広い街だし、そうそう会うこともあるまい。覚えたいものは覚えたし、今日は帰ってさっさと寝て、明日は予定通りの方法でレベル上げをしよう。
□アインス東門□
「いよう。どうした?奇遇だな」
「………………なぜ?」
翌日。言われた時間より早い8時半に街を出ようとしたところ、なぜかバノッサに捕まった。
「お前の背中には俺の
「……
「お前のINTとMPじゃそうそう解除できねぇよ。あきらめな」
くそったれ。魔術を教わるつもりで、ずいぶんめんどくさいのに絡まれた。
マイナスではないんだけど、これからやることを考えると着いて来て欲しくはない。
「ついてこないでください」
「まあ、そう言うなって。サポートはあったほうが都合がいいだろ」
無視して歩き出してもついてくる様子だ。困ったな。
バノッサさんについてこられる問題が2つある。
一つはこれからレベル上げでやろうとしている方法。
冒険者ギルドが思いっきり禁止している方法で、しかも一般に知られていない内容も含む。
俺はギルド所属でないから直接関係は無いのだけれど、普通は危険な方法だから止められる可能性が高い。バノッサさんが見過ごすと、ギルド所属の場合罪になるからまあ確実だろう。
そしてもう一つがステータス。
-------------------------------------------
名前:ワタル・リターナー
状態:健康(18)
職業:初心者ノービス
レベル:4(ボーナス:3)
HP:10
MP:14 → 35
STR:12
VIT:12 → 13
INT:12 → 27
DEX:10
AGI:11
ATK:11+20
DEF:1
-------------------------------------------
明らかに上昇の仕方がおかしい。
MPとINTが倍以上になってる。しかもINTは訓練では上がりづらいステータスだ。ステータス的には駆け出し魔術師くらいになっている。
説明がめんどくさいし、どんな反応されるかもわからないから、出来れば見せたくない。
……が、下手をすると魔術の威力で気づかれるんだよな。
……仕方ない。一つ目の方法を告げてお帰りいただくか。
「凪の平原で経験値稼ぎか?金にならんし効率悪いだろ。森か荒野に出たほうが都合がいいんじゃないか?」
「いいえ。金銭効率はともかく、経験値はこっちで十分ですよ」
小一時間ほど歩いて、街からだいぶ離れた所に来た。道中、何匹か魔物に出会ったが特に問題にはならなかった。バノッサさんも傍観だ。
「……さて、これから経験値稼ぎをしますから、一緒にいないほうがいいですよ」
背負っていた革袋から、昨日買っておいた乾燥鶏ガラの入った布袋を取り出す。
「最初っから荷物が入ってたみたいだが、なんだそりゃ」
「……鶏ガラですよ」
「鶏ガラ?何でそんなもん……おい、待て」
一瞬首を傾げた後、すぐさま顔色が変わる。やっぱり
「冒険者ギルドの禁止事項、知らないわけじゃないよな?」
「ええ。もちろん。そして俺はギルド所属じゃないんで、直接は関係ないです。あなたが見過ごした場合どうかは知りませんけどね」
「……俺が通報すりゃ、最悪ギルドの登録資格をなくすぞ」
「構いませんよ?別に冒険者ギルドに登録しなきゃ生きていけないわけでもないですし」
冒険者ギルドは確かに大きな組織だが、別に登録が必須というわけではない。
ギルド規定はギルド員にしか拘束力を持たないし、他に代替できない役割があるわけでもない。ドロップ品の買い取りや安価なアイテムの購入に多少障害は出るが、商人ギルドが変わりの役目を果たしてくれる。
「
「ただの
力づくで止められるとちょっと面倒だが、この項目で逮捕権は発生しない。
暴行を受けたと被害届を出されれば、困るのはバノッサの方だろう。彼にできるのは、精々戻って通報するくらいの事だろう。見過ごす事にも罰則規定があるのだから、俺のやろうとして居る事に乗ることは出来ない。
必然的にここでサヨナラだ。
「……いや。止めはしないさ。確かにその方が効率がいい」
「……正気ですか?」
今度はこっちが驚いて聞き返す番になってしまった。
マジかよ。ほんと何考えてるか分かんねえ人だな。ギルドには真贋を超える嘘発見系のマジックアイテムがあるから、隠してもバレる可能性が高いってのに。
「なに。単純な話だ。……俺は冒険者ギルドを退会済みだからな」
どうやら立場を読み違えたようだった。
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