第324話 ホクレンの戦い4

『二人目!これ1万弱の奴全部子供だったりしない!?』


『三人は無理!リーダー回収しろっ!』


ああもう、わちゃわちゃしてるなっ!

地上の様子をチャットで聞きながら、思わず悪態をついた。

回収しろと言われても、二人とも影渡しの範囲内に居ない上、今は地上から800メートルの高度だ。俺が直接動くしかないじゃないか。


「さっきから爆発してるんだけど平気なのコレ!?」


「盾を貫通するほどじゃないけど、解いたらまずいね!」


念話チャットで混線しないように、隣に座るタリア叫び返す。


地上からの砲撃が泡の盾バブル・シールドに当たってはじけ、閃光と轟音を響かせ、その余波でびりびりと船が揺れる。さらに周囲をバードマンタイプが飛び回り、定期的に攻撃を仕掛けようと侵入を試し見て来る。


船の機能として展開している泡の盾バブル・シールドは魔力供給が途切れない限り消えはしないけど、代わりにゴリゴリMPを消費している上、性質上内からの攻撃が出来ずビットも出せない。

その上シールドの厚みが変わるせいで、船体に当たっていない攻撃でも船が揺れて傾く。操船以外に注意を払う余裕が無い。


敵の数は3割を切ったはずだけど、被害を出さないように考えるとまだまた気を抜けない。


『コゴロウ、下りてこっちに来た1万Gオーバーサウザンツモドキを相手にして。タリア、運転交代!俺は下で回収してくる』


『わかったのである!』


『ええ、ちょっと!』


コゴロウの了解とタリアの戸惑いを確認して、連続でスキルを発動して地上の影へと降り立つ。


『もうちょっとマシなところに降ろして欲しいのである!』


『影にしか飛べないんですよ』


太陽は西に大きくかたむき始めていた。

比較的影は大きく伸びる時間だけれど、それでも元農地で遮蔽物の無いエリアだと、転送しやすいのは魔物の影になる。敵集団の真っただ中だ。


コゴロウがスキルを乱打して雑魚を片付けていく。こちらもビットを飛ばして飛行船の周りを飛び回る魔物を吹き飛ばす。飛んでるだけで、ザコは雑魚だな。

敵が船からはがれたのを確認してその場をコゴロウに任せて、アーニャたちの方へ影渡りシャドウ・トリップで転移。

どこだ……魔力探信マナ・サーチ……いた!


今回の戦いでは、パーティーメンバー全員にバーバラさんが作ってくれた【ドックタグ】を身に着けてもらっている。

アインスのギルド依頼クエストで借りた念話チャットの範囲を拡大してくれる効果のほかに、魔力探信マナ・サーチを受けて誰かを判別してくれる効果もある魔道具だ。

見つけたのはバノッサさん。3人抱えて短距離転移ショート・ジャンプで逃げてるのか。


『バノッサさん、回収します。一瞬止まって!』


『たのんだ!』


影渡しシャドウ・デリヴァー

自分の影にバノッサさんを含む4人を転送する。


「すまん!がっつり分断された!」


「俺が飛行船に預けてきますから、アーニャ見つけてフォローしてください!」


「おう、任せとけ!」


バノッサさんから子供を受け取る。

年齢は5歳から10歳に満たない位で、全員が女の子のようだ。お国柄が出てんな。

子供とは言え、意識のない人間3人抱えるのは結構キツイ。アーニャも二人目拾ったらしいし、さっさと回収しないと。


影渡りシャドウ・トリップを連発して飛行船まで飛ぶと、客室に居た亡者の兄さんに子供を預けて再度戦場へ。


「くっそ、壁を張りやがったな」


流石にまじめに戦争するよう兵を出してきているだけはある。

こちらから見てアルタイルさん達の居るエリアの手前に、高速移動スキルを無効化するフィールドが張られていた。バノッサさんはこれに阻まれて合流できなかったのだろう。

本隊でも無いのにこの手の妨害スキルや、範囲魔術への対策など必要な準備がしっかりされている。かなり考えて街を攻めている。


……この状況、攻城兵が居るなら街の外で戦うのがセオリー。にもかかわらずホクレンの街から兵が出ない事を見ると、相当疲弊しているのだろう。

これ位の攻防は、街の周囲いたるところで起きている可能性があるな。気が重い。


バノッサさん達を探して戦場を見回すと、わかりやすく遠方で火柱が上がる。あれか。

まっすぐ飛んで1回で範囲内に二人を捕らえる。魔力反応が大きいのにしっかり絡まれてる。


『アーニャ、バノッサさん、回収します!』


『俺は不要だ!嬢ちゃんだけ拾ってくれ』


『アーニャ!』


『お願い!』


影渡しシャドウ・デリヴァーで3人を回収。こっちは男の子一人と、どっちか分からないくらい小さな子一人か。


「絡んできたのを倒したら二人目が落ちた!5000もしない感じだったのに、どうなってんだよ!」


「クーロンじゃ人が安いんだよ!注意すんのすっかり忘れてた!」


冬の寒波で簡単に死人が出るクロノスと違って、温暖なクーロンじゃ寒さで死ぬ人が少なく、結果的にすぐに人が余る。人の命が安い分、こうして使い捨てモドキの魔物にも奴隷が混じってる。


「二人を避難させたら俺もすぐ戻って、生命探査ライフ・サーチで取りこぼしが居ないか探す。アーニャはドロップ品の回収を。雑魚以外は倒すのを注意な」


「わかった!」


こうなると街から兵隊が出てきていないのが幸運だったかもしれない。

クーロン兵は人死になんかお構いなし攻撃する場合がある。下手をすると魔物を守らなきゃいけない羽目になる。


『積載量は大丈夫なの!?わたし、この機体ほんとに簡単にしか飛ばせないわよ!?』


『いざとなったら人を降ろす!毛布使ってください!』


タリアの叫びを尻目に、更に二人を引き渡して再度戦場へ。

アーニャが撹乱し、身軽になったバノッサさんが焼き払ってくれたせいで、戦場はだいぶ広がってきた。おかげでこうして見回す事が出来る。


『大将、討ち取ったり!』


叫んでいるのはコゴロウか。きっとそれは大将じゃないぞ。

飛行船を追いかけていた魔物の強力な奴だろう。彼なら一人二人抱えても縮地で逃げられるからほっとこう。


『こちらも1体倒しました。後1抱えてます』


アルタイルさん達の方に行った奴もかたずいたらしい。アーニャが1、バノッサさんが3、アルタイルさんが1倒して、もう1抱えてる?

多分コゴロウが倒したのは多分最初のカウントに入ってない。って事はバノッサさんが相手にしているのでラストか。


「ビット、行け!」


ビットを起点として生命探査ライフ・サーチを発動。生命反応を探す。

……とりあえず近くに生きてる人は居ない。後はこれを繰り返して戦場を網羅する。

こういう作業は気が利きゃない。強力な魔物を相手にする方が気が楽だ。


ビットの転送と転移を繰り返して、操作した範囲は100平方キロになるだろう。幸いにして、生きている人間の取りこぼしは無い。生存者の確認が終わるころには、魔物のほとんどを壊滅させ終えていた。


……ふぅ。ひと段落か?


さっきまで響いていた爆音は消え、周囲は静けさを取り戻しつつある。

一瞬、このまま死者の探索をするか迷って保留にすることを決めた。クーロンの国内事情を考えたら、先に片付けなきゃいけない事がある。


『アーニャ、悪いけどタリアと変わって飛行船をこっちに回して。それから状況確認』


最終的に魔物のドロップとして回収した人間は9人、全員子供で、男の子が2人、女の子が7人。

後継ぎとして長男が大事にされ、また働き手としても男が重宝されるクーロンでは分からない話ではない。


……ちょっと余計な荷物をしょい込んだ。


『すいません、皆さん。予定変更です。アーニャの運転で、飛行船はクロノスへ返します。クーロンじゃドロップに成っていた子供たちの安全を確保できない』


ホクレンの外に着陸許可をもらうつもりだったが状況が変わった。飛行船はクロノスに戻して、子供たちは一度そちらで保護してもらう。後で親御さんを探す仕事も増えそうだが、狂信兵団と合流して相談しよう。


『え、いや……でも、大丈夫なのかよ』


『人命第一。アルタイルさん、MPが十分な亡者から戻り組を4人出してください。タリア、バーバラさんも戻り組でお願い。バーバラさんはウォールで伯爵に相談を。タリア……ヤバいのに襲われた時は……最悪、精霊に何とかしてもらってくれ』


『……わかったわ』


フルメンバーなら四魔将に襲われたって何とかなると思うが、さすがに飛行船を最少人数で運用するのは危なすぎる。バノッサさんは飛行船の周りでは全力で戦えない。そうなると最大戦力はタリアだ。


貨物室に積まれていた荷物を転送で下ろした後、飛び立つ飛行船を見送った。

……夜間飛行になるな。暗視の精霊魔術が使えるタリアが居るから大丈夫だと思うけど……無事を祈ろう。


「さて、俺達はホクレンへ行きましょう」


街の状況を推測して湧きあがった暗澹あんたんとした気持ちを振り払って、街へ向かって歩みを進めるのだった。

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□雑記

慣れない荷物を抱えている、などの状態だと魔操法技クラフト舞踏魔技アーツが上手く使えません。バノッサやアーニャが子供を抱えた途端に手間取るようになったのはこのためです。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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