第335話 北境師団聴取2

「我々の献身に疑問を持たれる謂れは無いと考えますが、正直な事を申し上げますとつい先日、リターナー殿にご助力いただくまで我々も手一杯の状態でありました」


オーランド氏のその言葉に、視線が一斉にこちらに集まる。


「ほう。これにもリターナー特使殿が関わって居ると?」


「俺はただ、手持ちの回復アイテムを提供したにすぎませんよ」


「軍からも備品の提供依頼が言っていたと思うが、なぜ教会に?」


「餅は餅屋と言いますでしょう? 負傷者が多数出ている状態で、回復アイテムを有効活用してもらうためには治療院にお渡しした方が効率的かと思いまして。ああ、とはいってもただで提供したわけではありませよ。金銭では買えられぬ報酬をいただいております」


『私の時間30分をずいぶんと高く見積もってくださって嬉しい限りですが、それでごまかせますかな?』


『復唱法について訊かれたら、魔術師ギルドを締め上げるように言いますよ』


「確かに、それで多くの者の命が助かったと聞いている。どう言ったアイテムで、継続的に供給は可能な者か? 商会も有しているのであろう?」


「ええ、ええたしかに。ですがアレは保存性に難があり流通させてはおりません。提供した者も使い切ったと伺っております。出せと言われても無理ですね。まぁ、どちらにせよ封魔弾を自爆アイテム代わりに使う輩には協力いたしかねますが」


「……ほう?」


それまで比較的穏やかであったチョウ氏の雰囲気が変わる。大丈夫、どうせこけおどしだ。


「リターナー殿が何を申されているかは分からないが……」


「至近距離から旋風系の魔術を発動させれば、巻き込まれることくらい容易に想像がつくと思いますが?」


少し調べただけで出るわ出るわ。

生存者には使用者が暴発させたと言っているらしいが、ほとんどが死人に口なしだ。

旋風系だけじゃない火炎球ファイアーボール眠りの霧スリープ・ミストのような魔術も手投げ弾として運用している証言が取れた。


今の封魔弾の作成者はおそらく賢者だと思われる。極めし者マスターにもなっていない2次職程度の封魔弾と、人命を天秤にかける何て愚か以外の何物でもない。


「どこから話を聞いたか知らぬが、新たに導入したのマジックアイテムの練度が足らないのは事実。しかし、戦場に立つ以上不測の事態は起きる物。それを理解したうえで、皆命を張ってくれている」


「そもそも手投げ式の物に、旋風系を付与するのが愚かなんですよ」


範囲を広げれば数十メートルに渡って烈風が吹き荒れるのだ。付与するなら矢やボルト、弓兵に使わせるべきアイテムである。


「アレの基礎は、クロノスで私の商会が販売しているモノです。今出回っている者は余り品質が良いコピーとは言えませんが、それでもそう言う使い方をされるのは気分が良くない。特に他国での防衛作戦なんてものは利益なんてあって無い様なもの。それならせめて、気分良く貢献したいものですね。人命救助は良いですよ。皆必ず感謝してくれますから」


「……それで教会か」


おお、怖い怖い。イラついているのが分かるのは未熟だぜ。人の事言えた義理では無いけど。


「……我々としても、被害が出るような道具の使い方は本望ではない。幸いにして危機的状況からは若干脱している。注意させよう。それで文句はあるまい」


「ええ。今後のためにもぜひそうしていただきたい。私が提供した回復アイテムも、封魔弾の活用法の一つにすぎません。それだけ分かれば、後は良しなにしていただけるでしょう?」


「商会として取引する気はないと?」


「今は一冒険者として滞在しておりますので、ギルド経由で適性価格でしたら検討の余地はありますね。ああ、でもギルドマスターが不在のようなので、まともな取引は望めませんか」


ちらっとギルド職員の一団に視線を送ると、見知った顔に困った表情をされた。

やはりギルマスはまだ解放されて居ないらしい。


「……では、先ほどの魔道具と合わせて、ギルドを介して良き取引が出来ることを期待しよう。要求があればあらかじめ聞くが?」


「私が何を要求しても、内政干渉にしかならないですからね。お金で解決できれば一番です」


この後の事もあるので、やはりクーロン軍にはあまり協力したくない。

出来れば魔物の経験値とドロップだけかすめ取ってさっさとクロノスに帰りたいくらいだ。


「では、その冒険者ギルドについてだが……」


チョウ氏がそう言って渋々話を変えようとしたその時、慌ただしい足音と共に、部屋に兵士が駆け込んできた。


「ご報告申し上げます!近隣の村に飛竜が襲来し、無差別に爆撃を行った模様!既に2か所から避難レフィージされております」


「……っ!……大亀が倒されて嫌がらせに切り替えたか!緊急事態により、この会議はココで打ち切らせてもらう。失礼」


慌ただしく軍のお偉いさん型が出ていく。俺らも要は済んだのでさっさとお暇しますか。


『あれは大丈夫なんですか?』


顔色の良くない冒険者ギルドの担当官殿が念話チャットを送って来る。


『人間同士でいがみ合って居られるほど余裕はまだないですよ。こっちの戦力を考えたら、向こうも無理はしてきません。……炊き出しは?』


『傷病者から順次。軍に嗅ぎつけられるのも時間の問題ですが』


『たかが数百キロです。ガンガン撒いちゃいましょう』


『そのつもりですが、胃が痛いのはどうにもなりません』


飛行船に積んであった食料の大部分は、ギルド経由で傷病者の食事に上乗せする形で配給に混ぜた。バラまく際には、ちゃんとアース商会と俺の名前を出してもらうように言ってある。もちろん、師匠であるバノッサさんの名前もね。オーランド氏の所でも名前を売ってもらって、多少顔が利くようになってきているはずだ。


『ギルドに戻りましょう。次の動きがあったようなので、情報を集めてこちらの動きを決めます』


大声で報告してくれた内容からするに、周囲の村が襲われたのだろう。

分水地が落とせないと分かって、付近の村を潰して兵糧攻めにしようという作戦かな。長期戦ありき……という事は、ボス共はあまり出てくる気が無いらしい。


さっさと終わらせたいのに面倒な事だ。

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□雑記

腰の違和感は消え切らないものの、軽かったためぼちぼち回復してきております。

様子を見つつ更新していきますのでよろしくお願いいたします。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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