第336話 行軍の腕輪
□ホクレン冒険者ギルド・会議室
ギルドの建屋内にある8畳ほどの小さな会議室を借り切って、関係者から状況報告を受ける。
「やはり新たに周辺の村が襲われたようです。先ほどの報告では2つでしたが、3つめもありそうです」
「治療に当たった術師が聞いた話だと、空から無差別に、火球で燃えやすい建物を破壊して回ったようです。場所が離れているので、おそらく敵全体がそう言う方針に切り替えたのでしょう」
冒険者や教会の関係者が少しづつ集めた情報が、ギルドとホーキンスさんを通してここに集まって来る。
うちのメンバーではタラゼドさん達が情報を収集し、最終的にアルタイルさんが報告してくれている。そのためここに居るのはアルタイルさんのみ。コゴロウは晴れて3次職剣豪に成ったので経験値稼ぎ、バノッサさんは元奴隷の難民を育成するため、それぞれ街の外に魔物狩りに行った。
……俺も頭脳労働より魔物薙ぎ払ってる方が楽なんだけどなぁ。
「敵の目的が兵糧攻めなら、襲撃される村はもっと増えるでしょうね」
村長が納める村にも
空から、しかも遠距離攻撃されてしまえばなすすべがない。
敵は飛竜やグリフォン、ロック鳥といった飛行タイプの魔物でおそらく
遠距離攻撃を打ち込んで破壊し、反撃を受ける前に逃げるというヒット&アウェイかつ波状攻撃で村を襲った。被害が出る前に村長は住人をここに避難させたというわけだ。
大きな街に食料や燃料を供給する100人足らずの村は無数に存在する。
おおざっぱな地図には描かれて居ない村も多く、詳細な場所や数を知っているのは役人だけだろう。これらの村は戦略的にそう大きな意味を持たないため、魔物からも見過ごされてきた。
ホクレンを落としてしまえば
「ホクレン領に属する村って、いくつくらいあるんですかね?」
「正確な数は副領主か、役人しか把握していないと思われますよ。われわれ教会が無い村もあります。
そうなって来ると、広いこの国ですべての村を防衛するのは無理だな。
軍や冒険者が滞在している集落もあるだろうが、絶対数的には多くないだろう。時間と共に難民が膨れ上がるぞ。
「ジャクー方面への魔物の移動が見られるようです。バノッサ殿たちもそちらに向かった様子ですよ」
「これで
ホクレンが落ちれば周囲の村落は全て孤立する。
モーリスやホクサンが落ちて数十万人の難民が発生していると考えられるのに、ここが落ちれば100万人を優に超え、しかもクーロンは北の農耕地を失うことになる。食糧危機による混乱は必至だろう。
その影響は都市国家群にも及ぶだろうし、貿易街道が失われればクロノスも間違いなく影響を受ける。
それは東大陸から行われている中央への遠征にも悪影響を及ぼすだろう。
俺の動きと直接連動するわけでは無いが、東大陸からの遠征が無くなるなどという事に成れば、中央の攻略はより難しくなる。さすがに避けたい事態だな。
「いくつあるか分からない集落を防衛するのは困難ですね。個人的には、軍を出し抜いて敵のボスを叩きたいところですが」
「……リターナーさんは無茶苦茶を言いますね。軍の諜報網でも見つけられてないんですよ?」
俺の発現にギルドの担当官殿が顔をしかめる。
「軍の部隊が撤退したり、消息を絶ったりしたエリアの情報、手に入れられませんか? 実質的に冒険者が担っていると思うんですけど」
調査・探索は冒険者の方がスペシャリストが多い。
「……口が堅そうな知り合いを当たってみます。商談の方はどうされます?」
「ギルド長が解放されてくると良いんですけどね」
冒険者ギルドのギルド長は、基本的に戦闘も交渉も事務職も熟せるスペシャリストだ。
間に入ってもらえると楽が出来る。
「提供はするつもりなので、軍向けの腕輪は作り直します。それから、オーランドさんにお願いされた回復アイテムの備蓄もです。作業用に一部屋、もう少し小さくてもいいので貸してください。寝泊まりできると尚ありがたいです」
「わかりました。せめて人数分用意させていただきます」
昨日の夜は大部屋に雑魚寝だからな。小部屋があるとありがたい。
状況が変わったら再度招集ということで、一時解散。俺は冒険者ギルドの一室を間借りして、装備の作成に移る。
とりあえず【
それから
50個ほど頑張った所で早くも飽きて、何か面白アイテムを作れないかと思案し始めた所でお呼びがかかった。
どうも軍に拘束されていたギルド長が解放されたらしい。
「いやまいった。ずっと冒険者グループの指揮を押し付けられて身動きが取れなかったよ」
ホクレンのギルド長は30台後半から40台ほどの細身の術師。この世界の身分の高い人には珍しく、眼鏡をかけている。シュウユ・タオと言うらしい。
「それで、次の命は特使殿から魔道具をかすめ取って来いとの話だよ。緊急時とは言え、軍の無茶ぶりにも困ったものだね」
そう言って肩をすくめる。
どうやら話の経緯は全て聞いているらしい。
「時間をかければ自分達でも用意できると思うんですけどね。向うの要望はなんでした?」
「金は軍票で、事前にまとめて置けと。それも明日の朝から運用したいとのことだ。無理を言う」
いつ換金できるか分からない軍票の価値は低い。外国人にとってはなおさらだ。
ただ補給の効率化はこちらにとってもメリットがある。
「紙っぺら一枚書いてもらえれば、それでお譲りすることも出来ますよ」
こちらから要望するのは、大亀討伐の際に出来た深さ100メートルを超える沼地の復帰だ。絶対指摘されると思っていたが、横やりが入ってそこまで話が至らなかった。
「逃げられる可能性を考えたら、軍はそれで妥協する……か」
3次職相当の人間が本気で逃げたら、相当運が良くないと捕獲が難しい。スキルを封じる封護官の影響範囲に捕らえることが難しいからだ。
権力を振りかざして要求も困難。対人の特殊職である真偽官、調査官、封護官の三職は、不正が即加護の消失と天罰に直結する。しかも指示者を巻き込んでだ。投げっぱなしにしない神様は素晴らしいね。
「わかった。では
「お願いいたします。では20個お渡ししておきますね。これでアース商会製である事を布教してください」
そう言うとギルド長は呆れた顔をした。
「貴殿にはペテン師の才能が有ると思うぞ」
「金で殴るのが得意なだけですよ」
軍との交渉はギルドの方で引き受けてくれるように契約を交わす。
統治に関わる事は出来ないし、街の補給面は軍に任せよう。俺達はレベル上げのために魔物を狩るのに専念だ。
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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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