第337話 岩山の集落跡にて
翌日、朝一でホクレンを出た俺たちは、30キロほど離れた北東部の山森を探索していた。
昨日、行軍の腕輪をギルド長に押し付けた後、ホーキンスさんの所で少しだけ死者の調査を行い、魔道具化した小さな受送陣でウォールに居るであろうタリア達に手紙を送った所で、ギルドから冒険者たちの調査報告が届いた。
目下軍が警戒しているのは3か所。西の大きな集落跡、北北西部の森林、そして北部の山が局所的にせり出した地形となっているこの山林地帯だ。
魔物は北西からやってきているので、この場所は進行ルートからは外れている。故に軍の調査部隊も優先度を下げていて鉢合わせするリスクが低い。初日でアタリを引くと思えないし、とりあえず調査をするには都合が良い。
「しかし、やけに岩が多いな」
「そう言う地層みたいですね。おかげで草木が少なくて見通しは良いですけど」
この辺りは大きな岩がゴロゴロ転がっていて、高い木が少ない。気候的には十分亜熱帯なのだが、堆積物が少ないためか森林に成り切れていない。低い茂みがまばらに生えていて、地面はところどころ岩肌だ。
……大きな地滑りの跡地だったりするのだろうか。こう岩が多いと、それはそれで不思議な感じがする。
「見通しが良いのも、足場が良いのも戦い易くて良いのである。来るのは雑魚ばかりであるが」
ただ、反応が少ないというわけでは無いんだよな。
「
サーチに反応できるのに向かって来ないのは、何か別の目的があるからだと推測する。
逃げていく方はバラバラ。つまり、逃げる方向で向かう先を推測させない、くらい考える知能はあるという事なのだろう。
今日は経験値稼ぎのために魔剣士に成っているから、INTもMPも少し低い。それでもビットも含めた居間の俺の索敵範囲はおおよそ直径3キロ。この範囲内に居る魔物が、雑魚以外全部向かってこないってなると、さすがに違和感を感じる。
「この先に石切りを生業とする集落があったはずです。おそらくすでに放棄されていると思いますが、行ってみましょう」
魔物だって好き好んで雨風に打たれたりはしない。集落の跡地に陣取るなどよくある話だ。
「お前さんはどっから地図に載ってない村の情報まで仕入れて来るんだ?」
「……蛇の道は何とやらです」
まさか『集合知で知りました』とここでいうわけにも行かない。
MP節約のためにビットを引っ込めて、道なき道を村目指して進む。
本当に集まって来るのは雑魚ばかり。レベル上げの足しにもならない。
現在の所、俺は魔剣士37レベル。
バノッサさんは時の賢者の8レベル。亀へのダメージ貢献が大きく、3次職にしては大きくレベルを上げた。
転職したばかりのコゴロウは剣豪の1レベル。3次職ともなると
「クーロンで有名な魔物は七星魔とか名乗ってるんでしたっけ?」
「ああ、全部がオーバーサウザンツの後半から準ミリオンズに当たるヤベェ奴らな。前線に出るのが多いのは、
「あと分かっているのは
「ああ。数年前にオーガ
寄せ集めで
3次職に隷属紋を刻んで核にすれば行けるだろうから、そう難しい話でもないのだ。
ダンジョンのワイトキングから聞き出した情報によれば、魔物は死んでも過去の記憶を持ったまま再度顕現することが可能らしい。人格と能力は直接紐づいていないので、もとより強くなるか弱くなるかも価値次第。ただ、敗北の記憶は高い能力を生むので、その分価値も高くなるとか。なので高位の魔物が敗北した場合、そのまま戻ってくるのは稀なのだいう話だけど……。
恨みをいだいたオーガ
警戒しながら道なき道を進むと、しばらくして遠くに村の柵が見えてきた。
どうやら当たりのようだ。遠目にでも、明らかに人間でないシルエットがうごめいているのが見える。
「おお、どうやら向こうもやる気みたいですよ」
集落までの距離は7~800メートルほど。上り坂に成っていて、ところどころに茂みがあるものの見通しは良い。
そして集落の堀の前に、こちらを出迎えるように魔物たちが集まっている。バノッサさんがスキルで確認した所、多くはコボルトらしい。そこに狼、蛇、牛、熊、サソリ、蜘蛛などの魔物が混ざっている。地を這う物ばかりだそうだ。
魔物の数は100体以上いるか。魔力の反応から、
ダンジョンで戦った陸竜のような大型タイプか、それとも人型に近いタイプか……ここからでは分からないか。
「あの感じだと対魔スキルを持った術者が混じってるな。遠距離から殲滅は難しいぞ?」
「あっちもサーチの範囲から強力な術者がいることを把握してるんでしょうね。どう考えても乱戦必死ですよ。逃げたら追いかけて来るかは五分五分ですかね」
亡者の皆さんが居れば数的に楽になったのだが、今回はクラン新メンバーのレベル上げサポートに回ってもらって居ていない。
「敵に背を見せるなど武士の恥じ。バック走でもするであるか?」
「いや、そこは前に進みましょうよ。せっかく前衛二人いるんですから、素直に正面から切り込みます。サポートはバノッサさんに任せますよ?」
付喪神化しているらしい愛刀、石切りと霞斬りを抜き放つ。
剣も、鎧も、まだその力を存分に発揮する闘いをした記憶がない。幸いにして帰還の宝珠を一つ借りてきている。やばくなったらそれで脱出だ。
「では、大物は早い者勝ちで良いであるな」
「亀の経験値をもらった分、サポートはしてやる。だけど、スキがあったらこっちがもらうぞ」
「……最低でも上級スキルと高速移動を使ってきますからね。余裕こいて死なないで下いよ」
ここにいる3人は単独でも
魔物たちが、雄たけびを上げながらこちらぬ向かって一斉に動き出す。
さて、久々に小難しいこと考えずに敵を殲滅するお仕事だ。
日頃のストレスを発散するつもりでやらせてもらおう。
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□雑記
職業的な相性や装備の優劣も影響しますが、
現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212
□2023/01/23追記
近況ノートに周辺地図を公開しました。
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