第226話 亡者の限界と踏み出す者たち
移動日、と言えば移動だけするようにも思えるが、うちのパーティーの移動はもっぱらメルカバーか浮遊船だ。普通の冒険者パーティーが3日かけて進む距離でも、半日あれば移動しきる。
そんな分けで道中は、適当な人気の無い山中によって、しばしの時間をレベル上げにいそしむことに成る。
「……むぅ。これは国宝に成って然るべき逸品であるな」
とばりの杖と封魔弾を使ったレベル上げ。コゴロウは初見である。
「まぁ、この方法だと1次職80レベル、2次職20レベルで打ち止めになります」
皆の転職ついでに、ちょっと
レベルアップに必要ないわゆる経験値とは、魔物にダメージを与えた際に魔物から放出される高濃度の魔素であるらしい。
この世界には放出された魔素を、その因果の起点となった対象に収集するシステムが動いている。レベルアップシステムは、この集まった魔素を使って肉体を改造し、より高効率に魔力を事象へと変換できるようにしている。
けれどこの魔素、ただ集まればいいというものではないらしい。
そもそもこの世界は魔素が集まって疑似生命と化した魔物が存在するので、例え人であってもむやみやたらと魔力を集め続けるような状態であるのは望ましくない。
なのでレベルアップは『許容量まで魔力を貯める』+『そこからレベルアップに必要な魔力を一気に収集し使い切る』の二つのプロセスで構成されている。
ある程度レベルが上がると、ザコ狩りでレベルアップしなくなるのはこのためだ。
魔素放出量、すなわち経験値は価値の高い魔物の方が多いため、必然的にレベルを上げるには強い魔物を相手にするいつ用が出て来る。
この経験値収集量だが、魔物の強さ以外にも増やす手立てが存在するらしい。
その一つが、スキルや魔術など、自分の魔力を使って相手にダメージを与えること。これは空間に放出された自分の魔力と、魔物から解放された魔力が混ざることで、経験値として扱いやすくなるのだとか。
そして同様に、例えダメージにならなくても戦闘中、つまり時間的にも距離的にも近いタイミングで双方が放出した魔力量が多いほど、吸収率が上がる。
つまり、穴に落とした魔物を封魔弾で確殺するより、自分のスキルを使って倒した方が経験値になるし、まともに戦ったほうが得られる経験値が多い。
特定のレベルで上昇が止まってしまっているのは、一気にレベルアップに必要な魔力が集められない為だ。
今回も
これでとばりの杖を使って、さらにレベル上げを行うことが出来るようになる。……俺以外は。
俺はステータスが過剰に高くなっているので、一気に収集すべき経験値量も多くなっていて、3000Gクラスだと足らないらしい。ザコ狩りは
今後はいくつもの職を
「とりあえず、ベンさん始めましょうか」
「おう、了解」
今日は
ベンさんは50レベルの
うまく行けば槍を持つことにしたタリアに、
「それじゃあ、始めましょう」
掘った穴の中に魔物を召喚して、封魔弾で撃破。1回ではレベルアップしない。
50から51はそれなりに高い制限があるらしい。亡者の経験値は俺と折半になるという話と共に、これも
3体目を倒すと51レベルに上がる。ここからはもう少しコンスタントに上がっていくはず。
MPが足りないが、これは
そのまま56レベルまではコンスタントに上昇。昨日の夕方に
しかしそれから5匹、10匹と倒してもレベルが上がらない。
「おかしいな。経験値折半でも70くらいまでは上がると思ったんだけど」
「ワタル殿がMPを吸ってる分、余分にとられているのでは?」
「それでも56を越せないのは違和感ありますよ。51から56までは、各1匹で余裕で上がってるのに」
『タリア、申し訳ないけど槍を貸してもらえる?』
タリア、アーニャの二人は、亡者たちとパーティーを組んで、周囲の森を散策中だ。寄ってきた魔物を狩っている。範囲は俺のスキルが届く1キロ圏内。一緒に行っているフェイスレスおよびビットを使って荷物のやり取りが可能だ。
『とくに強い魔物も居ないし、いいわよ』
タリアからアパーム・ナパートを受け取ってベンさんに渡す。
「これ、タリアさんの持ってた武器ですよね」
「うん。うちで使える槍では最強の装備。使用者限定無しのステータス参照があるから、ベンさんでも使えるはず。後は強化装備を付けて、召喚した魔物とソロで戦いましょうか。とりあえず1000Gくらいから」
「ええっ!?」
蓄積分の経験値が十分だろうから、足りないとしたら一気に収集する分。
封魔弾でダメなようなら、直接格上と戦わせてみるのがよい。
「1000Gってそんな無茶な。死んじまうよ」
「……すでに死んでるじゃないですか」
「いや、そうっすけども」
俺と経験値折半して500Gくらいだろうから、これより弱いと意味が無い。
「首が飛んでも直しますよ。バーバラさん、一応サポートお願いして良いです?」
俺がサポートすると経験値がもったいない。
「わかりました」
「バーバラさんは今錬金術師で、近接戦闘能力は低いですからね。ベンさんが頑張らないとダメですよ」
「ひどいっ!そんなこと言われたら逃げられないじゃないかぁ!」
「逃げないでサクサク狩りましょう」
召喚するのはオーク
「サモン、オーク精鋭
「なんか余計な言葉が付いたんだけど!」
同じ1000Gでリザードマンも精鋭なんだし、オークも精鋭だろうよ。
「グモモォォォォッ!」
召喚されたオークが雄たけびを上げる。言葉を放さないなら、知能よりステータスを取ったタイプかな。運がいい。
「畜生!やってやる!」
槍を構えて突っ込んでいくベンさん。スキルを乗せた一撃は、相手の武器で跳ね上げられるが……戻りが早い。あのオークもそれなりの腕とステータスだと思うが、動きは負けていないな。
始めから全開でのスキルの応酬。しかしこの
「グェ!?」
すぐに良いのが入って、後は一方的。1分とかからず、倒し切った。
「……はぁ……はぁ……マジか」
一番驚いているのは当人だろう。バーバラさんの出る幕も無かった。
ダメージは……少し貰っているな。しかし亡者に成ってダメージへの耐性も上がっている。今回はそれがいい方向に働いたか。
「レベルは上がってませんね。サクサク行きましょう」
次は2000G。同じくオーク
流石に価値が倍に増えると厳しく、いい攻撃を何発か受ける。しかし受けたダメージは義体構築で治せるからな。問題無い。
三分ほどの攻防の後、かなり大胆な捨て身の攻撃で2000Gにも止めを刺す。亡者としての戦い方が分かってきたようだ。
今のでもレベルはあらなかった。
「一気に3000G行こうか」
ここまでくると、さすがにフォーマルな前衛の1次職ではどうにもならない。
ダメージは通るので、バーバラさんが
着実にダメージを与え続け、2000Gと同じくらいの時間で倒し切る。
やはりレベルは上がらないか。
「……これはダメですね」
「ダメですか……」
「ああ、ベンさんの戦いがじゃなくて、レベル、上がってませんよね」
「ほんとだ……何でっすかねぇ?」
「理由は良く得分かりません。経験値は十分入っていると思うんですけど……」
1次職を封魔弾で80レベル以上にしようとした時と同じ感じ。何かが足りてないか?
……亡者では人類の最大レベルを更新できない可能性もある?
「ベンさん、ありがとうございます。レベル上げはここまでにしましょう。えっと……今、侍は最高レベルいくつでしたっけ?」
「58である。どこの国の物か分からぬが、三日ほど前にアナウンスがあった」
「うちの亡者に一人だけ侍が居るから、まずはコゴロウと彼の二人を58に上げよう。その上で、封魔弾で59になれるかを確認。なれなければ、コゴロウが59にあげて、そのあともう一度。これで、ガイルさんが最高レベルを更新できるかを確認できる」
侍の亡者、ガイル・サイトウさん。タマット生まれの冒険者で、クロノスに拠点を置いて活動していたところ、ウォールでの戦いに巻き込まれた。別に逆立った髪型ではない……と言うか、長髪を髷のように結っている。
人毛も資源として使う東群島では、髪の長い男性も少なくない。コゴロウのように後ろ髪が短いのは少ないので、それでいい所の出なのだと分かる。
……話がそれた。
「相分かった。穴を使ってよいのであるな?」
「ええ、戻ってくるまで時間がかかるから始めましょう」
召喚した魔物でMPを回復しながら、コゴロウの1次職である侍を58レベルまで調整。
探索班と合流した後、59レベルを目指してガイルさんをレベル上げ。これは58で止まる。ベンさんは56だったが、今度は58まではスムーズに上がった。
次にコゴロウを59に上げる。全国アナウンスで名前が流れる。これが無ければもっと気楽にレベル上げ出来るのだが……。
ガイルさんの経験値を稼ぐと、侍59に上がる。
「……亡者は最高レベルの更新が出来ない、でほぼ確定ですね。それなら
「素質だけじゃなくて、そう言うのも違うんすね」
「俺の死霊術が不完全なだけかもしれませんから、50レベルに成ったらまた試しましょう」
「さあ、それじゃあ今日はコゴロウの侍と、バーバラさんの錬金術師のレベル上げに移りましょう。上がり切るなら
二人は封魔弾で80レベルまで上げた後、3000G級を協力して倒しながら、85までレベルを上げた。まだ上がりそうだけど、それでこの日は時間切れ。
明日は船が出るなら職業を戻して、次のレベル上げはボラケについてからかな。
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