第227話 成人への変化と啓示
レベル上げの翌日から船旅が続き数日。
最後の渡航前に天候不順による足止めをくらって二日。今日も近くの森か海岸でレベル上げかなと思っていたその日。
「ワタル!成人した!」
起き抜け一番、アーニャがついにめでたい報告を持って部屋に飛び込んできた。
「おお、おめでとう!」
この数日になるだろうと思っていたけど、今日だったか。
この世界の成人のタイミングは、生まれてから規定時間が経過したタイミングらしい。この世界の暦は毎年日数が変わる上、孤児院では誕生日を祝う風習が無かったため正確な日が分からなかった。彼女の誕生日は12月の15日ごろだな。
「お祝いしなきゃな」
「それより転職だろ!
成人前に貯めていた経験値は有効だったようだ。
「……あとそう言えばステータスがおかしい」
「ステータスが?」
-------------------------------------------
名前:アーニャ
状態:過剰集魔症(15)
職業:
レベル:10
HP:10
MP:11
STR:10
VIT:10
INT:12
DEX:19
AGI:15
素質:騎士適性、盗賊適正、商人適性、裁縫師適性、賭博師適性、軽業適性、目利き適性、観察眼適性、警戒適性、風魔術適正、無属性魔術適正
スキル:魔力感知3、魔力操作3、魔力制御3、
魔術:無属性魔術1、風属性魔術1、
加護:魔素の加護
-------------------------------------------
……状態の過剰集魔症ってなんだ?なんで朝から状態異常?
ってか、これで第一声が成人したってそれでいいの?
あと、これまでなかった魔素の加護ってのが増えてる。加護……タリアは空の加護持ちだったけど、魔素の加護ってのはきいたことが無い。
「……体調には大丈夫?」
「特に変わったことは無いぜ」
「昨日までは、状態は健康、だったよね」
「ああ、そのはず。その加護って奴も無かったんだよな」
成人すると同時に加護と症状が生えた?
……集合知に情報は無い。これは悩んでもダメだな。速攻で
どう見ても状態異常だが、魔術で治るか分からない。字面だけだと、むしろ悪いことが起こりそうだ。
「集合知でもわからないから、すぐに神殿に行こう。神様に聞けば何かわかるかも知れない。転職はその後だな」
さっと身支度を整えると、二人に神殿に行くと告げて宿を出る。
同室のコゴロウは既に早朝のランニングに出た後だったので、帰ってきたら伝えてもらうように頼んでおいた。
この港町の神殿は小さい。ただ幸いにして朝早いこともあり、人も少ない。これならすぐに祈りをささげられる。
「
『……是。大体何が聞きたいのかわかる』
「アーニャ、聞こえてる?……聞こえてるのか。彼女が今日成人したのですが、朝から過剰集魔症と言う状態になっておりました。過剰集魔症とはどういう状態でしょう?害はありますか?」
『過剰集魔症は、身体に過剰な魔素が溜まるようになった状態。先日回答した『人が経験値として魔力を集める許容量』を越えてしまっている状態に当たる』
ん……魔力がいっぱい溜まった状態が長く続くと良くないから、最後の一押しは一気に集める必要があると言っていたあれか?
『規定より過剰に魔力を集められてしまう。レベルアップしやすくなり、小さな積み重ねでレベルが上がるようになるが、魔王の呪いの影響も受けやすくなる』
「呪いの影響?」
『想定される影響は、魔素の物質化。どこまで影響が及ぶかは不明。初事例のため』
「初事例って……なんでまた?昨日まで健康だったでしょう?」
『魔力を収集するのは世界のシステム。それをレベルに変えて肉体を変質するのは、成人した者に対してのアップデート。レベルアップシステムの制限に引っかかるため、状態異常として表示した』
「……した?」
『スキルや加護に設定するとスルーされる可能性を考慮』
「意図的かよっ!」
何かと思ったら、俺たちを呼び出すためのメッセージか!
『未成年への過剰魔素供給は、職業システム導入後に前例がない。影響が未知数のため経過観察が必要。ただ、魔素が集まる事自体には害は無い。むしろ古の魔術師としては望ましい状態』
成人前に価値の高い魔物を倒したらどうなるか試したのが原因か。
しかし……どういうことだ?古の魔術師……1000年以上前の?
「昔の魔術師は、みんな過剰集魔症だったのか……ですか?」
『否。過剰集魔症は、今作った名前』
アーニャの問いにも答えるか。
『ただ、古の魔術師は今の人類より多くの魔力を自らの力で集める者がいた。わずかではあったが確実に存在し、彼らは人類の次の存在になった。転職システムが適用されてから、魔素を扱う人類は増えたが、次の者たちは生まれなくなった』
……これ、聞いて平気な話なのか?
明らかに今までの
『今、この世界の魔素は金の魔王の影響下にある。どれだけ呪いの影響が出るかは未知数。加護は保険。原神は喜んでおられる』
「……それを伝えるためにわざわざ回りくどいことを?」
『リソースは残り僅か。制限の範囲内で出来ることはする。貴殿は水面に投げられた石。波紋は広がり、並と成りつつある。貴女は流れの最初の一滴。これが大勢となって、世界を変えることを願う』
……俺の実験に、アーニャを巻き込んだ形か。
今の職業システム化、魔王の力の影響下で、これがどんな効果をもたらすのかは不明と。
原神は喜んでいるだぁ?それを信じて良いかは甚だ疑問だぜ。
「
『問題無いと考えている。状態的には、ステータスが高くなり、高位の職である方が安定すると思われる』
高位の職であるほど魔力をためている状態だから、むしろそっちのほうが良いか。
「……ん~、転職に問題無くて、とりあえず今すぐどうなるって話じゃないんだろ。ならまぁいいや。……ああ、でもずっと状態がこのままは困るか」
『状態からスキルへ変換可能。実施するか?』
「……アーニャはそれでいい?」
「ああ、大丈夫だぜ」
『コンバート実行。スキル、獲得EXP増加、MP回復量増加、レベルアップ障壁無効化に変換』
……絶対秘匿しといたほうが良い奴だ。ある意味俺の全職業適性とかよりヤバい。
「……多分見せびらかさないほうが良いよな」
「もちろん」
魔力制御と合わせて、アーニャは見せられないスキルが増えていくな。
「神様が喜んでいるなら、ほかにそちらから出せる情報あります?」
『……未成年者の現行下での育成は未知数。特に制御できない者が、長期間その状態に置かれると危険が伴う可能性がある。対処法も不明。覚悟を持って励むべし』
……俺が
しかし運が良かっただけだ。今後は要注意だな。
『貴女には魔力視と言うスキルが顕現している。魔力感知の上位に当り、現在は稀有。可能性を示した恩賞として、その存在を開示する』
感知にも上があったか。アーニャの見ている世界が、感知で見える世界とは違う気がしていたがこのためか。
魔力操作から魔力制御、魔力感知から魔力視……これが
『現時点では以上』
「アーニャは他に聞きたいことある?」
「あたしはもういいかな。覚えるのも大変だし」
……俺は……一つになることを言っていたな。聞いておくか。
「……人類の次の存在、それはハイエルフですか?」
ハイエルフ。伝承のみに伝わる存在。
集合知では存在するとされているが、どこに住むなど、そう言った情報がすっぽり抜け落ちている。
彼らが持っているかもしれない、1000年前の記憶も俺の集合知では参照できない。
『……禁則事項』
……答えられないか。でもおそらく当たっているのだろう。
タリアが精霊魔術士になった時にハイエルフについて調べたが、関係する知識が集合知に無かった。
集合知は、あくまでいま生きている人類の持つ知識を参照する加護だ。人類から外れた者の知識は参照できない。
……そしてそれは魔物も同じ。
「……魔物や、魔王も、人類の次の存在ですか?」
『……原神の望む在り方ではない』
原神、おそらくこの世界に俺を呼んだあいつの望む形では無いか。
逆説的に、ハイエルフは望む形なのかな。人類の次と言っているし。
「……ありがとう。俺からも聞きたい事は聞いた」
『それでは、引き続きの健闘を祈る』
普段話しかけてこないのは、何かしらの制約があるのだろう。
「……健康に影響なくて良かったよ」
「そうだな!これで心置きなく転職できるぜ!」
どう考えても魔王絡みのイベントに巻き込まれただろうに……俺よりよっぽど前向きだな。
「それで、あたしは何に転職するのが良いんだ?」
アーニャは素質が多い方だけど、まず取るべきは決まっている。
うちのパーティーに類次職が居らず、そもそも成り手が少ない、ある意味レア職。
「……盗賊、かな」
外聞なんて気にしない。死霊術師が言うのだから間違いないさ。
---------------------------------------------------------------------------------------------
□雑記
ハイエルフの名前は、第106話辺りに一瞬話題として出ていましたね。
まだしばらく出番はなさそうですが、魔物や魔獣以外にも、人類ではない知的存在たちが存在しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます