第313話 繭から繭へ
それは集落の対岸に存在し、起動すると相手側にも連絡が行く仕組みになっているらしい。
「お世話になりました。それじゃあ行ってきます」
「おう。気を付けてな」
ムネヨシさんたち
今回
必要があれば受送陣で呼び出すことになるだろう。
「しかし、ペローマからクロノスまで一瞬ですか。うまく使えばいい商売が出来そうなものですが」
「欲をかくと碌なことに成らないと思うぜ」
商売っ気の強いハオランが、珍しくタラゼドさんにたしなめられている。
彼は彼で
「まずは
マーファからは東大陸の時の迷宮、西大陸の豊穣の迷宮へ通じる転送陣がある。デルバイにも他の迷宮に通じるルートがあったらしいが、
転送陣が起動して視界が切り替わる。
目の前に広がったのは一面の農地。4つの区画に分けられていて、植生が違うことが一目でわかる。低木、果樹もあるのか?マーファは農耕の神だそうだ。
「ようこそ、人類最初の
案内してくれたのは壮年の男性。服装はぱっと見、どこにでもいる農夫にしか見えない。
転送の祭壇を折りて農道を歩く。迎えに来てくれたのは牛車だったが、さすがに人数が多くて乗り切らない。デルバイと違い、農耕のためここは気温が一定では無いので、鱗車はあまり使わないらしい。
よく見ると区画はさらにいくつかに分けられていて、さらに遠方、山肌にも農場のようなものがあるように見える。地下であるため視線の先には常に切り立った崖が映るが、その岩肌にも何か構造物が見える。
「ここでは作物の研究を行っている者が多いです。
「……管理が無茶苦茶大変そうだし、エリアも広そうですが……」
「ええ、大変ですし広いですよ。見てください、あれは壁じゃなくて中央柱です。この
……デルバイだって山があり、森があり、湖があり、地下とは思えない大きさだったのに、ここはそれ以上だ。普通の人間が歩いたら、ぐるっと一巡りするだけでどれだけ時間かかる事か。
広さは広いが、人口がそう変わるわけでは無いらしい。
長への挨拶は簡単にで終わった。迷宮を使って移動する了解も貰うことが出来た。
ただ制約もある。商売のための輸送に利用しない事。利用可能な者を増やさない事。また、移動の際に検疫を受ける事などだ。最後の1つはこの
「それから、しばらく前に迷宮への挑戦者が現れた。少し知覚の試練を見て帰ってしまった様だが、鉢合わせしない様にな」
あ、それ多分知り合いです。
……それはさておき。
一通りの注意事項を聞き、問題が無いと判断。転送陣を使わせてもらい、クロノスの地を踏む。
時の迷宮上部は3階建ての時計台だ。出口は3階の一室。外に出ると春めいてきたとは言え、ペローマと比べるとまだだいぶ空気が涼しい。
迷宮の周囲は、棘で作られた高さ2メートルほどの迷路である。時の止まった者、すなわちアンデットタイプの敵が徘徊していて、迷宮攻略の前哨戦が可能だ。
「あ~……なんか戻ってきた感じがするな」
風か、はたまた匂いか。アーニャが部屋の窓から顔を出して、懐かしむように息を吸い込む。
「時の迷宮って、クロノスのどのへんなんだっけ?」
「えっとね、王都から南東の山間。ウォールのちょい北東で、ボホールから見ると北西。クロノスは俺達が通った西側の山間街道と、東側の海側街道の2ルートがあるんだけど、その間の山脈の一角かな」
「王都とウォールだとどっちが近いの?」
「ウォールかな。通った地域で一番近いのはボホール。飛行船で数時間飛べばどっちも着くはず。とりあえず村に移動しようか。今日はそこで一泊だ」
「この人数で押しかけて平気なのかい?」
「……一応、迷宮があるのでそれなりの大きさですけど、びっくりされそうですね」
「それじゃあ、俺がひとっ走り行って門番に掛け合っておくぜ」
タラゼドさんが先行してくれることになったので、彼を先に
16人もいるとぞろぞろと、と言った雰囲気ではあるのだが、久々にのんびりと歩いて村まで到着する。
警戒の兵は集まっていたものの、入村はタラゼドさんのおかげでスムーズに行えた。寒村と言うほど小さくはないが、街と言うほど設備が整っている雰囲気も無い。そして真偽官不在。
迷宮の調査所が設置されているが、情報通りあまり人は多くなさそうだ。
「さて、俺は村長に飛行場建設の渡りをつけてきます。バーバラさん、お願いします。皆はどうする?」
タリア達は宿の確保をしてくれるとのこと。亡者の皆さんはMP稼ぎに少し村の外の魔物を狩って来るそうだ。
なので二人で村長の家を訪ねる。
村長宅は村のはずれにあった。少し広い広場もあり、かつてはココが村の中心だったことをうかがわせる。おそらくだが、発展につれて中心が何もなかったエリアに動いて行ったのだろう。
「ようこそおいで下さいました。辺鄙な村ですが、少しでも御くつろぎいただければ幸いです」
バーバラさんが騎士章を見せたからだろうけど、村長さんは初めからずいぶん腰が低い。
「お初にお目にかかります。ワタル・リターナーです。お忙しい中、お時間いただきありがとうございます」
「ワタル・リターナー殿……はて?どこかでお名前を聞いたような……申し訳ございません。思い出せず……」
「いえいえ。私はしがない平民ですから、お気になさらず。それで、伺いました要件ですが……」
村のはずれ、一部を一時的に貸してほしいとお願いする。
クロノスの農村の例にもれず、この村も周囲を壁に囲われており、その外は数百メートルにわたって高低差のある農地が広がっている。
欲しいのは受送陣を描くための直径100メートルほどの平地だが、そこまで平たいエリアは中々存在しない。農地にも段差があるし、既に種まきが始まっていて、農地を飛行場にするのはまずい。
農地を囲う策の外に発着場を作りたい。
街道沿いの適当な広場を拡張して出発してもいいのだけれど、ここは時の迷宮に近いからな。
再利用する可能性を考えて、一応交渉だけはしておく。
「……ふむ。それだけ大きなエリアですと、整備に人手が必要になりますでしょうか?」
「ああ、いえ。残念ながら必要な人では足りていますので、そちらのメリットはないかと。代わりにと言っては何ですが、来年の荒起こしまで維持していただければ、その後は畑として利用してもらっても問題ありません。冒険者ギルドからという形ですが、街から管理者も募りましょう」
「なるほど。それでしたら、東側の伐採地を使っていただくのが良いかと思います」
農地の柵を東に超えたエリアには、冬場の薪確保のために伐採して切り株だらけになっているエリアがあるらしい。一部は開拓して農地に、残りは植林して林に戻すつもりだったそうだ。
土地の使用許可を冒険者ギルド経由で契約し、ついでに管理の依頼を出す。村長にも少しだけ心付けを渡しておいた。こういうのは最初が肝心だ。
その足で場所を見せてもらうと、開けてはいるが、高低差がそれなりにある荒地が広がっていた。切り株がそれなりに残っていて、植林地をそのまま伐採した雰囲気だ。
スペースはギリギリ足りそう。高低差も何とかなる。
「問題ありませんかな?」
「ええ、大丈夫だと思います。このエリアを使わせていただこうと思います。すぐに作業に取り掛かっても大丈夫ですかね」
「構いませんが……これからですか?」
「まだ昼前ですからね。バーバラさん、おおざっぱに整備をするので、農地の保護と地面の細かい変成はお願いします」
「わかりました」
「それじゃ、
地下と違って、ここならそうそう崩れたりいない。身長10メートルを超える土人形を複数作れば、残った切り株の除去も容易く行える。
顎が外れそうなほど口を開いて言葉の出ない村長を横目に、地面の整備を進めていくのだった。
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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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