閑話 反省会をしよう 後編

「それじゃあ、まずはこちらから。タリア達が遭遇した魔人らしき人物について」


全く想定してあなかったから、問題なく2人で対応できたのは運が良かった。


「外見は中肉中背の、黒髪の男ね。顔の特徴は無い、特に美形でも無ければ、不細工でも無い感じ。魔力反応は小さくて、初めは一般職の村人かと思ったくらい」


服装は革のシャツとズボン。冬場の山中の村にしては薄着かな、という感じくらいしか特徴が無いらしい。

多分、意図的に外見の特徴を減らしてるタイプだろう。


「最初は壁の外で魔物が発生しました。壁を破って村の中に入ると、明らかにそいつが召喚して来ました。魔物の強さは、外で100Gクラス3体、村の中に入った後は……」


「驚いたのか1000Gクラスを数体ね。封魔弾で秒殺だったけど」


2次職ふたり、しかも高火力装備ならそんなものだろう。


「捉えられなかったのであるか?」


「出来そうだったのですが」


「よりにもよって最後に、蜂の群れを呼び出したのよ」


二人が揃って顔をしかめる。


「ああ、なるほど」


魔物の中には、虫の群れで1体として召喚される奴らがいる。

メジャーなのは殺人蜂キラービーの群れだろうか。オオスズメバチくらいのサイズで、周囲を飛び回りながら毒針と噛みつきで攻撃してくる。


「拳も魔術も当たりませんし、封魔弾もダメでした」


打撃のような物理攻撃は、相手の体重が軽すぎて当たる前に風圧で吹き飛ばしてしまうのだ。

個別の的が小さいく動きが早いので、投擲の封魔弾はそもそも当らないから発動しないだろう。1次職に毛が生えたステータスだと追いかけっこして勝てる相手じゃないから、逃げるのも避けるのも難しい。


俺なら別にまとわりつかれてもダメージはほぼ無いだろうが、生理的に嫌だ。

ダメージも毒ももらうだろうからなおの事、高速移動スキルが無い二人には辛いだろう。


「作ってもらった強風のフィストで吹き飛ばしながら、タリアさんが念動力を炎に変えて何とか撃退しましたけど、そんなことをやっている間に居なくなっていました」


巫女のスキルには、念動力で掴んでいる範囲を発火させるスキルがある。それで対処したのか。


「羽虫の群れ系の魔物は対策を打ってなかったな。対策を考えておこう」


火炎放射器のように炎をバラまく術があるが、中級魔術だしな。

炎剣ファイアソード辺りなら同じような感じで対処できるだろうか。アレは燃える剣の周りに揺らめく炎が発生する。


「アケチさん、そちらには魔物は出てませんでしたか?」


「報告には上がっていないのである。ただ、観測していたものが街中に魔物の発生は確認している」


「ありがとうございます」


村にいた魔人はその一人か、もしくは召喚が出来るのが一人だったか、そんな感じだろう。


「それ以外に何かある?」


「あたしがウェインと会った時、女が一人一緒だった。多分、タリア姉さんと同じくらいだと思う。えっと……ウェインは仲間になったって言ってたな。サラサって呼ばれてた。人間っぽく見えたけど種族は不明」


想起を使って思い出しながら、アーニャが話す。

ウェインは多分、その女に説得されたんだろうな。


「……それ以上の事は分からねぇ」


「多分、タリアが観測してた身の回りの世話をしていた女の子かな。周囲の街で、行方不明になった奴隷とかが居ないか調べれば、身元が分かるかも知れません」


「うむ。そうであるな」


東群島の寒村部は、余り文化的によろしくないからな。

積極的にかかわると、俺は魔物側について戦争仕掛けることに成りかねん。それくらい民度が低い。

別段正義の味方をやっているわけでは無いのだから、人助けは目の届く範囲だけで十分だ。


「こちらからも報告させていただこう。まず、ゾンビどもと同時に向かってきた敵であるが、全員2次職と考えられる。数は十と二か三人と言った所であるか。少なくとも中級の高速移動スキルを使っていたのである」


邪教徒アヴァランチは普通に魔物の力を借りて、レベル上げをするみたいだからな。

人を殺してもレベルは上がらないから、実動員は常にそれなりに強い者が当たる。しかし接敵した前衛がほぼ2次職とは……後衛も含めるとなかなかの戦力だ。


「それから、通常の魔術のほかに、鷹のような鳥や、火の玉のような存在から攻撃を受けた者がいる。観測組の反応から、魔物ではなく魔術のようなものだとの話だが、正体は不明だ」


「……ふむ。調教師テイマーですかね。火の玉が精霊で無いなら……なんだろう。そう言うのに偽装するのは、いろんな職で出来るから、それだけだと絞り切れませんね」


「うむ。まぁ、切れば倒せるそうなので問題はない」


相手が何であれ、先手を打って倒せればそれで問題無いのは事実。


「他に矢が飛んできましたから弓兵アーチャー系の職が居ましたね。後は俺を襲撃した武者ですか」


「見ておったが、あやつは倒せなかったであるか?」


「ええ、至近距離から魔術を放ったのに、高速移動スキルで逃げられました。戦果と言えばこの剣くらいですよ」


東群島でよく使われる太刀、日本刀に似た大振りの片刃剣。

2次職用にステータス参照が成されている代物のようで、材質は魔鉄が中心。俺の不屈のカイトシールドには、こいつで切られた跡がしっかり残っている。


ただ、フェイスレスを切り割いた際に刃こぼれを起こしていて、今はなまくらになっている。一番大きな傷は、多分俺が剣で受けた時の傷だな。数回打ち合えばそこから折れていただろう。


「敵の死体一つでも有れば戦果になったであるが……」


「死体なら外に山とありますよ」


「……そうであるな」


検分はするつもりで居るが、殺された近隣住人だったとしても、亡骸が三人四人と増えて帰って来ても嬉しくはなかろう。

ほとんどは身元不明の犯人一味として処理すれば良い。


「他にも気になった事は有りましたか?」


『思うのだが、避難レフィージはそんなに遠くまで逃亡可能なのか?他のスキルに比べて、効力が高すぎると思うのだが』


お、これはチャットで参加してる隊長さんかな。


「可能ですね。あのスキルは、転送範囲と、転送先には制約が在りますが距離と人数に制約は有りません」


対象範囲はおおむね村の中の人物。

転送先は村を管理する領主が納める首都のみ。村長が直接領主に会う形で、任命を受ける必要がある。


『村長が遥か西方からここまで旅をしてきたという事か?』


「おそらくは。もしかしたらこの東群島に拠点がある可能性もありますが……領主は貴重ですからね。可能性は低いと思います」


避難レフィージのような逃亡スキルを持たない領主は、攻められたら時間稼ぎくらいしかできない。

援軍の見込めない地域に出すなら、村長は非常に都合の良い存在だ。規模が多くなったら町長や市長になればよい。

集合知にも情報は無いし、少なくとも3年以上前から存在する拠点は、この周辺にはない。


「魔物と連携した邪教徒なら、この世界のどこでも魔物に邪魔されずに旅をすることが出来ます。人の多いルートなら、おそらく最も安全に旅が出来る集団ですよ」


人が少ない地域には、野生動物や魔獣などがまだまだ残っている。

しかし人が多い街道などの外敵はほぼ魔物であり、それから襲われないなら戦闘職でない村長が居ても余裕だ。むしろ、検問の有る大きな町などの方が当人たちにとっては危険だろう。


『なるほど。……話は少しずれるのだが、例えば軍の野営地に村長を連れて行けば、いざという時そこから脱出は可能なのか?』


「できなくはないですが、条件が厳しいですね。砦みたいな感じならともかく、一日で作った駐屯地とかでは無理です」


簡易にでも村の境界を決めて、住人が住むための家を作り、生活基盤を整える必要がある。

住人も『そこに定住している』と言う認識が必要なので、赴任するならともかく、新たに切り開くのは難易度が高い。一朝一夕でどうにかなるモノじゃない。


「それに村長のスキルを使おうと思ったら、その集落の長は村長じゃなきゃダメです」


あくまで村長だからな。軍のお偉いさんや貴族が村長の下に入らない限り、スキルは意味をなさない。

神の奇跡は虚偽を許さないから、名前だけの傀儡というのも許されないしな。


『ありがとう、勉強になった』


「持ち合わせの情報は以上であるか?」


「俺が分かってる事はこれ位ですね。皆は……同じだそうで」


「ふむ。殿に何と説明したものか……負傷者の手当はお願いできるのであるな?」


「それは任せてください。全員五体満足にして返しますよ。治療は明日からになりますけど」


詠唱の再生治癒が使えるので、それで部位欠損したけが人を治療する予定だ。

欠損部が手足の指とかくらいの人はすぐに直せたが、両足消し飛んでるとかは体力が落ちている状態ではマズイ。

傷を癒した状態で1日休んで、飯を腹いっぱい食った後再生、位にしないとぶっ倒れることに成る。


「では、健常な者で遺留品の捜索および周囲の見分、全員の治療が終わり次第、村の建物はすべて破壊して撤収でよいであるか?それで、遺体の首と拠点制圧したことで何とか面目を立てるのである」


『再利用はせぬのか?』


「ワタル殿の魔術で半分吹き飛んでいる上、どの集落からも1日以上かかるのである。ダラディスからも遠いこの地を維持するメリットは薄いのである」


……まあ、その辺はアケチ氏にお任せだ。

ほぼ丸一日かけたアケチ氏の捜査では、村から新たな情報や価値のある遺留品は見つからなかった。

喉の痛みを治癒ヒールで治しながら詠唱を続け、カミッツへ戻ったのは二日後の事であった。

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