第230話 鍛冶の国・ボラケ皇国へ
アーニャの誕生会の翌々日、俺たちは船旅を終えてボラケ皇国入りを果たしていた。
船は昨日から出ていたが、一日置いての出発である。
1日開けた理由はレベルと職業の調整のためで、昨日一日でアーニャは盗賊をマスターに到達させ、今は
なのでここはいつも通り、試行回数で定着させる方法を取る。
また、入国に関しても目くらましになるため丁度いい。
コゴロウも侍が
彼は素質の数には余り恵まれていないタイプだった。侍適性、剣術適性、指揮適正、火魔術適正、村長の素質と言った感じ。
指揮適正や村長の素質があるので、明らかに指導者向き。戦闘面においても侍適性と剣術適性あり、各々の素質が相関を取りやすい範囲のまとまっている物の、応用は利かせ辛い。火魔術適正は性格からか?
格闘家と迷ったが、バーバラさんが居るので弓兵。侍や2次職である武者は弓も使えるため、相性はいい。後、もう少し落ち着きが欲しい。もしかしたらほしいのは静かさかもしれない。
バーバラさんは錬金術師を95まで上げて魔闘士に戻った。
俺は侍レベル87。3000Gを2匹、素手で殴り倒してようやく1レベル上がると言ったところで効率が悪い。
タリアは変わりなしの精霊使い。最近素質に『精霊使い適性』が増えていた。そしてその後なぜか巫女適性が神薙適性に変わっていた。……なんとなく、上位存在の意志を感じる。
そんなこんなで、特に疑問を持たれることも無くボラケ皇国入り。
紹介された鍛冶師は首都に居るらしいが、すぐには向かわず、街道から少し離れた村に滞在して、レベル上げと素材収集を行う。
「魔物は弱いけど、数は多いわね」
「だね。だからこうして狩ると喜ばれる」
村の周囲で発生している魔物を、片っ端から狩っていった。
ボラケも地方村は冒険者が少ない。閉鎖的ではある物の、さすがに完全に拒絶しているわけでも無いので、ぼちぼち狩って、それを村に卸してやれば感謝されるし印象も良くなる。
印象が良ければ自由にも動きやすい。
礫や大岩を砕いて金属を抽出するとともに、バーバラさんが錬金術師になったので薬草などを集めて、ポーションの生成も試してみた。
同じ回復ポーションでもレシピは複数あり、難易度が高いが効果が高いポーションが作れるものから、難易度は低いが効果も頭打ちのものまでさまざま。
技術はまだ無いので、材料比は最も効果が高いレシピを使い、製法は安定性の高い物を選ぶ。これはぼちぼちの物が出来たので、泊めてもらった村に安く卸しておいた。
エンチャント以外に金策の手段が出来たのはありがたい。
そんな感じで丸三日ほど山村に滞在させてもらい、残っていたレベルを調整した。
アーニャの
定着した盗賊のステータスボーナス99をすべてMPに振って、レベル1でもMPが100を超えていると1000回の施行で済む。早い。
バーバラさんが錬金術師の
俺は侍95まで。マジで上がらねぇ。
3000Gでまだレベルは上がったが、3体倒しても上がらなかった時はどうしようかと思った。戦い方によっては上がらないとかもあるかも知れん。
それから近くの街により、また転職。
アーニャが騎士の条件を満たすため、剣士に転職。侍なら99まで上げるのだが、騎士の前提には成らなかったので剣士を50にして、首都に入ったら騎士に転職する。
同じく弓兵を50にしたコゴロウと、バーバラさんを2次職に戻してボラケ皇国の首都カサクへ着いたのは、入国してから1週間ほどたった頃だった。
「ここがカサクであるか。わが国フォレスとも、ライリーとも違う建築様式であるな!」
ボラケ皇国はライリーから更に南西にある島国である。
街の特徴としてまず目に入って来るのは、土壁で作られた城壁だろう。東群島は石材が比較的貴重であるが、ボラケ皇国では島で取れる花崗岩を粉砕して砂鉄を抽出しているため、城壁であっても石材は土台にわずかに使われるのみである。
街の中に入ると、家々の多くは土壁か砂壁である。温暖湿潤な気候のため、煙突の無い家が殆ど。
屋根はかやぶきか、瓦が多い。台風が来るせいで、貧しい家ほどかやぶき屋根の家に住んでいる。瓦は飛ばされた時の修理が大変なのだ。
「結構人が多いわね」
「ここは工業都市だからね。買い付けに来ている商人もいるし、住んでる人も多いけど、旅人も多いよ」
定住人口は3年前の知識で10万人ちょっと。これは東群島ではかなり多い部類。
それに冒険者などの流動人口を入れると、おそらく10数万人になるはず。もうすぐ新年だから今が一番多くて、あと数日で少しは落ち着くかもしれないな。
年の瀬には首都に出てきている人たちが、自分の街に変えるはずだ。
「紹介された鍛冶屋はどのへんだ?今日行くのか?」
「今日は宿を取って冒険者ギルドに寄る。到着の報告をしなければいけないし、何より細かい場所が分からない。それに評判も一応聞きたい」
カサクは工業区とそれ以外がきっちり分かれている。
製鉄や鍛冶が出来るエリアが決まっているのだ。長い発展の歴史の中で、公害問題が発生して今のような区画整備が無された。
多少落ち着いている物の、公害は今も発生している。魔術があるのでそう酷い事には成っていないが、おかげで根本的な対策が進まないという問題もある。悩ましいよね。
大通りを通って冒険者ギルドへ。
通りには思った以上に常設店が多い。扱っているのは金物が殆どだ。卸しの業者も多そう。
そんな事を思いながら、のれんのかかったギルドの入り口をくぐる。
「はい、
到着手続きはモノの5分で終わる。
出発前に目的地を発行してもらい、到着地で手続きするだけだから早い。
「お待たせしました。ええっと、1通お手紙が届いているようです。ワタル・リターナー様、もしくはタリア様宛に、ジェネ―ル・トレコーポ様からですね」
「ん?……ありがとうございます」
ギルドの受付嬢から、結構分厚い書簡を受け取る。
「トレコーポさんから?」
「うん。商会の連絡みたい。船便が開通して、先に届いたようだね」
転送履歴は、ボホールからライリーの首都、その後ここに直行と。
冒険者あての書簡は、移動先を指定すると自動的に転送されてくる。着いたら到着連絡をして、中継点に再度連絡を送ってもらわなければ成らない。
ライリー首都への移動がボホールに転送先の連絡がついてから転送されたようなので、海の封鎖でしばらく止まっていたことが推測される。
「中身は?」
「アインス商会の連絡とか売上げ報告だね……うわぁ……」
「どうしたの?」
「俺とタリアの取り分がヤベェことに成ってる」
送られてきた書簡に書かれた金額を見て、その金額に恐れおののくのだった。
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