第62話 戦場に風を吹かせてみた
□アインス西門城壁上□
アインスの街をぐるりと取り囲む城壁は、高さ約10メートル、厚さ約5メートル。外側は土魔術で作られたなめらかで垂直な壁であり、内側は若干の傾斜をつけて詰まれた石垣である。
上部は西洋式の矢狭間が整備された見張り台になっており、屋根は無く、門以外には100メートルほどの間隔で上部へ上る階段が設置されている。壁内は完全に石や砂で埋められている代わりに、上部にはところどころに休憩スペースとなる東屋が設置されている。
一見すると西洋の城壁に酷似しているが、大きく違うところもある。例えば上部、狭間との間のかべは1メートル弱もある1枚岩であり、壁真下は身を乗りさねば覗く事は困難。上から真下を攻撃することは難しく、壁際は完全に遮蔽された安全地帯……のように見える。
実際は真下を見るなら
そもそも上部壁が厚いのは
また、壁に取り付いてそのまま垂直に駆け上がって来る魔物もそれなりに存在する。
虫型の魔物が特に顕著で、今も目の前で這いあがってきた大蜘蛛があっさり切り捨てられたところだ。
「しかし、ひでぇな」
西門の防衛戦は門を中心に左右100メートルほど。
城壁の上では100人ほどが防衛線を行っているのだが、そこに向かって毎秒100か200か分からないほどの矢が降り注ぎ、数秒に1回、どこかで爆発が起こる。
全ての攻撃は領主による街を守るシールドに阻まれて、壁の内側には届いていない。たまに抜けてくるのは、攻撃が集中して薄くなった部分が出るためか。
「悠長に見ている場合ではないのだろうけど壮観だな」
敵の部隊1800のうち、おそらく500くらいは何かのアーチャーだろう。使い減りしない魔物装備の矢を当たるも八卦当たらぬも八卦で打ち込んできている。それに魔術師系も200くらいは居そうだ。
こっちからも火箭が奔る所を見ると、アロー系呪文で応戦しているようだ。でも半数は投石かな。上がって来る奴らを始末するのは十分っぽいが、敵の遠距離攻撃に対抗するほどの戦力は無い。
「領主様々だな」
敵の兵站が無尽蔵なこの世界で、範囲防御に特化した
そしてその庇護を受けず門の前で戦ってる人たちに敬意を表するね。シールドに弾かれた矢が雨あられに落ちてくる中で戦うって人間の所業とは思えん。いくらステータスと装備で補えても、怖いものは怖いだろ。俺はぶっちゃけ東屋から顔を出したくもない。エリュマントスと違って、うっかり気づかぬうちに死ぬ戦いだ。
「とは言えビビってばかりもいられない。手伝わないとな」
敵の後衛までは壁から200メートルほどか?霧の魔術でアーチャーたちの姿は見えない。霧から飛び出してきた敵前衛たちが、門の前で戦っている。
覚えた
使うのは
INTは奥行き範囲と時間に乗る。魔力操作なら横範囲や上下に拡張が可能。基準は奥行き20から30メートル、半径直径10メートルくらいの円柱なはず。INT補正で今は500メートル以上効果を出せる。その内200メートル分くらいを横幅に当てて楕円形の効果範囲を設定する。これ以上は魔力操作のレベルが足らん。
霧の手前で地面に到達するように斜めに吹き付けるイメージで。
「!」
発動した瞬間、こちらに向かって飛んでくる矢が力を失って飛ばされていく。
魔力で作られた風の激流は、敵の矢によってその形をあらわにしながら、遠方に作られた魔力の霧に直撃。効果範囲と思われる20メートルほどの範囲の霧を吹き飛ばした。
おお、
隣を見ると、領兵らしきグループが驚いてこちらを見ている。ちょうど魔術の効果範囲で姿を現した一団を指さすと、
それじゃあ俺も。
「
不可視の衝撃波は一団に向かって飛び、手前のゴブリンを貫いて後ろを弾き飛ばし、それがぶつかった相手までをドロップに変えた。……やべぇ、すげぇ威力。
1次職のINTだと霧を晴らしてもあそこまで届かないはず。今攻撃できるのは俺と
「伝令お願いできますか?霧を晴らします!3分後から全域です!」
東屋から敵陣を見ていた兵士に伝令をお願いすると、頷いて壁を飛び降りていく。
霧は即座に修復されることは無いか。敵の矢も範囲の中は無効化出来ている。魔力操作できなかった分のINTでもそれなりの時間保つな。
MPで時間を確認。時間になった所で再度
「攻めあがれ!ドロップ品の回収を!」
西門全域に声が響く。
3度目の発動。破城槌の一つが見えた。
城壁防衛戦の端から端へ。
さぁ、この調子でいこう。
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