第61話 INTの効果は偉大だった

状況把握は出来たが、さてどうした物かと言ったところ。

最大戦力であっただろうエリュマントスが消滅し、魔物たちが略奪と誘拐を目的としているおかげで戦線は安定しているが、このまま維持できるかは分からないな。

相手が殺すつもりで計略を仕掛けてきた場合、結構な被害を覚悟しなければならない状態だ。


既に日中に凪の平原で捕まった冒険者がいるだろう。

生物を金の魔王の呪いで魔物にするにはかなりの労力がかかる、というのが定説だから、さらわれた人たちがいきなり魔物になって攻めてくることは無いと思うけど……。

エリュマントスのコアになっていた少女のように、隷属の呪印を刻まれた人間は10000G級オーバーサウザンツになる可能性が高いからな。出てきたらそれだけで戦局が変わってしまう。


「破城槌の破壊は近接職が取り付ければそう問題にならないですよね。そうすると、魔物の数を減らすのが良いはずなんだけど……」


魔物たちも5体~10体程度でグループを作っている。

幾つかのグループをまとめて吹き飛ばすには範囲魔術が必要だけど、魔術師には何十メートルもの範囲を吹き飛ばすような魔術は無い。威力が出て範囲が比較的広いの火炎球ファイアーボールかな。それでも1グループぐらいが限界だろう。


「俺が戦況打開に助力する場合、使えるのは1次職の魔術で、しかも使用者が多い物……INTの補正が範囲に乗る魔術があれば……風魔術か」


集合知を確認すると付与魔術師エンチャンターの魔術でINTの成長が範囲に乗る攻撃魔術は、風魔術の強風ラフ・ウィンドだけだった。エトさんに教えてもらった大爆煙バースト・スモークもINTが範囲に乗る魔術だな。

よく使うバレット系やランス系、エトさんが使っていた火炎球ファイアーボールなどはINTが威力に乗る代わりに影響範囲はほとんど広がらない。射程距離に影響するものはあるが、物理弾のように貫通するものじゃないから今回の例では意味がない。


実験がしたい。

そもそも付与魔術師エンチャンター99レベルになり、馬鹿みたいにINTが高まってもどんな影響があるか分かっていない。集合知で知識は得られるが、実際に見てみるやってみるとはかなりの差が生まれる。


どうした物かと思案していると、天幕に兵士が飛び込んできた。


「素晴らしいです!隊長!ワタル殿!ぜひ封魔矢を早急に!」


「こら!報告は順を追ってだろう!……何があった?」


「外で防衛を行っていた2チームが撤退したため、敵破城槌が進行。これに対して新規に供給された封魔矢を用い攻撃を行い、一撃の元に大破させることに成功しました」


「ふむ。3発で1機か?」


「いえ、1発で1機になります。着弾とともに轟音と火柱が発生し、敵の盾を無視して車体半分が即座に焼失、残りも延焼にて燃え尽きております。中にいたと思われる魔物とドロップ品も灰燼に帰しました」


「なんと!」


INT600越えは伊達ではなかったか。何も考えずに付与してしまったがそのせいかな?

集合知にアクセスすると、ランス系のINTによる威力の向上は”密度が上がる”と”体積が増える”の2つの方向性があるとのこと。


密度が上がる、これは物理現衝撃には素材がより硬いものになるイメージ。素材が発泡スチロールから鉄に変われば威力が高まる。

体積が増える、これはそのまま大きさが変わる。同じ硬さなら大きい方がそりゃ破壊力は増す。

これらの効果は通常半々の影響で、魔力操作によって比率を変えられる。

……そういえば最初に封魔弾を作った時、どうせクリティカルすれば魔物は死ぬだろうと密度側に振って作ったわ。


さっきは腹が減っていて何も考えずに付与だけしたからな。今回はINTで威力が上がった分の一部が炎槍ファイア・ランスの体積にも影響したわけか。

INTが上がって敵の防御が貫けるなら、体積大きい方が破城槌の破壊には有効だな。なんか少ない魔力でも押し切れそうだぞ。


「敵兵はそれを見て破城槌を下げました!これがあれば外の戦力が戻っても破城槌に十分対応できます!それであれば、外の部隊にドロップ品の回収をさせることも可能になりましょう」


遠距離攻撃での破城槌破壊が難しいから、前衛隊は門から大きく離れ得られない。防壁からの攻撃で倒された魔物のドロップ回収は出来ないし、自分たちが倒した魔物であっても難しい。

門が開けられないから、外の部隊は貴重な帰還の宝珠で出入りをしていて、持久戦中はあまり無理ができない。帰還の宝珠はすぐになくなるような数ではないだろうが、節約したいのは間違いない。

だけど破城槌を遠距離から破壊できるなら、外の部隊の自由度は格段に上がる。最悪外の部隊が全員撤収しても、破城槌が門に到達する前に撃破できる。


「報告!」


「今度はなんだ?」


「東側門に増員があり、攻勢に出るとの連絡がありました。また、こちらにも照明要因3名、矢避け要因2名が増員されました」


「なに?どこからだ?」


「ともに一般職の市民になります。詠唱魔術ですが貢献できるとのこと」


これは……エトさんかな?一人じゃ限界があるだろうが、魔術師ギルドが手伝ったか、それとも魔術師仲間がいたか……どちらにせよありがたい。


「これは好機か。こちらも攻めに出るべきだな。ワタル殿、やはり封魔矢を」


「はい。後5本もあればしばらく大丈夫になりそうですね。威力が高いのはINTが高いからです。MP回復ポーションか、MP分与のスキル持ちの方は居ませんか?レベルが上がった後の試していないので、どうなるか分かりませんが試してみたい魔術があります」


「ふむ……失礼ですが、INTはどのくらいまで上がられたのでしょう?」


「今600越えくらいですね」


「!……すさまじい。魔術師系の二次職を極めても600を超えるのは珍しいはず……わかった。限られるが、ポーションと人を当てよう」


「ありがとうございます」


さっそく炎槍ファイア・ランスの封魔矢を5つ作る。これで残りMPは50ほど。さらに雷と氷のランスを密度が上がる様に魔力操作して作成してみる。こちらもボルトに付与してクロスボウで打ち出せるようにした。

詠唱魔術の習得を繰り返していたら取得した魔力操作だが、ステータス上はレベル2。これで操作できる魔力はINT200分くらいらしいから、すべてを密度に振ることは出来なさそうだ。


その後、MP分与マナ・パサーで少しだけMPを分けてもらい、さらにMP回復ポーションを2本ほど回してもらった。MPポーションは最低品質品だが、1本で50ほど回復する。

さて、それじゃあ戦況を見ながら、少し実験をしてみよう。

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