第60話 戦況を確認した

兵団の炊き出しは固いパンに野菜と干し肉を塩味で煮込んだスープ。

正直そこまでおいしい料理では無いが、それでもすきっ腹にはしみる味だ。量だけは結構あるのが良い。

何か月も籠城する必要はないから、体力を維持するためにそれなりの量を出しているようだ。


「敵の戦略はおおよそ記録にある通りだ」


第一波は盾となるオークなど比較的大型の魔物。その後ろから梯子持ちの防壁攻撃隊と、飛行能力を持つ魔物が同時に攻めてくる。そいつらが壁にとりつき攻撃が分散している辺りで、門に向けて破城槌部隊を進めてくる。破城槌が出ている間に、やられた魔物のドロップ回収部隊が暗躍する。


「今回の例外があるとすれば、破城槌が多いことか」


魔物側が使う破城槌は矢避けの屋根と布のついた車で、屋根の下には木製の大型槌が吊るされている。魔力で強化された槌を振り子の原理で門にぶつけて破壊する攻城兵器だ。

この街の防御壁は厚いので、この破城槌で破壊できるのは薄い門の部分に限られる。おかげで西門周辺はまだ維持できている状況だ。


「向うの推定台数はおよそ20。朝からの第一波で3機、その後5機が行動不能になっている。見えている残りは10機ほど、秘匿されているものがあればもう少しあるだろう。一気に進めてこないのは取り付ける台数が少ないからだ。まとまっていてくれれば、多少硬くても魔術で何とかなるからな」


実際、破壊した破城槌は火炎球ファイアーボールなどの魔術を当てて破壊したらしい。ギルドに卸したランスの封魔矢も活躍したそうだ。

破城槌には盾の魔術が込められているので、普通の矢や威力の弱い魔術では効果がないらしい。


「破城能力のある魔物は居ないのですか?」


「防壁を壊せるほどとなると、北に居たオーク将軍がそうだが、それ以外は報告がない。門にも強化がかかっているから、数百Gの魔物では決定的な破壊は難しい。敵の対多数は200~300G級だ」


魔物の強さはステータス的には


1G未満から数G:初心者ノービス以下+スキル

十数G程度:トータルで初心者ノービス程度・どこかに特化

数十G程度:1次職序盤~中盤

100G越え:1次職中盤+スキル or 1次職後半

300G程度:1次職後半+スキル


くらいと思えばよい。スキルは毒や疫病の媒介者などの特性、魔物の装備なども含む。


人間の場合、HPとMPは職業によってだいぶ違うが、1次職後半だと素のステータスは加算は5種合計で200にボーナスを加えたくらい。

魔物はスキルが多ければステータスは下がる。代わりにHPは高めだ。人間側はステータス+スキルなので、1次職のLv50は300Gクラスの魔物と同等か、ちょっと強い。なのでこのレベルは1対1で戦うと半分は負ける。


冒険者の戦うための指標となっているのは確実に勝てる相手なので、1次職で1対1なら100G~200Gまで。複数人ならもうちょっと上が行けるが、職にかぶりが無く、戦利品の分け前もぼちぼちに収まる5~6人のパーティで1000Gサウザント級の弱いやつを1体討伐が妥当なところと言われている。


話がそれたな。


「防壁の上には冒険者と合わせて10小隊前後が居る。メインの攻撃手段は魔術か投石だ。矢は相手の戦力が増すことに成るから控えている」


初心者ノービスのスキルで石だけは無限に確保できるから、高い所から延々投げ続けるだけでそれなりの効果は出る。1次職程度なら、魔物も人もこぶし大の石が急所にでも直撃すれば死ぬのだ。


「1時間ごとに交代を3交代で回している。なので防壁上の防衛戦力は全体で30小隊プラス予備兵。それとは別に、帰還の宝珠を有した3小隊が門の前で常時防衛を行っている。こちらは10小隊でローテーション中だ。ただ魔術師はMPの回復がきつくて、防壁も外もそううまくは回っていない」


「小隊には冒険者も含みますか?」


「もちろん。臨時編成をしているので、ほぼ領兵と冒険者の組み合わせで出ている。防壁の上にはSTRが高くなる一般職のものも居るな。投石は魔術師より運び屋達の方が強い」


魔術師のローテーションが早いとなると、200人くらいで敵の波状攻撃を防いでいる計算か。

外の戦力が減ったタイミングで破城槌が突撃してくるという流れかな。逆に破城槌が無ければ、門の防御が硬いので攻めに転じられる。帰還の宝珠で外の戦力が減っても、復帰するための時間が稼げる計算だ。


「一度に攻めてくるのは500体くらい、おそらくそれより増えてこちらが倒すと、ドロップの回収か再召喚の速度が追い付かないのだろう。エリュマントスが消えてだいぶ楽になった」


門の外で戦おうとすると奴が飛んでくるので、西側開戦直後は厳しかったらしい。

戦局の流れは、東側襲撃、エリュマントスの防壁破壊、ルサールカとエリュマントスが南北へ、西側襲撃の流れだったらしい。


「って事は、こちらの勝ち筋は破城槌破壊、敵にドロップ品を回収させない、召喚部隊の撃破のいずれかですね。二次職、高位の方はどれくらいいますか?」


「2次職だけなら100人近く居るはずだが、レベル後半は少ないな。MPが足らなくて温存している状態だ。3次職は北側で、そもそもアインス領兵には3名しかいない」


2次職の数が想定より多いが、レベルは前半がほとんどか。結構厳しい。


「魔物側のMP回復の方が多い状況っぽいですね。王国軍の援軍がいつ来るか知りませんが、ジリ貧なのは間違いないです」


MPの回復量は1分に1点が基本。魔物側が同じか分からんが、こっちの戦力が400人なら、1分に400、1時間で24000が自然回復量だ。さらにここからMP回復が無くなるスキルを使っている人の分だけ回復量が減る。

この24000を上回るMPを消費する場合、街の内部リソースは減って行っていることに成る。

アロー系なら約2400発分、1時間に敵が2サイクル1000体攻めてくると、1匹に打てる魔術は2.4発。200Gクラスを倒すのはちょっと辛い。

実際には全員が魔術師じゃないし、使えないMPもあるのでリソースはもっと少ない。


「万全なら門を開けてしまうという手もあったのだが……」


街の中なら領主のスキルで魔物の能力低下が見込めるし、ドロップの回収もしづらい。

ただ、敵を圧倒できそうな2次職が少ない状態だと、広場での戦闘に取りこぼしが出ると被害が大きくなる。

また、街中が有利なのは領主のスキルによるものが大きい。城壁が破れてから領主は、ずっとアクティブスキルで守護強化中と思われるので、MPの自然回復が見込めない。MP消費量は影響を与えている魔物の強さと量に影響を受けるはずなので、いつスキルが切れるか分からない状態で、市街地戦を始めるのはリスクが高すぎる。


「単身で薙ぎ払えたりはしないか?」


「……冗談はよしてください」


3次職後半レベルの広域殲滅が得意な職業や4次職なら出来るだろうけどさ。こっちは付与魔術師エンチャンターだぞ。


「それで守備隊は破城槌の破壊ために、高威力なランス系の封魔矢が欲しいという事なのですね」


ドロップの回収は見込みが薄く、敵の最奥にいる召喚部隊を討つ兵力は無い。

消去法的に、修復されることのない破城槌の破壊が目標になったわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る