第267話 迷宮の守護兵

技術迷宮へ突入してから最初の小部屋で、俺達は小結界キャンプを使って休憩を取っていた。

ここまでの間もちょくちょく休憩はしていたものの、がっつり腰を下ろして休むのはダンジョンに突入してから初めて。実に7時間ぶりくらいになる。さすがに疲れた。


俺達が陣取った小部屋は、通路の横にある教室ほどの小さなエリア。もともとは守護兵ガーディアンと呼ばれるゴーレムの一種の詰所であり、記録だと魔術によって偽装された隠し部屋だったらしい。

今は偽装の魔術も解除されて、通路に出来た横部屋のような形になっている。罠なども無く、壁際に陣取れば小結界キャンプの効果が通路まで及ばない。気取られず安全に休憩できる格好のスペースだ。


「結構な数の魔物が通りますね」


外の通路を眺めていたバーバラさんがつぶやく。

5分に1度くらいの間隔で、部屋の前の通路を魔物たちが通り過ぎていく。すべて5体以上の集団だ。

ダンジョン内で冒険者を相手にするのではなく、迷宮の奥へ向かうのはどういう理由だろう。


「あれ、私たちを追いかけてるわけじゃ無いわよね」


「動きがゆっくりだし違うんじゃない」


ダンジョン内で襲い掛かって来た際の必死さは見られない。

戻ってくるのが居ないのは、奥で守護兵ガーディアン達に始末されているせいか、それとも出ていくルートが他に在るのか。

どちらにせよ迷宮内に侵入した魔物は邪魔だから駆除だ。ここなら壁が壊れる心配も、いきなり天井から湧いてくる心配もしなくていいい。


トータルで2時間休憩。その内1時間は仮眠もとった。これでMPは7割ほどまで回復した。他のメンバーも8割越え。探索スキルの無いコゴロウは全快だ。俺はディアナの首飾りのおかげで、みんなの倍近く回復するが、使っている量も多くて追いつかない。ただMPタンクとポーションが有るので、まだ何とかなるだろう。


「それじゃあ、あと2~3時間、頑張って行こう」


ここから先、魔力探信マナ・サーチによる地形把握は出来なくなる。ワープも迷宮のトラップが生きていれば危険なため裂けたほうが無難。

技術迷宮の安全地帯とされる部屋はもう少し先だ。今も使えるかはわからんが、とりあえず先に進んでみよう。


魔物が往来する通路には、火旋風ワール・ファイアの木製封魔弾を解放状態でおいておく。

背後からくる魔物が引っかかって、それで倒れてくれれば儲けものだ。人には反応しないから危険も少ない。


技術迷宮のトラップは魔物たちが突破しているようだ。

再設置に来る守護兵ガーディアンが居ないのか、開きっぱなしになっている。

サーチで周囲の魔物を調べると、ごく近くにいる魔物が寄ってくるので始末。……迷宮壁はサーチの魔力を反射しないのか。一直線に視界が通る所は良いが、曲がり角で探索が途切れる。これはフェイスレスを先行させるべきだな。


魔力探信マナ・サーチによる探索は諦めて、数十メートル先を機械傀儡に歩かせる。ビットでも良いけど、トラップを誘発できる分こっちのほうが良い。

通路は複雑で分岐も多い。目印のペイントも消えかけで、気を抜くと迷いそうだ。かすれているマークは、今ある塗料で上書きしておく。守護兵ガーディアンが消してしまうかもしれないが、やらないよりはましだろう。


『ワタル、この先で戦闘音』


『人か?』


『魔物の声と機械音しかしない』


『じゃあ、魔物と守護兵ガーディアンが戦ってるんだな』


幸いこっちには気づいていないらしい。進行路上の大部屋だ。覗いてみよう。


フェイスレスに忍び足スニークをかけて角から奥へと進ませると、薄暗い通路の先に明かりの灯った部屋が見える。

部屋の手前、廊下まであふれた魔物の数は50を超えるな。半数近くが人形遣いだ。コボルトとゴブリンが半々。部屋の中にはオークの影も見える。岩人形、土人形……一体だけ岩機兵ロックゴーレムが居る。どうやらゴーレム・クリエイターと呼ばれる召喚士級がいるようだ。


相対する守護兵ガーディアンは3体。中世騎士のような甲冑姿の自動人形で、剣士タイプが2体に、槍兵タイプが1体。

守護兵ガーディアンは魔物に似た特性があるけど、やはり魔物とは対立しているのだな。

俺達にとってはどちらも邪魔な存在だし、倒させてもらおう。


『魔物の群れに旋風をぶち込んで薙ぎ払うよ。守護兵は多分無理だけど』


『了解』


封印解除した封魔弾を収納空間インベントリ経由でフェイスレスに転送。魔物の群れの中央辺りに投げつける。


「げぎゃ?」


ゴブリンが首をかしげる声が聞こえたけど、もう遅い。

たちまち発声した炎の旋風に焼かれて、周辺に集まっていた100Gちょっとの奴らは軒並み灰に変わった。

人形遣いが操っていた岩人形や土人形も動かなくなったようだ。


岩機兵ロックゴーレムだけはまだ動いている。耐性差かな。でも瞬く間に守護兵ガーディアンに倒された。

ドロップは無しか。……あれ?だとすると価値が合わない気がするけど……いや、塵に成っていないからあれは人形か。


人形遣いが操っていたものは崩れても消えてなくなることなく残骸が残っている。

岩機兵ロックゴーレムの身体であった石煉瓦も崩れて散乱したものの、形を残している。……あれは人形遣いが中に乗っていたのかな?守護兵ガーディアンと同じで2メートル以上あるし、ゴブリンくらいなら乗れても違和感はないかな。


そして残ったのは守護兵ガーディアンか。

俺の火旋風ワール・ファイアの直撃を受けたはずなんだがな。やはり情報通りか。

このままフェイスレスをぶつけても良いけど、3対1は負ける可能性もある。ちゃんと戦うか。


『あれを倒さないと先に進めなそう』


『それなら、さくっと片付けようぜ』


『迷宮の守護兵であるな。話に聞いたことはあるが、戦うのは当然初めてである。魔物では無いのであろう。どれほどの者か』


『さくっと倒せりゃ良いけど、俺も聞いた話しか知らないし、慎重に行こう』


侵入者の排除を行うのが守護兵ガーディアンの役割ではあるが、幸いにも逃げる者を積極的に追いかけてくるような性質は無い。

相手をしてみて、ダメそうなら一旦引こう。


強風で熱気を吹き飛ばしてから、魔物たちの集まっていた大部屋に侵入する。

部屋の広さは小学校の体育館くらいかな。バスケットコート2面位はありそうだ。天井は7か8メートルくらい?頑張ればジャンプで届くかもしれない。

広い場所なのは戦い易くていいな。


『コゴロウ、前衛でタリアと組んで槍を。バーバラさん前衛でアーニャと剣を一体。もう一体は俺が人形とやる』


レベルが足りないアーニャと、中級の高速移動スキルが無いタリアはサポート。

俺は一人で何とかなるか……武器が通じるか次第だな。


『任せるのである』


『ワタルさんも気を付けて』


『んじゃ、開幕は俺が』


多重詠唱マルチキャスト魔投槍マナ・ジャベリン

3発の魔投槍マナ・ジャベリン守護兵ガーディアンに向けて放つ。


避ける間もなくぶち当たり轟音を響かせるけど……やはりダメージは殆ど無いか。

迷宮の守護兵ガーディアンは魔術に対する防御力が極めて高い。衝撃波や炎と言った実体の無い攻撃は殆どダメージに成らないらしい。

石弾ストーン・バレット礫旋風ワール・ストーンならダメージになるかも知れないが……限られた魔術で進むのはこの先ちょっと辛い。

こいつらは標準的な守護兵ガーディアンだし、今のうちに実力を見ておきましょうかね。


こちらの魔術を攻撃と認定した守護兵ガーディアンが向かってくる。

各々は武器を構え、迎撃態勢に入るのだった。


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現在3話公開中のスピンオフ側もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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