第266話 第三階層から技術迷宮へ
「この階は1階層の魔物に、さらにゴーレム遣いが増えたような敵の配置らしい。ゴーレムは魔物より強いから気を付けていこう」
場所を確認し注意事項を共有した後、ショートカットルートが分からなくならないよう出入口を加工してから、俺達は3階層の探索を始めた。
最初に侵入したのは3階層の通路は、階層の後半に有る小部屋に繋がっていた。3階層から4階層への最短ルートからは少し外れていて、迷宮より4階層階段寄りだ。
俺達の目標は迷宮なので、少し戻って迷宮への分岐を目指すことに成る。
探索済みのエリアだからワープスキルで飛んでも良いのだが、高速移動スキルはコストの安い分、別に制限がある。上級魔術である
緊急事態も考えて、迷宮までは徒歩での探索に切り替える。
「魔物がいっぱいいんだけど」
「タリアのMPが減ってるから、4人で回しながら対処しよう」
階層を下りたからと言って、いきなり魔物が強く成ったりはしない。余裕だろう。
……なんて思っていたら、そうは問屋が卸さないと魔物が群がって来る。
フェイスレスを先行させてはいるけど、ゴーレム相手だと消耗が酷い。
エンチャント強化しただけの剣だと、岩人形をぶった切った反動で折れる可能性がある。
そもそも俺のジャベリンは壁もぶっ壊してしまって怖い。
その上分岐からわらわら湧いてくると、どうしても直接戦闘が増える。
「うっとうしいな!」
両手を広げて突っ込んでくる石人形を霞斬りで切り付けると、力を失ったように崩れて石塊に戻る。
新しく作った武器は石人形にも効果的だ。魔術で操作されているゴーレムなら、軽く切り割いた程度でも雲散霧消の効果で無力化できる。
「こいつも……っと、こっちは魔物か」
浅く入った一撃では動きが止まらない。
慌ててスキル疾風斬りを発動。AGI1.2倍プラス物理限界突破の斬撃が、魔物だった岩人形を引き裂いて光に還した。
魔物としてのゴーレムと、人形遣いが操作するゴーレムが混じっているので、霞斬りで楽勝とも言えない。おまけに一団が最低でも6対とかで休みなく向かってくる。人の少ないエリアに踏み込んだ弊害がこの忙しさか。
サーチを使えば魔物と人形の見分けは着くが、もっと魔物が寄ってくるから避けたい。大地の裂け目からダンジョンに戻って3部屋。既に100体以上の雑魚を狩っている。ドロップ無しはせいぜい150Gくらいな能力なのだが、薄暗い場所でこう数が多いとぼやきたくもなる。
奥にさらに敵の一団が見えたので、飛ぶ斬撃こと飛翔斬で薙ぎ払う。通常攻撃力が上がったおかげで、侍のスキルが使いやすい。
『ワタルさん!なにか後ろから小さいのが来ます!』
『小さいの?』
『握りこぶしより小さな魔力反応がたくさん』
『凄い数!100じゃきかないかも!』
『……うげっ!
壁を這いまわる小型の人形が、一段となって迫って来る。
ゴミほどのHPしかないけど、近づくと爆発する小型の魔物である。小さいし、この数は相手にしてられん。
『タリア!後ろの通路いっぱいに雷撃!』
『了解!』
タリアの念動力が稲妻に形を変え、まず人形たちの先陣を焼き払う。
その間に俺は詠唱だ。
「
範囲を絞り、効果時間を長くした旋風を後方に放つ。これでHPが低い魔物はしばらく寄り付けない。
『今のうちに先に進もう』
通路を抜けて広場に出たら、
『ルートはどちらですか』
『多分左。いまフェイスレスを暴れさせて……っ、あかん、毒ガスだ』
先の部屋にいるフェイスレスと対峙していた魔物が、触媒を使って毒ガスをバラまく魔術を使いやがった。気体可視化のスキルで見える反応から推測すると、水と硫黄から硫化水素を作りやがったな。そっちのルートも閉鎖じゃないか。
「強風!」
こちらに流入しない様に散らしてしまおう。量的には大したことが無い。
この手のガスは人形タイプの魔物には効果が無い。生物を模倣した魔物の中には利くやつもいるけど、作りが適当だと聞かない場合もある。こっちだけ効果がある化学毒は厄介なんだよ。
『一芸特化の魔物が多すぎる』
『不法侵入したので、発狂しているのではないか?』
『可能性はありますね。……人形を先行させて、一回飛びましょう』
泥人形で塞いだ出入口の奥で爆発音が聞こえる。
唯一開いてる穴からは、ゴーレムとコボルトの混成部隊が侵入してきた。あっちはアーニャ、バーバラさん、コゴロウの3人に任せよう。
アルタイルさんを呼び出して先行部隊を編成。
先行部隊を転送して周囲を制圧。安全が確保出来たら
「……ふぅ。一息」
ダンジョンの知覚能力には限界があるし、魔物と共有しているわけじゃ無い。俺達がこの部屋にワープしたことはすぐには分からないだろう。
『部屋番号、3のRCの3って成ってる』
『ありがとう。ラッキーなことに隣の隣が迷宮出入り口だ』
3階層に入ってからそんな時間は経って無いのに、えらく疲れた。
『迷宮まで一気に行っちゃいましょう。アルタイルさん、フェイスレスと一緒に先行をお願いします』
フェイスレスと亡者6人のパーティーが先に進み、俺達は背後を警戒しながら進む。
『3階層の魔物は編成が変わってますね』
『一芸特化と言うか、普通はそう言うステータスにしないだろって能力の魔物が多いですよね』
ゴーレムを操る術師はゴブリンやコボルトがベースに成っているようだが、たぶんHPやSTR、VITは多分一桁前半で子供より弱い。その代わりINTとMPが高めで、しかし使えるのは
さらに
これにゴーレム系の魔物や、剣士や魔術師と言った魔物が混ざって来る。
それから
『MPの消費を気にしなければ捌くのは余裕ですが、問題ないですか?』
『節約は気にしなくて良いです。まだ人員は居ますし、迷宮に入れば休憩可能です』
『わかりました』
先行組がガンガンスキルを使って魔物を駆逐していく。
背後から来る魔物はそれほど数が居ない。
15分ほどで迷宮への分岐となっているとされる部屋へたどり着くが……。
「……あと向うに一部屋、そこは行き止まりですね」
「部屋番号から言ってあってる。浸食が進んでいるのかも。行ってみよう」
周囲は既に迷宮の壁に変わっている。この状態だと
奥に進むと、やはり行き止まり。……ペイントが残ってないか。
地図情報だとここで良いはずなんだが……。
「時間で開くかしら?」
「わかんない。魔物からしたら、迷宮に出入口がある意味は無いから、開かない可能性もあるな」
「どうするであるか?この壁は壊せないのであろう?」
「……とりあえず吸ってみますよ。魔物が沸くかもしれないので警戒をお願いします」
やれることは限られている。
ギルドが作成した地図で、技術迷宮への通り道があるとされる壁に向かって
「……そちらの壁、魔物の魔力反応が無くなりました」
「うん。でも、壁には変わった様子が無いね」
「ん~……むしろなんで変わらないんだ?迷宮の壁って壊れないし、動かないんだよな。えいっ」
「あ!」
アーニャが壁をつつくと、音を立ててバラバラと崩れる。
よく見ると厚さ5センチほどの薄い壁が積み重なっていたようだ。……迷宮の内壁が刻まれて魔物に使われているのか。
「通路開いたな」
「うん、ナイス。これで迷宮に入れる」
上層階の迷宮壁の部分も、
せっかくだから崩れた迷宮内壁も持って帰って……って!
「みんな拾って!内壁吸収されてる!」
床に落ちた内壁が、地面に溶けて消えて行っている。
どうやらダンジョンが回収しているらしい。……くっそ、8割回収された。
「……はぁ……アルタイルさん、いつものように重量軽減して保管お願いします」
「ああ、任せたまえ」
重さの有る内壁をアルタイルさんに預けて、俺達は技術迷宮へと足を踏み入れた。
さあ……まずは休憩だ。
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現在3話公開中のスピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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