第232話 リモート不動産買付
「畑を買いましょう。後は家」
そんな事をぶつぶつ言っていたのは、アインスで専用装備を作った時だったか。
当時からある金はガンガン使っていっていたが、かかるコストにおののいて居たのを覚えている。一応亡国の姫なのにな。
「土地かぁ……故郷を取り返す?」
「なんであんな田舎の寒村わざわざ取り戻さなきゃいけないのよ」
……いや、そこは一瞬でも迷おうぜ。
「そうじゃなくて普通にのんびり暮らせる土地よ。私の家族を取り戻した後、もしかしたら皆が住む場所が必要になるかも知れないじゃない。奴隷制の無いクロノスなら、魔物の核だった私の家族も済みやすいでしょう?」
「まぁ、確かに。……畑か……少なくとも今は王都は難しそうだけど」
王都周辺の農地は、生産安定化の都合で地権者が王都在住である必要があるっぽい。
「そこまで都会でなくていいわよ。プランの一つでしかないんだし。……あとそうね、もし魔王が倒せてもワタルが帰れなかったら、帰る方法を探すでしょう? 好き勝手出来る拠点は必要よね。そう言うところ」
「……用意周到だね」
「諦めない。それが私たちの約束でしょう?」
タリアはちょくちょく、成し遂げた後の事を話す。
彼女にとっては家族を取り戻すのも、俺に着きあって魔王を倒すのも規定事項なんだな。
「そうだねぇ。……しかし好き勝手出来るところなると、余り既存の街は好ましくないな」
俺より二つ年下なのに、心が強い。揺らがないタリアの態度には毎回助けられる。
「どうせなら王都より暖かい所が良いわ。私の故郷はもう少し暖かい地域だったし。ウォールとか、ボホールとかの近くとか?」
「南の国境沿いか……大都市は王都と同じ条件があって、街や村は……大体村長が地主を兼ねてるな」
集合知で不動産について調べると、売り買いは住居や店舗が主で、農地の売り買いは無くは無いが少ない。
数で言うなら都市部の生産緑地方が売り買いは盛んで、地方村はどっちかって言うと領主の管轄だな。
農地は売るより下賜する場合の方が多い。
「ん~……アース義兵団の一部に音頭を取ってもらって、どっか開墾するのはどう」
許可さえあれば道を引いて、集落を建設するくらいは今の手持ちで出来る。
「村を一から作るの?」
「そっちの方がしがらみが無くて楽かなと」
この世界、魔物のせいで人はある程度密集して住んでいる。
まだ世界の人口も少ないし、クロノス国内でも人が住めるのに住んでいない土地はそれなりにある。
魔物に滅ぼされて住人が居なくなった村を丸ッと買い取るのもアリだ。
……それなら怪しげな実験に精を出しても人目を気にしなくて済む。
「そうね。……開墾なんてやったこと無いわよ?」
「お金さえあれば勝手にやってくれるよ。場所はどこがいい?」
「……海側かしら?ワタル、魚食べたいでしょう?メルカバ―や浮遊船で、日帰りで港まで行けるところが良いんじゃない?」
「食べたいね。なら、ボホール伯爵に相談して、領内でいいとこ見繕ってもらうか。冒険者引退後の保養地が欲しいとか言えば、きっと喜んで協力してくれる」
アインス子爵やウォール辺境伯には恨まれそうだが……地理が悪かったな。
「ワタルはどんな場所が良いとか無いの? 自分の国の施設を作るとかなんとかあるでしょう?」
「俺の希望ばっかり聞いても……ああ、でも温泉が欲しい」
「温泉?」
「温泉。暖かい水が沸いているところ。……国境沿いの山間に無いかなぁ」
ボホール領は比較的平たいから、期待するとしたらリャノからちょっと西に行った、人が済まない山中だろう。国境があいまいだが、城塞都市があるエリアでもないし、山中なら石切りや鉱石採掘のついでに温泉を狙えるかも。
浮遊船とメルカバ―を使えば結構な範囲がターゲットになる。今後もっと早い移動手段も考えられるかもしれないし、調査してもらうのはいいかも。
「伯爵に打診して、アース義兵団に連絡を取って交渉してもらうか。タリアの預金を、ボラケに100万、王都200万、ボホール500万と分配して、ボホールのお金で調査と準備を進めてもらうようにしよう」
どうせドンピシャな場所がすぐに見つかるとは限らない。
金を借りて始めた商売じゃないから、最悪商会の金が無くなったら畳んで魔物を狩ればいいだけの話だ。ガンガン使おう。
「それなら、王都にも一軒家を買えない?行くかは分からないけど、トレコーポさんに管理お願いできないかしら。貸しておいてもいいわ。不労所得ってやつ?」
「今も十分不労所得だよ。ん~……たぶん行ける。どのくらいの大きさ?」
「キッチン広めで、一家族で住むくらい。一人で掃除しても面倒じゃ無いくらいがいいわね」
「20万Gもあれば多分。それも打診しておこう」
不動産投資って名目で、売家をリフォームさせて貸出させておけばいいか。
とりあえず方針は決まったので、後はタリアにひたすら手紙を書いて署名をして貰う。こういうの自分で書いておかないと監査の時に突っ込まれる。
俺はボホール伯爵に挨拶と共に書状を送っておこう。2次職の冒険者が数人いれば、勝手に山中を開拓して村を作る、位は出来るのだが、それをやって領主ともめる事はぼちぼちある。
書状はボラケの特産品かなんかと一緒に送ろう。今でもそれくらいの手持ちはある。
書き終えた物からギルドに頼んで監査をして貰う。
真偽の確認がすぐにできたのは運がいい。ボラケ冒険者ギルドの確認印をもらって、速達通信でクロノスに送るよう手続きをして貰った。
利用者は限られるが、魔術を使った長距離通信はこの世界にも存在している。ギルドは国家間通信網を借りて、それを冒険者に提供してくれている。
ボラケからクロノスに入るまで約二日、そこから王都まで三日もあれば内容だけは届くはず。
書簡が届くのは当分先だが、これは確認用だからジェレールさんはすぐに動いてくれるだろう。
……結構な金額が飛んでいくな。
「……終わった……これで全部ね。確認して」
タリアは久々に書類仕事で疲弊したようだ。
こう言うの、最近はバーバラさんがやってくれてるからな。あの人はマルチになんでもこなす。
ランク1の冒険者になったんだから、アーニャにもこの辺教えて行かないと。
「……添削する?」
「……聞いとくけど、ワタルが直して」
「こことここが誤字。あと、この言い回しがおかしい事になってる。正しくはこう」
「……
「間違えて覚えて調べなきゃ意味無いからねー」
タリアの方は親書じゃないから、そこまで気にしなくていいんだけど。
たまには朗読会でもしようかな。アーニャも読み書きはこなせるようになってきたけど、地球の15歳と比べると流石に劣るし。……コゴロウは大丈夫だよな?一抹の不安が頭をよぎる。
タリアの文書を修正して構成のサインを入れて、真偽確認をして貰ってこちらも送付。これでタリアの分も手続き完了。
ボラケから出来る限りの事は指示した。
後はジェネ―ルさんの頑張りに期待だな。
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□雑記
クロノス王国からボラケへの送金は貿易赤字と同じなので、まず高額送金は止められます。100万Gでもかなり怪しいですが、ワタルの身元がはっきりしているのでギリギリ許容の範囲内です。
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