第131話 謁見を終えて

□クロノス王城・貴賓室□


「まさか陛下にいっぱい食わされるとは思ってもみませんでした」


後程渡された書状を見ながら、男爵閣下に愚痴をこぼす。


「その発言が不敬だし、私に言われてもな。……しかしまぁ、貴殿の意向は組まれているようではないか」


「ええ、まあ大きな問題があるわけじゃ無いですけどね」


特使としての条文はそう多くない。


一つ、人類の発展のために尽力する。

一つ、各国の法は順守する。

一つ、私欲に走らず、人権を尊ぶこと。


追う旨誓約として述べられているのはこの三つ。人権なんて言葉が出てくるのはクロノスっぽい。


「やらかしたら全国指名手配ですが、各国の出入りに特使権限を使えるとか、メリットも多いですね」


「私は破格だと思うがな。国王代理の立場なら、中央でも顔が効くだろう?」


キングの職業持ちの権限を使える、くらいの話ですから、まぁ、信用としては十分ですね」


キングは神に認められた資質が無いと職に就けないし、民に認められないと力を発揮できない。

その上、国家の形成に害悪となれば、神の加護が失われる。そう言った立場の人間なので、多少は信用というものが他国でも通用するのだ。

クロノスでは国王を政治から切り離すことで民の指示を集めているが、他国では行政の長となっている場合も多い。なかなかに思い切ったことをする。


しかしよくもまぁ、こんな古い条文を持ち出してきたものだ。

最後にクロノスの前身となった国で特使が任命されたのが400年以上前。

人類平等を唱えてクロノス王国が誕生した際、前身となった国の地位は引き継ぐ形を取ったため、特使という立場も暗に残っていることに成るが……基本使われていなかった。


特使は立場上、国内では単なる海外向け役人であって、貴族の地位を持つわけでは無い。

全権委任が必ずあるわけでもない。国内向けには大した権力は無く、しかして外国向けには国王と同格に成ると。


「東大陸国家連合への報告を兼ねるつもりなのだろう。そのまま中央にもいく。貴殿のアナウンスは衝撃だったからな。国に取り込んだことをアピールする狙いがある」


「……まぁ、良いですけどね」


少なくとも王国に縛られる役職では無いし、逆に他国に出た際に、特使を理由に受勲を拒否できる。

立場としては俺の望むものに一番近い。ただ、どっかの国に行くたびに、お偉いさんへの挨拶は必須になりそうだけど。


「まあ、本件はどうしようもない。特に何かする必要も無かろう。あきらめて記章だけ掲げておけばよい。それから、褒章についてだが、こちらは問題無いかな?」


「そちらは全く問題ありません。むしろありがとうございます」


エリュマントス撃破、およびアインス防衛の褒章は10万Gと、MP300分のタンクとなる錬金アイテム。タンクは冒険者ギルドで俺が買った奴の3倍だ。多分これだけで10万Gじゃ効かない金額のはず。探してもそうそう手に入らないし、ありがたいね。


「陛下が仰っていた宝物庫の目録は後日だそうだ。さて、まだまだやることはあるぞ。まずはミラージュについての聴取だが」


「もう一つ、私が名前にあげたアヴァランチについても含め、知っていることをお伝えしましょう。数年前の情報に成りますけどね」


集合知で得た情報をアインス男爵に伝える。

真偽官、書記官が同席しており、一つ一つ確認しながら分かって居る事だけど述べていく。


「どちらも中々に面倒な組織だな」


「相手をするメリットが全くないのも嫌なところですね。正直かかわりあいたくありません」


どちらも思想系の犯罪組織なので、逆に利用するとかも困難。

悪事を働いているのを見かけたら叩き潰す、くらいはするだろうけど、うまみはない。


「こちらの調査状況だが、行方不明だったうち一人は消息を確認できた。王都から二日ほどの街で、有力者の養子という形で引き取られたことが判明している」


「前後関係に問題は無かったのですか?」


「真偽官を派遣して確認したが問題ない。暮らしぶりも、孤児院よりはいいだろう。いわゆる行政手続きの無視、という形に成るが、当人たちは正規の仲介業者に多額の金を払って依頼したと思っていた。孤児の引き取りは親としての育児が出来ることを問われるからな。金だけ払って乳母に任せる、というタイプだと審査が通らないのだが、それは認知していなかったようだ。違法ではあるが、孤児院に戻すかは経過措置を見て取の形になるだろう。コーウェン院長にもその形で内示する予定だ」


「まぁ、リタさんはそれを聞いても困るでしょうけど」


「だろうな。判断つかんだろう。様子を見に行きたいという孤児院のメンバーは出るだろうから、所在地は教えることに成るだろうがそれくらいだ」


「ケアとしては十分と思います」


こう言うの、臨機応変に対応してくれるのはありがたい。全部面倒を見てはいられない。


「それでもう一人の方だが……国外に連れ出されている可能性がある」


「国外ですか?」


「ミラージュの関係者一名を捕獲に成功した。子供を王都外へ移送する役目を引き受けていた男だ。そいつが言うには、引き渡した相手は商人風の男で、クーロン訛りがあったらしい。南へ行くと言っていたと証言している」


「クーロン皇国ですか」


「うむ。その男も詳しくは知らないようだ。下っ端だな。行政手続き無視の養子については証言したが、奴隷売買については否定している。子供には親が居るべきだ!とか、王国は養子手続きを現実に見合ったものに!とか訴えていた。自供で判明した罪状から鉱山送りを予定しているが、会うかね?」


「特に興味はないです。貴重な労働力に成ってくれるならまあ、良いんじゃないでしょうか」


火あぶりにされないだけ平和だ。


「どうせ思想は変わらん。絞首刑にでもした方があとくされが無いと思うのだが、刑事罰に口を挟むのは騎士のやる事では無いのでな。一応、君の進言は伝えたが、判決への影響はないと思うぞ」


「それで労役なら、特に異論はありません」


ミラージュの犯罪は計画者以外は皆、軽犯罪で関係者が無茶苦茶多い、とかがザラだ。

本人たちに罪の意識が無いことも多いが、全員絞首刑にしていたら労働力がもったいない。


「現時点で分かって居るのはそのくらいだ。現在王都の出入りではミラージュの関係者であるかのチェックをしているが、効率が悪い上に当りが無い」


「あいつらその内名前変えたりしますからね。必死になって追いかけても効率が悪いです。叩き潰す手立ては思いつかないので、ほかに支障が出ない様に都合つけながらやるしかないでしょう」


真偽官のスキルだって、大多数は無限に使い続けられるわけでは無い。今のような出入り全チェックは実際のところ困難なのだ。

相手がことを起こすまでは動けない。気長にやって貰うしかない。


「……ところで、本当に王都を発つのか?」


「ええ、まだ時期は決めていませんが……冬の間には。南東の群島かクーロン方向へ行くことに成ると思います」


タリアの巫女への転職もあるし、この辺は冬の寒さが厳しいらしいからね。あったかい所に行きたい。


「春まで待たないのか?冬の移動は堪えるぞ」


「堪えないように、何か移動が楽になるアイテムは考えようと思っていますよ。出発時に図面位残していくと思うので、その際はお引き取りをお願いします」


「……その前に何としても商会を建てていけ。名は貸すと言ったが、全部面倒見ると言った覚えは無い」


「善処します」


とりあえず、王都での一大イベントはこれにて閉幕だ。

特使なんて肩書をつけられたが、実質名前だけ。大きな問題には成らないだろう。

貧民街の育成サイクルを回せるように仕上げて、次のステップに進みましょうか。

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