第130話 クロノス国王特使の任命
「……
さて、この質問をどう受け取ろう。
レベル99へ至るのはどのように大変か、それともレベル99とは何ができるか……多分質問の意図は違うのだろう。
「強力無比、と言ったところでしょうか」
多分、この答えが国王の望む回答に一番近いのだろう。
「それはステータス恩恵か?それともスキルか?そのいずれかか?」
「あえて言うならスキルでしょうか」
「であれば、それについて語って見せよ」
また難しい注文を付けてくる。
「……私が知るモノ、知らぬモノ、多様ではありますが……すべての職業には
1次職の1つ目をレベル50にした後、他の1次職や2次職でそのスキルが使えるか否かは、すべてこのシナジーに関わって来る。
「シナジーがあるとは、これすなわち同じ目的、あるいは方針に基づいて職業が定義されているという事です。例えば戦士と剣士、魔術師と魔導士と言った具合に、1次職間でもシナジーがある物は多数発見されております」
「極めるとは、すなわちこのシナジーを無視することにほかなりません。すべてのスキルが定着するとは、すなわちどの職においても前職のスキルを100%使えるという事。魔術師から剣士へ転職すれば、2次職である魔剣士と同じような戦い方が可能になるでしょう。ですがそれにとどまりません」
このスキルの定着で最も大きな恩恵を受けるのは、
「シナジーの無視、これによって在り得ないスキルの利用が可能になります。既にお耳にしておられるかもしれませんが、戦士のスキルである修練理解や各種ブレイク系、さらには魔物特攻と言ったスキルを有するエンチャントアイテムが作成可能です。また、私は最近錬金術師に転職したのですが、こちらは戦士の比ではありません」
「待ちたまえ、貴殿は最近、
「宰相閣下、その認識であっております。ただ、王都へ来る最中に
「アインス男爵?」
「先日報告は上げさせていただいております」
宰相閣下が渋い顔をしている。話をしたのはだいぶ後だったからな。情報が行っていなかったか。
「かゆい所に手が届く、と申しましょうか。
実際のところは、俺はまだ
俺の場合、INTに対して魔力操作が低いので、錬金術師がマジックアイテムを作る際に必要なノイズの無い繊細な魔力操作が出来なかった。まさかINTの高さがデメリットに成るとは思ってなかったよ。
「王国内でこの二職を極める者が出れば、さらなる発展が望めましょう。そのために必要なレベル上げを手助けするアイテムは、すでに準備されております」
「封魔弾か」
出来る限り大仰にうなづく。
実際、封魔弾は冒険者のレベル上げに使うために作ったからな。51レベル以上が出来て、その価値はさらに上がった。
これまでは実戦経験を積むのと並行したレベル上げが主流だったが、これからはスキル定着を目的としたレベル上げを行う人も出てくるだろう。
「他にも便利なスキルを持っている職業は多いです。お勧めは
「……街に出入りする者の全員チェックは困難じゃな。一部の職は自由に転職できぬよう制限を掛けるべきかもしれぬが……」
「神の御心には反しますので、その辺りの判断はお任せします。もしかしたら、その辺りのスキルもマジックアイテム化出来るようになるかもしれませんね。私はやりませんが。しかし可能性は無限の広がりを見せております」
真偽官の方に視線を流しながら、多分出来るだろうと予測する。
俺は素質的には成れるだろうが、なることは無いだろう。
「確かに、まだまだ未知のモノであるな。ところで、戦士の51レベルを目指さなかった理由を聞いても良いか?」
「宰相閣下、それは自明でございましょう。これ以上悪目立ちすることに何の得が?」
最初に51レベルに成った者は全国津々浦々に神の声で知らされるのだ。2つ目とか、各国で指名手配されるレベルの事態に成るに決まってる。
「ふむ。可能性は無限か。なるほど、確かにそうじゃな。
「ありがたきお言葉」
陛下もこれで納得してくれるかな?
「しかして、儂は王として思うのじゃ。そのような其方に何の後ろ盾も与えず、尋常なる冒険者として見過ごす事は、王として愚鈍に劣る所業ではないかとの」
おっと、ちょっと待ってくださいよ陛下。いったい何を言い出すおつもりですかね?
「そこでじゃ、ワタル・リターナー。汝を当代クロノス国王の命に置いて、国王特使に任ずる。……言っておくが、拒否権は無いぞ?」
「……国王特使ですか?」
この国にそんな役職があった覚えがない。
集合知で調べれば出てくるか……いやまで、真偽官の居るこの場でそれはまずい。これは調べちゃダメな奴だ。
「知らぬのも無理はない。儂も王家の書庫をひっくり返して、ようやく見つけた文献に乗っておった。そもそも500年ほど前の文献で、建国以来の例が無いからの。しかし我が国の法を踏まえれば有効な役職じゃ。汝は対国外に向けては、クロノス国王、つまり儂の代理人となる」
「……は?」
「公使は国内の代理人。大使は国内と国外を兼ねる。特使は国外のみの代理人じゃな」
ちょっと待ってほしい。
「陛下の代理人ですか?つまり私の行った事はすべて、陛下の行いに成ると」
「そういう事じゃな」
「いやいや、そうじゃな。ではありませんよ。宰相閣下が鳩が豆鉄砲を食った顔してますよ」
「あ、え、おっほん。私は陛下のお言葉に口を挟む立場にありませんゆえ」
いや、あんた以外誰が口を挟むっていうんだ。
「仮に私が他国に喧嘩を売った場合、陛下が喧嘩を売ったことに成るわけですよね?」
「うむ。その通りじゃな」
その通りじゃねぇよ。いや、高々ちょっと強い冒険者に与える立場じゃない。
「しかして、儂は国王であるが行政の長ではない。立場としては象徴に近い。つまりな、汝が他国にたてついたとて、それは儂がたてついただけで、王国の総意ではない。問題があったら、ザイアスが国王は耄碌していると返せばよいだけのことぞ」
おおい!なんか無茶苦茶言い出したぞ!
ザイアス宰相、そこで目をそらさないでくださいよ!
「どうせ外に出るつもりなら、国内の後ろ盾はアインスで十分じゃろ。特使であれば国外では国王が後ろ盾という事になる。ついでに、国外で爵位を授受することも出来ん。それは儂に爵位を授受するのと同義だからの。事実上、取り込みは不可じゃ」
そりゃ、自国の政治に他国の指導者を取り込む輩はいねぇわ。
「なに、立場が必要な時だけ使えばよい。魔よけのお守りのようなものじゃ。我が国としても、汝を無手で手放すなどという愚かなことをしたと、他国から嘲笑されるのを防げる。汝にもメリットがあるぞ。儂の年間予算から100万Gまでは好きに使うことを許そう。ついでに宝物庫から欲しい物を一つ二つ持って行くが良い。代わりに、特使として行使した権限や所在地は定期的に報告してもらうがの」
くそ、メリットもそれなりに大きい。しかも、王命は国内に居る限り拒否権も
……まあ、聞く限りデメリットはそう多くないか。100万Gの予算は普通にありがたいし、宝物庫の中身も気になる所。
「……特使の任、ありがたく承りいたします」
「うむ。任の詳細は追って文書で提示する。これからも王国の発展への尽力を期待するぞ。儂からは以上じゃ」
「……それでは、これにて本面談を閉幕とする。陛下が退出成される、皆の者、礼」
言いたい事だけ言って、クロノス国王陛下は去っていった。
畜生。最後でなんか余計なもの背負わされた気がする。
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